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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第1章 羽ばたく鴉
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恐怖

 ハルディから指示されたアジア連邦の一角に位置するガルヴァス帝国の軍事基地に襲撃をかけた茜は、クリムゾンと共にディルオスをヒートソードで次々と撃墜させていた。そして、今も戦闘の真っ只中であった。

「――キリがないわねっ、本当に!」

 この現状に対して茜は苦虫を潰す表情で思わず悪態をつく。すぐに終わらすと意気込んでいたが、予定と異なっていることが裏目に出てしまったようだ。

 しかし、クリムゾンの周囲には自分に味方する者は誰もおらず、そこにあったのは今まで撃墜されたディルオスの残骸と自身の逃げ場を塞ぐように包囲している大量のディルオスだけであった。余裕がない割にはかなりの戦果ではあるが、相手が弱いことも理由だろう。

 茜が正面にいる敵に対応している時に、背後にディルオスがバトルアックスを構えて襲いかかってくる。

「!」

 その不意打ちに気づいた茜はクリムゾンの脚部にあるスラスターを噴射させ、ホバー移動でディルオスの背後に回り込むように機体ごと左に回転させて攻撃を躱す。

『!』

 躱されたディルオスは目の前にいた標的がいきなり姿が消えたことに思わず驚嘆する。もちろん、背中に回られたことには気づいていない。クリムゾンはその勢いのまま右手に持っていたヒートソードで右から斬りかかり、態勢を立て直そうとするディルオスの胴体部を一瞬で斬り払う。

 胴体部を斬られたディルオスは一体何が起きたのか分からないまま、上半身が斬撃が刻まれた痕の上から左へスライドし、爆散される。残った下半身は爆発の勢いでバランスを失い、そのままクリムゾンの前に倒れ込んだ。

 アドヴェンダーは不意打ちを喰らわせようと思ったようだが、茜とクリムゾンにそのようなことなど通用するはずがなく逆に返り討ちにされ、その命を無残に散らした。

 茜はそれを見やることもせずにレバーを動かし、クリムゾンの背中にあるスラスターが噴射させ、直線上にいる大量のディルオスに向かっていく。

「クリムゾンの武器がこの剣だけとは思わないでよねっ!!」

 無謀にも見える行動ではあるが、茜は理解していないわけではない。一旦、ヒートソードをクリムゾンの両腰に仕舞い、左腕を前に突き出すと肘のあたりから二発のグレネード弾が発射され、その前方にいた一機のディルオスに命中し、爆散させる。

 実はクリムゾンの両ヒジには二発ずつ発射できる、実弾武装の"腕部グレネードランチャー"が装備されていて、これもこの機体が持つ数少ない射撃武装でもあった。

 この機体のコンセプトは高機動による接近戦を想定させているため、必然的に射撃武装が少なくなってしまったのである。ただ、武装を追加させようとしても重量がかさんでしまうことや、何よりアドヴェンダーの負担も掛かってくるのだ。

 なので射撃武装を少なくし、それらを機体に内蔵される方針となった。これにより姿勢制御用のスラスターも搭載しやすくなり、急激な方向転換も可能となったのである。

「ハァッ!」

 茜が右のレバーを動かすとクリムゾンは、平手のまま右腕を背中から降り出すように前に付き出す。その腕の内側から細い灰色のムチ"エレクトロウィップ"が飛び出し、遠い距離にいたディルオスの頭部に絡みつく。

「フッ……!」

 茜が右のレバーの親指で抑えている赤いボタンを押すとウィップが赤く変色し始める。さらに青白いプラズマがウィップに伝わり、その先端へと辿りつくと先端部に絡みついていたディルオスは頭部から全身にかけて高圧の電流を直接浴びてしまう。

『グアアアッ――!!』

 当然、そのコクピットに座っていたアドヴェンダーも外部から内部へ電流を直接浴び、阿鼻叫喚のごとく断末魔に近い声を出していた。

 電流が収まると茜はムチを解き、腕の中に収納させる。そして、ディルオスは火花を撒き散らし、機体の関節部から灰色の煙を起こしながら、その場で地面にうつ伏せになって倒れる。

 その内部にあるコクピットは電流によってパネルの一部がスパークを起こし、シートに座っていたアドヴェンダーもピクピクと小刻みに震えていた。逃げ場がなかったためか、かなりのダメージを与えたことを物語っている。

