深緑の弾丸
あまり見られていないアルティメス・ヴェルデの武装を出します。
トワイライトがディルオスを一太刀で斬り伏せたことを目撃していた複数ののディルオスが目を丸くする中、一機のディルオスがリンドの視界の外から接近する。その手にはバトルアックスが握られていた。
それに気づいたリンドはゼクトロンブレードをしまい、ディルオスがいる方向に振り返る。
『オォオオオ!』
距離を詰めたディルオスがバトルアックスの刃をトワイライトに向けて振り下ろそうとする時、トワイライトの左手がそれを阻もうとする。だが、左手ごと斬り落とそうとディルオスはお構いなしに振り下ろす。
その時、ディルオスとトワイライトの間に光が走り、爆発が起きた。
「!?」
いったい何が起きたのかと思考が追い付かないディルオスの右手には細い棒のようなものが握られていた。いや、それはバトルアックスだったものがついていた柄であった。
一方、トワイライトの左手は光ったままだ。その光の正体はトワイライトから発したものだった。
未だに驚愕から覚めずにいたディルオスの隙を逃さなかったリンドはそのまま接近し、もう一度トワイライトの左手を突き出す。
『!』
ディルオスはトワイライトの手のひらに小さな穴が空けられていたことに気づくが、抵抗する暇もなく胸部を掴まれてしまう。そして、
「喰らえ」
ディルオスのコクピットから見えている映像は辺り一面を真っ白に染める光が見え、それに乗るアドヴェンダーはその光景を最後に意識を闇の中に沈めた。
それを後押しするようにディルオスの胸部は槍で貫かれたようにポッキリと穴が空けられ、爆発に巻き込まれた。その一連の出来事に周囲にいたアドヴェンダーたちは言葉を失い、時が止まったように立ち尽くしていた。
「遊びは終わりだよ……」
その直後、アレンは低くて冷たい声と共にトワイライトの背中に備えているスラスターを噴射させて飛び上がる。トワイライトは太陽を背にしながら背中にあるゼクトロン・ビームランチャーを展開し、砲身を目の先にいるディルオスに向ける。
リンドはコクピットの中で照準を合わせ、照準のマーカーが緑から赤に表示されると、
「発射!」
砲塔から青白い二つの閃光が放たれた。見る者すべての視界を真っ白に染める光である。
二つの閃光は放物線を描くことなく一直線に突き進み、狙撃するように二機のディルオスの胴体部を豪快に貫いた。貫かれたディルオスはそのまま爆散するが、閃光は未だに消えず、演習用のグラウンドを穿ちながら前に進み出す。その先にはディルオスが収納されている格納庫がある。
閃光はその中にあるものをお構いなしに格納庫を台風のごとく蹂躙し、内部が爆発していく。閃光が格納庫を通り過ぎるといきなり曲がり始め、それに合わせて線を描くように大地も穿たれていった。蹂躙が止まると、まるで一筆書きのごとく穿たれた線が無慈悲にも基地の地表に刻まれた。
『…………!』
蹂躙を避け、取り残されていた数機のディルオスは蹂躙された基地の惨状に唖然としたままである。言葉も出ず、畏怖によって背筋に凍らされたからだ。
基地を一方的に蹂躙されるなど彼らにとっては一度も経験しないものだったからか、どう対処すればよかったのかと理解が追い付いておらず、耐性などついていないのだ。それが今、露呈してしまった。
それを空から見下ろしていたリンドは何一つ表情を変えていなかった。
「……そろそろ、退がるとしますか。こんだけなら十分だし」
リンドの言う通り、地上のガルヴァス軍の動きはガタガタだった。本来ならどんな状況でも指示を出しているはずの指揮系統も混乱し、戦線も維持できなくなって戦意はすでに喪失したも当然だった。
リンドはそれを見て、もはや戦う気も失せる。これ以上の蹂躙は明らかに弱い者イジメに近かった。そして、リンドは彼らの視界から消すように基地を後にする。
