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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第1章 羽ばたく鴉
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黄昏の翼

これで四機のアルティメスが登場したことになります。その中でも、このトワイライトは変形メカという設定を載せました。最もこの設定を書くのに苦労しました。

 アジア連邦の中心に位置する首都、中国。

 当時、ガルヴァス帝国の侵攻で都市を荒らされたことがあった。しかし、復興が行われてからその形跡は特に見られず、その傷跡は塞ぐことができた。

 もちろん、その街並みにはこの国に住み続ける中国人に加え、故郷から移民してきたと思われるガルヴァス人もそこにいた。当然着ている服も文化が異なっているため、見分けることは容易である。

 だが、中央に位置する繁華街からは聞こえる賑わいは多いわけではないが、差別による格差もその目で確認されることは少なかった。むしろ、他国の人間には友好に接してくれているのが分かる。

 その中で黄土色のマントを頭から包む人間が人混みに紛れるように街中を散策していた。その人間は街中を歩く主婦よりも背が低く、そのマントの下からは赤い髪が見える。その奇妙な姿からは見かけた店の定員から国を跨ぐ旅人と思われることも少なくなかった。

 その人間は街中を抜け、人気がないところまで行くと一度立ち止まった。次に右手で頭を覆っていたマントを頭の後ろに回し、目を瞑りながら首を左右に一回ずつ振る。その正体はアルティメス・クリムゾンを操縦する龍堂 茜本人であった。

「フゥ、……ここはあまり、治安が悪いわけではないけど……平和とは言い難いわね」

 茜は溜息をつきながら中国の治安について不満を口にしていた。街は平和にも近しい賑やかさを出している。しかし、どこかズレたところがあると茜は直感していた。

 確かに、この中国を含むアジア連邦もガルヴァスの宣戦布告以来、標的とされていた。それはガルヴァスと同じくらいの領土があり、この広い土地ならば国民を移動させることにもうってつけであった。

 だが、アジア連邦を支配している中国の首相をはじめとする政治家が集結した中国政府は、初めは移民を決定させるわけにはいかなかった。ただ、【ギャリアの悲劇】によって失った国民や政治家も多く、国家を維持するための人材不足も浮き出ていた。

 そこで中国政府はガルヴァス帝国と取引を行い、移民を受け入れる代わりに侵攻を中止してほしいという契約で成立し、両国は対等の関係として政治を成立させていた。

 けれど中国の政策に対し国民の不満は解消されたわけではなく、表向きには先程の街中のように賑わってはいるものの、裏では昨日までに行われた紛争のように国民が自分たちから銃を取り、中国に駐留しているガルヴァス軍に仕掛けたり、味方であるはずの政府にも牙を剥くことも少なくはなかった。

「まあ、この国は戦争好きの人間がいることも有名と言われるしね……。おまけにテロリストも結構、潜伏しているも噂だし……さっさと戻るか」

 茜は周囲を見渡した後、再び足を動かしてすぐに首都を離れるように街を立ち去った。このまま留まると返って怪しまれると思ったからである。

(もっとも、私達のやっていることもそれに近いけど……)

 茜は珍しく、内心で自虐的な言葉を浮かばせていた。明らかに後ろめたい様子を見せる。この先、自分たちが行う所業が、彼らと同じではないかと心配していた。

 茜が繁華街を離れてしばらく歩き、その先にあった林の中を進むとそこに左ひざをついたシュナイダー、アルティメス・クリムゾンがいた。茜はササッとクリムゾンの前まで足を進めた。

 しばらくして茜は外を出歩く私服を着替え、機体と同じ赤いパイロットスーツに着替えた後、胸部にあるコクピットまで辿り着き、その中にあるシートに座って右手で通信を開く。その通信の相手は当然、ハルディである。

「こちら茜。相変わらずの土地ではあるけど、特に異常はないよ」

『それでなんだけど、あなたにやってもらいたいことがあるの』

 茜が現状の報告する中、通信越しにいるハルディが茜に依頼をお願いしてきた。彼女はそのことに反応し、眉を細めた。

「……何?」

「あなたがいる国に点在するガルヴァスの駐屯基地に攻撃を実行しようと思っているんだけど……やってくれるわね?」

「フッ、当然じゃない! 何のために私達は、この世界に戻ってきたのよ」

 ハルディはオペレーター達と共にいるブリッジの中で、中国に設置されている駐屯基地への襲撃を茜に依頼する。もちろん茜もその依頼を反対することなく、挑発を受けるように承諾した。