『バ、バカな……!』

『オ、オイ! しっかりしろ!』

 その周辺にいたアドヴェンダーたちも驚き、その一人が気絶しているアドヴェンダーに通信で声をかけるが、その声に応えることができず、そのまま意識を失った。この光景を見て、ディルオスに乗るアドヴェンダーは戦慄する。

 多数のディルオスはそれに意識を向けているが、茜は息つく暇を与えず、再びエレクトロウィップを左から振り回す。ディルオスは胴体部を狙われていることを知るとシールドで防いで耐えようとするが、ウィップに流れる電流を防ぐことができず、機体はダメージを受けた。

 クリムゾンはそれを止めることをせず、相手を痛めつけるようにウィップをディルオスへ叩き続けた。

「!」

 クリムゾンが攻撃をしている最中、左横から大きく離れていたディルオスはマシンガンをクリムゾンに向けて弾丸を撃ち込むが、茜はスラスターを噴出させ、ジャンプして躱した。

 銃弾がそのまま地面に撃ち込まれる中、茜は上空に飛び上がったまま、二振りのヒートソードを再びクリムゾンの両手に取り、そのディルオスの上空から地面に落下するように斬りかかる。

「ハアアアッ――!」

 クリムゾンが着地すると同時に斬り下ろし、ディルオスは両腕を肩の関節部からバッサリと斬られ、そのまま仰向けになるように地面に倒れ込んだ。

 茜はその場で右腕を前に出し、もう一つの武装である四連装腕部ビームガンを発射する。腕を突き出した方向にいたディルオスはシールドを前に出す暇すらなく、そのままビームガンから発射されたビームの弾丸をまともに喰らい、爆散される。

 その後、三度みたびクリムゾンの背後にディルオスが襲いかかるが、またもそれに反応した茜は瞬時にクリムゾンの右手に掴んでいるヒートソードを逆手に持ち替える。そして、右足を一歩後ろに回すと、そのままディルオスの胴体部を貫く。

「ホント、後ろから襲いかかるなんて、――サイッテー」

 茜は顔を後ろに回し、肩越しで相手を虫ケラのように侮蔑する目つきで怒りをぶつける。何度も後ろから襲われたり、真剣勝負に水を差された感じであり、さらに表情は周囲の温度とは反比例して冷たくなっていく。

 胴体部を貫かれたディルオスはその傷痕からスパークが走る。クリムゾンがヒートソードを引き抜き、ホバー移動で離れるとディルオスは一泊おいて爆散した。

「さ……続けるよ」

 茜はそれを無視し、相手に憎しみをぶつけるように怒りを込め、両手に添えていたレバーのグリップ部を握り締める。その感情に反応するかのように、クリムゾンは再び右手のヒートソードを鍔が上になるように持ち替え、そのままディルオスへ直進していった。

 頭から二本もの角が出て、得物を振り回すその姿はまさしく悪鬼そのものであった。



 ルーヴェはクロウと共に東京から離れ、別の地域に設置されている軍事基地に向かうため、誰にも見つからないように滑空を続けていた。最も上空には飛行機も飛んでおらず、地上からはそれが鳥か、もしくは戦闘機にも見えなくはない。例えそれが自分たちが敵対する者とは思わず……。

「! 見えた……!」

 ルーヴェは自身の目の先に目標である軍事基地を発見すると獲物を見つけ、襲いかかろうと思わせるようにすぐに目標へ降下していった。

 その頃、軍事基地では警報が鳴り響き、基地に所属していたガルヴァス士官らが基地に建てられている格納庫へと走っていた。

「何なんだよ、一体……!」

「なんか、訳のわからないモノが現れたってさ……!」

「何だと!?」

 この基地に所属するガルヴァス軍の士官らが慌てて持ち場に就こうとする中、格納庫へ向かおうとしていた士官の一人が同じ士官へ質問を向ける。しかし、返答は答えにもなっておらず、はぐらかされてしまう。

 そして、基地の中心に設置されていた敷地に何かが降り立ち、何かが叩きつけられたような大きな音を立てるとそれに気付いた二人は後ろへ振り向く。二人の目に入ったのは翼を生やした黒い人形の物体、アルティメス・クロウであった。