トワイライトを飛行形態に変形させ、この場を去っていった。追撃をしなかったことはすなわち彼にとっての手心を加えた結果かもしれない。
音が止まることなく鳴り響く戦場から離れた静かな空には悠然と翼を広げ、飛翔を続ける黄色のカラスだけが羽ばたいていた。
黄昏が生み出した嵐は、ガルヴァス軍に大きな爪痕を残したのだった。
一方、ヴェルデに搭乗していたアレン・パプリックは、既にEU連合の一角に位置するもう一つのガルヴァス帝国の軍事基地へ到達し、攻撃を開始していた。その基地の規模は小さく周辺には茶色の土に大きな山などに囲まれ、肉眼では確認しづらい場所に基地を構えていた。
アレンはヴェルデを空中に静止させたまま基地が目視できる距離まで離れていた。
その間合いから頭部のスコープゴーグルを展開させ、ゼクトロン・スナイパーライフルで基地の機能を無力化させるために迎撃用の兵器を狙撃していた。その正確無比な射撃は一発も外すこともせず、次々と基地の機能を破壊させていく。まさに百発百中である。
基地の格納庫から出撃していた大勢のディルオスは、ヴェルデの攻撃を阻止しようとマシンガンやバズーカを構えて迎撃しようとするが、ディルオスの武装ではどれも射程が合わず、ただ近づかせないように距離を保たせることが精一杯だった。
『クソッ、距離が遠すぎる……!』
部隊の一人がコクピット内で悪態をつく中、基地の前方で武装を構えているディルオスを見ていたアレンは、その様子から既に彼らの心境を察していた。
「……そんな武装では、俺には当てられない」
近付く必要もないと言わんばかりにアレンはスコープの照準をディルオスへ変更し、レバーの赤いボタンを押すとゼクトロン・スナイパーライフルからビームが放たれ、綺麗な直線を描いてディルオスの胸部を貫いた。貫かれた機体はピクリとも動かず、仰向けに倒れて爆散する。
その顛末を隣で見ていたディルオスは、その前方へ首を振り向く。
『この、卑怯者め……!』
「わざわざ、あんたらの間合いに入る必要はない。ここで果てさせてもらう……」
ディルオスのアドヴェンダーは自分達の間合いに入らず、一方的に蹂躙されていくことに声を荒らげるが、アレンに一切届くことはなかった。そもそも性能が違いすぎるのだ。
一方、アレンは何の感傷に浸ることなく冷たい視線を向けたまま、ゼクトロン・スナイパーライフルでビームを撃ち込む。撃ち出された青白いエネルギー弾は正確にディルオスの胸部を貫通し、次々と撃墜させていく。彼にとっては的当て以外、何物ではなかった。
『だったら……!』
一機のディルオスがミサイルランチャーを構えて数発の小型ミサイルを発射させる。痺れを切らしたのか別の手段をとったのだろう。
ミサイルは目標に誘導されるようにそのままヴェルデに襲い掛かる。どうやら格納庫からわざわざ持ち出したらしく、ミサイルなら届くと思ったようだ。
「――っ!」
その願いが叶ったのか、ミサイルがアレンの視界に入ると彼は目を大きく見開いた。ミサイルがヴェルデに直撃しようとする時、ヴェルデは両肩部に搭載されたバルカン砲"マシンキャノン"の銃口から実弾を連射し、ミサイルを撃ち落とす。破壊されたミサイルは爆発し、丸い球状を作っていった。
マシンキャノンはヴェルデだけでなく実はクロウにも搭載されている。これはアルティメスの共通の武装であり、唯一の実弾装備でもあるからだ。主に敵の牽制を目的としているが、シュナイダーを破壊するほど威力は高い。牽制用としては破格の性能のため、もはや機動兵器のレベルを超越していた。
アレンはそのミサイルをすべて撃ち落として一拍置こうとしたその瞬間、コクピットにアラートが突然鳴り響く。それと同時に、アレンは頭の中によぎった何かを感じた。
「!」
愛機が危険を察知したことを知ったアレンは周囲に注意を向けようとすると、
ヒュン!