「実は、他のみんなにも駐屯基地への襲撃を依頼させているわ。今、襲撃地点を送るからあなたもすぐに出撃しなさい。……これがどういう訳かわかるよね?」

「了解!」

 ハルディは不敵な笑顔を通信へ向けたまま、ルーヴェたちが準備を進めていることを茜に伝えて、彼女にも出撃を促そうとする。それを聞いた茜はハルディが出した依頼にある最後の言葉の意味を理解し、微笑みながらハルディとの通信を終わらせる。

(さあ……これからが本当の始まりよ!)

 茜は、この時を待っていたと言わんばかりに怪しい笑みを浮かべた。まるで無邪気な子供の笑顔である。

 茜は再びシートに座り込み、両手をレバーにかける。茜が左の人差し指で正面のスイッチを押すとその隣にあるパネルの明かりがついていき、クリムゾンの蒼い瞳が光った。その後、クリムゾンはゆっくりと立ち上がる。

「すぐに終わらせる……! 龍堂 茜! アルティメス・クリムゾン、行くわよ!」

 茜は意気込むように左のレバーを前に出すとクリムゾンに搭載された背面部のスラスターから熱気が吹き出し、周辺にある草木が激しく揺らめく。クリムゾンはそのまま両膝を曲げてジャンプすると林の中から飛び立し、空中で一回転した後、そのまま加速をかけて目的地まで向かっていった。

 鳥の羽ばたきにも似た動きで駆け抜ける赤い鬼が向かうのは、自分に用意された処刑場であった。



 茜がクリムゾンと共に大空に飛び立つ前、青空を切り裂くように滑空するものがいた。

 それは黄色の"戦闘機"である、アルティメス・トワイライトであった。そのトワイライトを操縦しているリンド・トゥーガルアはつい先程、茜と同様にハルディとの通信で依頼されたガルヴァス帝国の駐屯基地への襲撃を実行しようと現場へ向かおうとしていたのだ。

 そもそも帝国の駐屯基地は一つの国に複数存在し、日本のように国の中心部に建てられていることが多く、そこを重要拠点にしているケースがある。これは数年前に起こした各国への侵攻以来、その国を手に入れるための足がかりとして建てられたのが主な理由である。

 ただ、その拠点だけでは管理が行き届きにくいことがあり、自分達に楯突く者も多いため、基地を増やすことで国を管理する範囲を広げていた。もちろん、そこにもシュナイダーが展開されている。だが規模を決して広くなく、配備されている数も少ないと言われている。

 今回のように駐屯基地を襲撃する理由は、国の管理の範囲の拡大を防ぐためであり、戦力を潰していくことでもあった。ルーヴェ達はそれを今、実行しようとしていた。

 指定された座標にある駐屯基地を向かっていたリンドはなぜか、トワイライトのコクピットの中で無表情のまま操縦していた。だが、その表情に翳りが見える。

「まさか僕がまた、自分の"同胞"を討つことになるとはね。……でも、これが僕が決めた"道"なんだ!」

 リンドは自分が行おうとしていることに苦笑いしながらも覚悟を決めた表情に変えて、空を駆け抜けていく。それは間違いなく、自分が敵対するガルヴァス人だ。それはすなわち、リンドはガルヴァス帝国を故郷に持つことを意味していた。

 その彼がなぜ自分の故郷と事を構えようとするのは、彼自身と新たな《同胞》であるレイヴンイエーガーズのメンバーしか知らない。その理由には、過去に味わった苦しみにあるのだが、彼らにとっては思い出したくもないことであった。

 しばらく正面にあるモニターを確認していると彼の目の前には、周辺に広い森に囲まれた巨大な基地の姿が見えた。

「確か、この辺りだけど……ん?」

 その基地にはガルヴァス帝国の国旗が見えたり、周辺に色は異なるがディルオスの姿が数機確認できることから、おそらくここが帝国の駐屯基地であることを示唆しており、その基地こそリンドが実行する襲撃予定地点であった。

