宣戦布告
今までの話もちょくちょく修正をかけていますが、これも技量不足です。ですが、どんどん投稿させますのでよろしくお願いします。技量不足ですみません。
東京の駐屯基地に設置された聖寮の執務室にある男がダッシュで猛然と迫っていた。男が一度執務室のドアの前に立つと、年のせいか激しく息を切らしている。男はしばらく息を整えた後にドアをノックした。
「入れ」
ドアの向こう側から若い青年の声が響き、了承を得ると男はドアを勢いよく開いた。その目の先には男が仕えるルヴィス・ラウ・ガルヴァスが机の後ろに座っていた。
「どうしたんだ、急に? また、そんなに慌てて」
「も、申し訳ございません、殿下」
ルヴィスが何やら疑問を抱えるが、彼の前に立つ男、ケヴィルは一言謝罪する。ケヴィルの様子がおかしいと思ったルヴィスは気遣うように言葉をかける。
「何があった?」
「実は、例の黒いシュナイダーが現れました」
「何だと!?」
「どうやら、我々がいる地点とは異なる地域に現れたとの報告がありました」
黒いシュナイダーとは、もちろんアルティメス・クロウである。自分たちを苦しめた相手がまた現れたことにルヴィスは内心驚きに包まれた。だが、そんな興味よりも襲われた基地にいるガルヴァス兵士たちの安否を確かめようとする。
「で、どうなった?」
「…………!」
「?」
ルヴィスが質問を投げかけるが、ケヴィルはいきなり苦悶の表情を浮かべる。どうやら彼らには悪い意味での報告だ。その予想通り、衝撃的な出来事であった。
「……黒いシュナイダーは基地に現れると攻撃を敢行、シュナイダー部隊が迎撃に向かいましたがまもなく撃墜され、基地機能は停止、基地を壊滅寸前にまでやられたとのことです……!」
「…………! その後は……?」
「例の機体は基地から白旗が出るとさっさと撤退しました。まるで興味を無くしたかように……。ちなみに基地はもう、稼働もできず、廃棄するしかない状態です。当然、残された士官らも別の基地へ移動を開始させたようです」
ケヴィルの報告にルヴィスはその場で左手を頭に抱え、顔を下に向ける。こんなことは今までなかったはずだが、経験してみるとこんなに苦しいことだと彼は実感した。基地をたった一機で襲撃し、あまつさえ陥落させてしまう自体、頭を悩ませる要因にもなった。
「何てことだ……! 我々に泥を塗っただけでなく、基地を壊滅させるとは……!」
「……誠に申しにくことですが……」
「……まだあるのか!」
「どうやら襲撃をかけた国に潜伏していたと思われる他のシュナイダーも同時に動き出し、各地に建設させていた軍事基地も攻撃を受けました。……同様に基地は壊滅に追い込まれたそうです。残っていた士官たちは物資とともにそこから撤退し、別の基地へ移動しました」
頭を抱えるルヴィスに、さらに追い打ちをかけるようにケヴィルが報告を続けた。報告をしたケヴィルも表情を曇らせる。
クリムゾンに乗る茜たちも基地機能を停止に追い込むまで暴れたらしく、彼らが去る頃には人間の死体が転がるかのようにディルオスの残骸が大量に残っていたそうだ。これでは基地の機能を再稼働させそうにもない。もはや手を打つことさえできないのである。
ルヴィスはケヴィルの報告を頭に入れる中で、一つの可能性を浮かべると両目を大きく開かせた。
「同時にだと……!? まさか、奴らは個人ではなく組織で動いているというのか……!?」
ルヴィスの言葉にケヴィルも思わず驚きの表情をとる。ルヴィスはこの行動はいつまで続くのかと脅威を感じるかのように体を震わせ、戦慄するしかなかった。
時は過ぎて夕暮れ。太陽がビルといった建築物が並ぶ街中に隠れる中、空は緋色に染まっていた。街中は仕事を終え、帰宅の一途を迎えた社会人がいたり、主婦がスーパーなどの店に入るように歩くなど、賑わっている。数時間前までに異なる地帯で戦闘が起きていたことなど知らない様子であった。
町中を歩く彼らは当然、ガルヴァス人であり、その中にいた日本人たちは空気にもなったかの様子で歩いていた。
その街中から外れていた一月学園は、街中と同様に賑わっていた。それは授業を終え、放課後を迎える中、一部の生徒が学生寮へ戻ったり、部活動へ参加していたりと学生生活を満喫していた。
もっとも学園には生徒会と呼ばれる組織がいるが、あまり機能していなかった。その理由はこの学園に通っているガルヴァス人はもともと移民者であり少数派でもあるため、生徒会は日本人だけで構成されていた。しかし、彼らが規律を正そうとしてもガルヴァス人はそれを聞こうとせず、逆に自分たちが新たに規律を作る者もいた。