突然ヴェルデが爆発した。その直前に風を切ったような低い音が鳴ると大きな爆発音に切り替わり、外から見ればいったい何があったのかと理解が及ばなかっただろう。だが、自身に向けられた攻撃には違いなかった。
その爆発を起こした攻撃の正体は長距離用対物ライフルを構えたディルオスが基地からヴェルデに向けて弾丸を発射したのである。電磁加速された弾丸は肉眼で捉えることなど無意味でしかなく、瞬く間に目標へ達することができる。これにより相手の虚をつく狙撃が成功したのだ。
『こいつなら、あのシュナイダーでも……』
無事では済まない。ライフルを構えるディルオスのアドヴェンダーはそう確信していた。ヴェルデと同等の射程で当ててくるなど、かなりの実力が伺える。狙撃を成功させたアドヴェンダーはようやく自分達は傲慢なカラス達に一矢報いたのだと息巻いた。
ところが、その確信はすぐに幻想へ変わる。
『?』
何かおかしいと目を凝らすディルオスのアドヴェンダー。そして未だに黒煙に包まれるヴェルデ。弾丸は直撃したはずなのにヴェルデは未だに空中に留まっていた。だが、その疑問の答えはすぐに現実のものとなる。
なぜなら、煙が払われたヴェルデの前に巨大なシールドが塞がっていたのだ。
突き出されたシールドを左に払うと傷一つ付いていないヴェルデが見えた。弾丸が当たる直前にアレンはヴェルデの前に塞がるようにシールドを左肩ごと前に突き出したからだ。危機一髪とはこの事である。
『なっ……! 無傷だと!?』
ヴェルデが無傷で済んだことに目を疑ったアドヴェンダーは絶叫かもわからない言葉を発してしまう。
持ち主を守るどころか、シールド自体も壊れることなく形を保っていることもあるが、アドヴェンダーは左腕を覆うような大きさを持つそのシールドに何らかの技術が使われているのか、もしくは何らかのコーティングが施されているのかとわからず仕舞いだった。
ガルヴァス軍が目の先にある出来事に言葉を失っている一方、アレンは平静を保っていた。
愛機が危険を知らせてくれたこともあるのだが、アレン自身が持つ感知によって一瞬で迫ってきた危険に対処できたのだ。まるで予知と呼ばれる超能力である。
危険を対処したヴェルデにまた新たな弾丸が自身に向かってきた。今度はその弾丸をシールドで受け止めることをせず、避けるように躱す。かなりの腕前を持っているためか、瞬時に避けなければならなかったのだが、向こうはおそらく外れたと思っているに違いない。
弾丸を躱すと同時にアレンはゼクトロン・スナイパーライフルを構え、距離が離れている基地内で自身を捉えていたディルオスに照準を向ける。
「少しはできる奴がいるようだな……だが、今度はこちらの番だ」
ヴェルデのスナイパーライフルから一発の弾丸が放たれ、一直線に同じようにライフルを構えるディルオスの胸部を貫通させた。
その中で操縦していたアドヴェンダーは対物ライフルに取り付けられた遠距離用スコープでヴェルデを捉えていたが、その弾丸に撃たれたことも自覚しないまま爆発に巻き込まれ、所持していた対物ライフルは地面に転がった。
「この距離を当ててくるとはな……さすがに思い通りにはいかんか」
目標を仕留めたアレンは思わず愚痴をこぼした。このままでは危険だと感じたのか、次の行動を移し始める。
アレンはヴェルデの両手に所持していたスナイパーライフルを右肩に担ぐように固定させ、狙撃形態で使用していたスコープを上に上げると本来の二つの黄色い目が現れ、通常形態となった。
通常形態に切り替えたヴェルデは、今度は背中にあるスラスターを噴射させて移動を開始し、そのまま基地へ向かった。
途中、正面のディルオスがマシンガンを構えて発砲していたのだが、それに構うことなくそのまま通り過ぎる。そして、基地の中心部に設置された広い敷地にスラスターの噴射を止めてから足を地面につけた。
「ん?」
アレンが敷地の周辺を見渡すとその正面に何かを発見し、いきなり目を細める。それは、多数のディルオスが前と後ろの二方向からキャタピラで滑走し、ヴェルデを囲むように陣形を取ろうとする。彼がいる地点はその敵陣のど真ん中であった。
「甘い!」
だがアレンは焦らず、ヴェルデの両腰にそれぞれ装着されてある拳銃型のピストル"ゼクトロンピストル"のグリップ部を両手で掴み、西部劇のガンマンがホルスターから銃を取る要領で取り出す。