「な、何だ、あれは……!?」

 士官の一人が疑問を投げるが、当然答える者はいなかった。

 なぜならそれは、彼らにとって未知の存在であったのだ。だが、クロウがその場所に現れたことはすなわち、彼らの運命は既に決まっていたことになるのを知らない。もっとも、これから知る事になるのだ。不幸という名の理不尽を纏って……。

 格納庫から複数ものディルオスが駆け抜けてきて、ルーヴェの前に立ちはだかるように横一列に並んだ。ディルオスの手に持つマシンガンはいつでも引き金を引くことができるのだと常にクロウを捉えていた。

『そこの所属不明機、名乗ってもらおうか! ただちに武装を解除し、投降せよ! もし抵抗するならば、その機体を捕獲させてもらう!』

「…………」

 複数ものディルオスの中の一機からアドヴェンダーの声が響く。だが、ルーヴェは答えようともせず、見ただけでもわかる、不機嫌そうな表情を見せる。

(答える言葉なんかないよ……。まあ、運がよければの話だけど……)

 一つも言葉にはしていないもののルーヴェの心の中は、明らかに不機嫌であると同時に、どこか寂しさを漂わせていた。彼が思う"知る事"とは、この先の未来に大きく影響することだけは理解できるだろう。

 しかし、それを尋ねたところで、彼は答えることはない。なぜなら生き残ればの話だ。

 クロウはゆっくりとライフルを所持した右腕を上げ、銃口を前方にいるディルオスへ向けるとそのディルオスはビクッと反応した。それは機械で出来ているのにまるで人間のような反応である。

『!』

 突如、ライフルの銃口から青白いビームが放たれ、直線を描きつつディルオスの胸部を貫いた。貫かれた穴からはクロウが見え、銃口から白煙が昇る中、貫かれたディルオスはそのまま爆散した。

『なっ――!』

 その右隣にいたディルオスの頭部は爆散したディルオスの方向へ向け、アドヴェンダーは思わず声を上げる。

『キ、キサマッ――!!」

 複数ものディルオスらはマシンガンを構えて一斉射を行う。だが、クロウは上空へジャンプするように躱し、ディルオスは思わず頭部を上げる。

 クロウは重力をまったく感じさせない様子で空中に佇み、ライフルを再び構えてビームを数発、ディルオスに向けて発射する。数発ものビームはそのまま自分に視線を向けている、同じ数のディルオスを貫いていき、爆散させていく。

「!」

 ルーヴェは横一列に並んでいたディルオスを片付けた後、視線を前を向けるとまた新たなディルオスが数機、格納庫から駆けつけた。ディルオスは一度ブレーキをかけ、右手に所持しているバズーカを肩に担いで照準をクロウへ向け、そのまま弾頭を発射する。

 コクピット内でアラートが鳴る中、ルーヴェはクロウの肩部にあるマシンキャノンを使用し、銃口から実弾を数十発も発射する。発射された実弾はそのまま弾頭に直撃し、クロウに届く前に爆散されていく。

「…………」

 ルーヴェは感情の一つすら出てこない真顔のまま、クロウのライフルを右腰に仕舞い、左手で左腰の鞘を掴む。そのまま右手を太刀の柄を掴んで引き抜くと地上にいるディルオスらへ向かっていく。

 クロウは両足を前に出すように体勢を変え、太刀を上から振り下ろす。綺麗に描かれた太刀筋はそのままディルオスに映り込み、右半身が上に、左半身が下にスライドしていき、斬られた断面からスパークを起こした後、ディルオスは爆散した。

『ディルオスが、真っ二つに……!?』

『こんなのあり得るわけが……!?』

『待て! たしか、コイツは――東京に現れた黒いシュナイダーだ!』

『!』

 ディルオスのアドヴェンダーが何か思い出した様子で他のアドヴェンダー達を静止させる。その声に反応したアドヴェンダーたちは一斉にディルオスの頭部を後ろに振り向かせた。

『本当なのか!?』

『ああ! 照合をかけてみたが、東京に現れたのと一致している!』

『マジかよ……』

 アドヴェンダーの一人が驚く中、一機のディルオスが頭部を再び前に向けるといきなりクロウが直進してきた。クロウは太刀の刃先を左に構えた、いわゆる"居合の構え"でディルオスへ向かっていく。