その結果、生徒会はガルヴァス人を正すこともできなくなってしまい、既にお飾りの状態となっていた。これもガルヴァス帝国に支配を受けた影響であることは間違いなかった。だが、これを思わないガルヴァスの生徒もいた。ただ、裏切り者と思われたくないのか積極的に言葉に出すことができず、流されるしかなかった。その中にはある一人の少女もいた。
学園の教室にはいくつか存在し、生徒会や部活動として利用されているのもあった。その中の一つである科学室には、科学部に所属している学生たちと顧問である男性教師がいた。科学室には大きな机に加え、両側に椅子が二つずつ置かれていて、そこに科学部の学生たちが座っていた。
学生たちの正面には壁の一部として大きな黒板があり、その近くに顧問の日本人の男性教師が立っている。今そこに一人の少女が黒板に回答を書こうとしていた。
「この回答で……正解ですよね?」
「あ、ああ……正解だ」
黒板の前に立っていた少女、エルマ・ラフィールは教師が出した問題を右手に持っていた白のチョークで黒板に計算式を書き、確認を取らせた。教師が確認を終えるとすぐに自分が座っていた席に着く。教師は自分が出した問題を解いたことに驚きを隠せず、乾いた声を出すしかなかった。
彼が出した問題は学生が解くには難しいものだったが、エルマは難なくと回答を出してしまったからである。彼女とは違う机で、その様子を見ていた二人の男子学生がコソコソと話し合う。
「やっぱ、すげえよな」
「ホント、天才ってこういうこと言うんだな」
彼女は自分に視線を向ける生徒たちにも目をくれず、一度両目をつぶった。
(当然よ。――私にはやらないといけないことがあるの。なぜなら、お父さんの"意思"を継がなきゃならないのだから……)
エルマが決意を改めるかのように目をゆっくりと開く。だがその決意には何故か悲しみにも似た、冷たいものが含まれていた。どうやら彼女には、成し遂げなければならない願いのようなものがあるのだろう。その瞳には強い炎とそれに相反する感情が共に宿していた。
そんな中、突然教室のドアが開かれる。大きな音が立ち、学生たちの視線がその方向へ向けるとドアの前に一人の日本人の男性生徒が息を切らしながら立っていた。
「どうしたんだ?」
教師が心配そうに声をかけるが、男性生徒の返答は意外なものであった。
「みんな! テレビを見てくれないか!」
「?」
学生たちが何かあったのかと慌ただしく騒ぐ中、エルマは不思議そうな表情で、持っていたスマートフォンのテレビを点ける。
「え……!?」
テレビには驚愕の映像が映り、彼女は思わず驚愕の表情に変わる。それは世界が変わる瞬間を目撃することになる予感であった。
時は数十分前に遡る。
夕暮れの中、活気づいていた街中で販促品としてショーケースの中に置かれたり、食事処などに設置されているテレビを一部の市民がチラリと目を向けたり、じっくりと見ていた。そのテレビに映る映像は、いつものようにニュースなどを流している。もちろん、ビルなどの巨大な建物にも液晶が取り付けられており、そこから映像を映していた。
いつものように交差点を見下ろす建物から明日の天気などの映像を流していたが、いきなり女性のアナウンサーとその前に置かれているテーブルを映す映像へと切り替わった。
映像に少しだけ目を向けた後に建物を通り過ぎようとしていた一人の若者は、突如として切り替わった映像に一度足を止めて凝視する。その周囲にいた若者たちもまるで伝染するかように足を止め、映像に視線を集めていた。その異変に複数の若者たちは互いの顔を向けたり、口を片手で塞いだりと何やら困惑した様子を見せ始める。
『突然ですが、ここで臨時ニュースに入ります。』
アナウンサーが真剣な表情で市民に伝える。その言葉に市民らは一層騒がせる。
「一体、何なの?」
「まさか、また新たな感染者?」
何やら物騒な言葉を発する者もいたが、彼らにとっては日常茶飯事であった。それは新たにギャリアウイルスの感染者が発見したり、テロリストが軍事基地を襲撃したりとニュースで発表されることがほとんどであった。