その形状は普通のピストルと何ら変わらないが、銃弾を交換できるマガジンがなく、かわりに銃身に何か刃物のようなものがついていた。そこに光が吸い込まれる。
そして、ヴェルデは右のピストルの銃口を前方にいるディルオスに向け、一発の"弾丸"を発射する。弾丸は青白い輝きを放ち、美しい一直線を描いたままディルオスの胸部を貫いた。
その空いた穴からはピストルの銃口を未だに向けたままのヴェルデが見えた。貫かれたディルオスは一泊置いた後、爆散し、黒煙を噴き出していた。ピストルの銃口からは白煙が吹き出ている。
今撃ち出された弾丸は、実は弾丸ではなくエネルギーで出来たビームである。これは今右肩に担いでいるゼクトロン・スナイパーライフルにも同じ原理が施された、スナイパーライフルのピストル版なのだ。
アレンはそのまま視線を変え、左手にあるピストルの銃口を背中に回して、ビームの弾丸を数発撃ち込む。その銃口が向けられたディルオスが破壊されると今度は両手を動かし、踊るように自身の周囲に展開していたディルオスを次々と破壊していく。その姿はまるで踊っているようだった。
ヴェルデが攻撃を続ける中、その途中に割り込むような形で一機のディルオスが陣形の中から飛び出し、バトルアックスを構えて接近する。隣にいたディルオスが慌てて左手を突き出して静止しようとしたが、止めることができなかった。
「!」
その奇襲に気づいたアレンは振り下ろされようとしたバトルアックスを躱すが、ディルオスはその場からバトルアックスの一撃を入れるまで何度も振り払う。その勢いにヴェルデは徐々に足を後ろに下がっていき、バトルアックスがヴェルデの頭上から襲いかかろうとした。
「――ッ!」
アックスの刃が振り下ろされ、ヴェルデの頭部に直撃されようとしたその時、
ガキィッ!
火花が散ると同時に鈍い音が空間に響いた。
その鈍い音と同時に両者の動きが止まる。シュナイダー部隊もその空気に反応し、動きを止めた。
周囲から来る視線は鈍い音を発した両者に釘付けとなる。傍からはディルオスがバトルアックスをヴェルデの頭部に見事に叩きつけたように見えるだろう。
だが実際はバトルアックスの刃部がヴェルデの頭部に入ることなく、ヴェルデの左手に持っていたゼクトロンピストルに受け止められていた。
「――フンッ!」
アレンは舐めてるのかと鼻を鳴らす。まだ余裕はありそうである。
ヴェルデはそのままバトルアックスを押し出してピストルを振り払い、力負けしたディルオスは後ろに下がる。そして、右手のピストルを前方のディルオスに向けてビームを撃ち込み、胸部を貫通させる。
貫通されたディルオスはバランスを失い、仰向けに倒れると同時に爆散した。ヴェルデはピストルを構えたまま動かず、銃口からは白煙が吹き出している。
「このヴェルデが近距離に対応できないとでも思っていたようだが、舐められたものだな……!」
アレンは明らかに不機嫌そうな顔つきで絶対零度にも等しい視線で睨みつける。その視線にあてられたのか、ヴェルデを包囲していたはずのディルオスが動きを止めていた。
よく見ると左手に持っていたピストルが銃身がグリップ部と平行になるように九十度上に回転され、その下部に装着されていた刃が前面に展開され、ナイフのような形状となっている。
ゼクトロンピストルは通常、拳銃として使用できるが銃身の下部には"ダガーナイフ"と呼ばれるナイフが装着されていて、変形させることで接近戦にも対応できる設計になっている。
もちろん、小型なためかゼクトロン・スナイパーライフルよりもは出力劣るものの、それでもシュナイダーの装甲を一撃で破れるほど威力は変わらず、現存する兵器だけでも通常の威力を超えているのだ。
ヴェルデが顔部を左に向けると、その視線の先にいたディルオスは睨みつけられたと思い込んで、一瞬怯んだ。
「……次はどいつだ」
アレンはコクピットの中で静かに呟き、右手にあるゼクトロン・ピストルの銃口を正面に向けるとそのままビームの弾丸を放ち、向けられた相手の意識は不意打ちを喰らったように瞬く間に消し飛んだのだった。
何だかアルティメスの武装の説明となっていますが、これも楽しみにして頂ければ良いと思います。