『!』

 その様子にディルオスは思わずたじろぎ、右足を一歩後ろに踏み出す。

 クロウがそのディルオスの手前まで行くと右足を踏み出し、その勢いで太刀を左から右へ振り抜く。

振り抜かれた太刀筋はそのままディルオスの胴体部へ描かれ、真っ二つに分かれる。その奥からはクロウが見え、その上にあった上半身はスパークを起こした後に爆散し、下半身は怯むこともなく、そのまま立ち往生となった。

「…………!」

 ルーヴェは視線を変えると何かを見つけた様子であり、クロウを踏み込ませる。再び、"居合の構え"で手前にいた五機のディルオスへ向かっていく。五機のディルオスは目の前にいるクロウが自分たちに飛び込んでくることを感じた。逆に返り討ちにしようとタイミングを見計らって一斉に飛びかかった。

 だが、ルーヴェは見逃さなかった。彼の考えを汲み取ったのか、クロウはその場で一回転する。その後、右足を前に出した状態で地面に足をつけ、ブレーキをかける。

 そして、その勢いのまま太刀を右から振り抜く。その時、時間は本来の時間軸より遅く、緩やかに進み出し、スロー再生のごとくゆっくりと時が動いた。

 太刀は左側にいたディルオスの胴体部へ刃先を当て、それが通るとそのまま左へ振り抜き出す。そのディルオスは斬られたことを感じることなく胴体部を斬られ、クロウはそのまま一直線を描くようにその隣のディルオスへ向けて太刀を振る。

 当然そのディルオスも同じように胴体部を切られ、最後の一機になるまで斬りつける。最後の一機を斬り、刃先が通り抜けると右腕が横一直線に伸ばされた。

 鮮やかに切断された傷痕の上にあったディルオスの上半身は、先程まで繋がっていたはずの下半身の動きについてこれなくなり、空中で置きざりにされてしまう。もちろん、中にいたアドヴェンダーの意識は未だに斬られていたことに気づいていない。そして、時は本来の時間軸に戻る。

 ようやく世界が通常通りに時間が進み出すと、空中に漂っていた上半身はドドンと左から一斉に爆散する。その一方で残された下半身はすべて、飛び上がった勢いのままクロウを通り過ぎ、うつ伏せの状態でクロウの後ろが見える位置に次々と倒れ込んだ。

 もしこれが刀で生身の人間を斬ったならば、辺り一面が血の海となっていたかもしれない。そう思いたくなるような惨状であり、蹂躙という言葉が最も似合うだろう。

 だが空気を切り裂くような、その太刀筋は惚れ惚れするほど美しく、わずかコンマ数秒にも満たない時間ではあったが見る者を圧倒したのだ。

 爆炎から灰色の煙が立ち篭る中、クロウはゆっくりと足を動かし、煙を通っていく。その時に出た眼光は次の獲物を仕留めんとするものであった。

 その様子を見ていたディルオスのアドヴェンダーは誰でも分かるように表情を崩し、冷や汗をかきながら体を震わせていた。これは武者震いではなく、ある感情から来るものであった。当然、それを生み出したのは紛れもなくアルティメス・クロウであった。

「ば、化物……!」

 アドヴェンダーは思わず"異形"の意味を込めた言葉を口にしてしまうが、これは仕方ないだろう。今感じているのはまさしくそれである。これこそ、彼らが久しく味わっていなかった感情。それは戦慄と共にやってくるもの。それは――

 "恐怖"。

 無論、その感情を生み出していたのは、今彼らの目の前にいる翼を生やした黒い巨人。闇にも近しい、その禍々しい物体はまさしく、その"象徴"と呼べるだろう。それはカラスという不吉な存在を知らしめるようにガルヴァス軍は一瞬で不幸に陥れた。

 そう、この黒い天使、いやカラスが現れた時点で、既に運命は決まってしまっていたのだ。

 クロウが足を進め、武士が刃先についた血糊ちのりを払う動作で太刀を右に振り回す中、そこにまた新たなディルオスが駆けつけ、クロウの正面と両側に回り込んでくる。更なる不幸に見舞われることも知らずに。

(無駄なことを……)

 ルーヴェは能面のような表情に内心そう呟きつつ、スラスターを噴射させて再び正面にいるディルオスへ向かっていき、太刀を右斜めから振り下ろした。その後、この基地はたった一機のシュナイダーによって陥落した。


本当はクロウについて語らせたかったですが、都合上、次の話などに回しますのでご了承ください。

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