もっとも、前者はそのニュースに冷や汗を浮かべる者も多数存在していた。彼らにとってギャリアウイルスは、人類を絶滅に追い込ませる印象があったため、恐怖を植えつけられていた。それは、まさしく弱みといっても過言ではない。ガルヴァス帝国が各国に宣戦布告を行った理由の大半は、それである。
一方、後者は常日頃、近くに爆発音があったり、ニュースが出たりといつものことだとバッサリと切り捨てる者がいた。前者とは、明らかに掌を返すような反応だ。もちろん過去に映し出された街頭インタビューでも、その反応を口にする若者がほとんどであり、それを生やテレビなどで見ていた日本人にとっては、口を塞ぐ様子で滅多にない複雑な感情を見せる。
しかし、次にアナウンサーが発した言葉は今までにない、意外なものであった。
『本日、我々ニュース会社に何らかの声明と思われる映像が送られてきました。これよりその声明を流したいと思います』
アナウンサーの言葉に拍子抜けたのか、その映像を見ていた市民らは鳩に豆鉄砲を食らったように目を丸くしていた。
するとアナウンサーからあるものへとまた映像が切り替わる。そこには何もなく真っ白に映る紙の中心に、対照的に黒く染まった赤い目のカラスが羽と体を支える日本の足を広げたポーズを構えていた。市民はいきなり現れた映像に思わずビックリし、目を大きく開かせる。さらに彼らは更なる衝撃が襲いかかる。
『我らは、《独立武装組織レイヴンイエーガーズ》! この世界の裏側に存在し、腐敗を喰らう者だ!』
そして、時は戻る。
声明から発せられた発言は、日本に、いや世界中にいる者たちにとって、あまりにも衝撃的であった。その発言を聞いていた若者たちは、その衝撃を受け、言葉の一つすら出なかった。若者だけでなく同じくその映像を見ていたエルマや刀牙、佳奈を含めた一月学園の生徒たち、今聖寮にいるルヴィス、そこの近くにある格納庫にいたガルヴァーニとメリア、そして、東京を脱出し、日本軍がいる場所へ山の中でトラックとトレーラーを進ませていた日下部を含むレジスタンスも、思わず凝視していた。
トレーラーを運転していた中年の男が左隣の助手席に座る片桐春馬に声をかける。東京を脱出する際、トレーラーを運転していた男だ。
「おい、これって……」
「間違いない、コイツだ」
片桐はあの時、自分の窮地を救っていたシュナイダーの左肩にあるカラスの姿が、ハンドルの左側にある液晶に映る映像にピタリと当てはまっていたからだ。疑いようもないと。
『本当なのか!?』
『ああ』
片桐が持つトランシーバーから日下部の驚くような声が響く。片桐も通信越しに日下部に声を届かせる。
「でも、何の目的が……?」
「知るかよ」
日下部がトラックを運転する中、疑問を片桐へ向けるが、答えはそっけなく断られた。
『この世界は、歪んでいる! かつては滅ぶ運命に立ち向かい、生き残ったにも関わらず、今度は他国の大地を踏みにじり続けているということが! こんなにも愚かであることをなぜ気づかないのか!? 否、気付いているフリをして目を背けているだけである!』
声明は現在も続いていた。その言葉を聞いていた市民らはいつの間にか、しかめるような表情をしていた。中には好き放題言いやがって、と心の中で悪態をつく者もいる。しかし、これらの声明はすべて的を射ており、市民らは言葉が出ず、ただ心に突き刺さりつつも見守っていた。特にガルヴァスの支配に抵抗する者には内心うなづき、真剣な表情を見せている。また、悲壮感に溢れる表情で無言のまま顔を下に向く者もいた。
『我々は、その過程で世界から弾き出された! 平和を再生させ、秩序を生み出す生贄として命を捧げることを強要されたのだ! 故に、立ち上がった。あまりにも腐ったこの世界を喰らうための――"カラス"として生まれ変わったのだ! そして今! この世界は我々が断罪するとここに誓う!』
その発言に、誰もが息を飲んだ。レールの上を走る列車を乗せた一人の青年を除いて。
青年は左手の掌に収まるスマートフォンから映し出される声明を聞くと口を三日月の形を作り、怪しい笑みを浮かべた。
青年がいる空間から離れた列車の後部には、とある荷物を収納させたコンテナを運んでいた。その中には荷物にしては大きすぎるものであり、ゆっくりと車体を揺らしながら微動だにしないものが置かれていた。よくよく見ると足や腕が見え、その先には頭がついていた。これは誰も見たことがない巨人――シュナイダーであると。
また新たなキャラやシュナイダーがありました。これは何やら一波乱ありそうなことだということを思ってください。ではまた。