 その基地が設置されている場所は、リンドが初めて戦闘を行ったEUの首都から大きく離れたところであり、一般人が足を運べるところではなかった。だが、その基地の前方からリンドは足を踏み入れようとしていたのだ。

「……あそこか」

 リンドの低い声と共にトワイライトはそのまま基地へ向かっていった。



 一方、ガルヴァスの駐屯基地に敵襲の警報が鳴り響く。その警報を聞いた基地に所属しているガルヴァス軍の士官らは左手で周辺の軍人らに合図を送り、その合図を視認した軍人達は大慌てで場所を移動していた。

「敵襲、敵襲!」

「一体何なんだよ、まったく!」

「ディルオスを出せ! 急げ!」

 格納庫からキャタピラを展開したディルオスが出てきた。そのディルオスは格納庫の前に展開していたもう一機のディルオスと合流し、周囲の警戒に当たる。そして、警戒に当たる中、コクピットのレーダーに一つの反応が前方から来ていることが表示された。

「? あれは……!」

 その表示されている反応こそリンドが乗るトワイライトだった。



 目標である駐屯基地が目の先にあることを確認したリンドはレバーを前に押し出して加速をかけ、トワイライトを戦闘態勢に入れる。

「リンド・トゥーガルア! アルティメス・トワイライト、これより作戦を開始する!」

 基地の警戒範囲内に入ると同時にリンドはトワイライトの下部から小型のミサイル四発を発射し、基地への爆撃を開始する。

 対するディルオスはミサイル攻撃を確認するとマシンガンで迎撃を行う。そのうちの二発が空中で破壊されるが、もう二発は基地にある格納庫へ直撃し、小さな爆発が起きる。

 トワイライトはそれを確認するや否か、そのまま基地を横切った。

「さて、コイツの真の姿を見せるとするか……!」

 リンドはトワイライトを反転させ、また基地を横切ろうとする時にコクピット内でレバーを動かすとトワイライトに何やら変化が起きた。

 最初に後部に位置する両足にあるつま先から九十度外側から内側に開き、両足が左右に少し開かれる。次に上部に搭載されてあるゼクトロン・ランチャーの砲身が後部に向くように回転し、左右の前方にある装甲が外に開く。

 さらに腕部も外に開き、その右腕を前に回した後、トワイライトの機首の下部にあるゼクトロン・アサルトライフルのグリップ部を掴む。ライフルを取り出した後、機首はそのまま背中に回ると"シュナイダー"の頭部が見えた。

 同時に胴体部はそのまま前に向き、コクピットブロックはそれに合わせて正面を向くように回転し始める。そして、目の位置にある水色のバイザーに覆われた二つの瞳が緑色に光り、人型への変形プロセスが完了された。この間、一瞬の出来事である。

 その後、トワイライトは基地の前方を見渡すようにスラスターを噴射させたまま、空中に浮遊させる。全身に黄色の装甲を纏った姿こそアルティメス・トワイライトの真の姿であり、左肩にはクロウと同様のカラスのマークが刻まれていた。

 飛行体の名残であった翼がそのまま背中に生えた形に、スラスター部は脚部に収まっている。さらに、飛行体の下部から発射させていたミサイルは下半身のスカート部に収まり、それぞれ二つずつのカバーが取り付けられている。そして、足の形がハイヒールのような形状となり、接地面を少なくしていた。

『RYS-03 アルティメス・トワイライト』――他でも類を見ない機能である【可変機構】を搭載させたこの機体は空中戦を視野に入れており、制空権を獲得する目的も含まれている。

 また、他のアルティメスも同様に飛行技術が搭載されている。変形せずともそれらすべて単独飛行を行うことができるものの、この機体は空中戦で相手を圧倒することを重点に置いているのだ。

 もっとも、制空権を支配している現状、その意味はないに等しいが、これに越したことはないだろう。

 飛行体から人型に変形したトワイライトに、その様子を見ていたアドヴェンダー達もさすがに驚きを隠せなかったのだから。

『変形した!?』

『バカなっ! あれはシュナイダーだというのか!』

 トワイライトはそのまま右手にあるアサルトライフルでディルオスに銃口を向けてビームを連射し、多数のビームの弾が一体のディルオスに直撃させる。そのディルオスはそのまま爆散し、周辺にいた多数のディルオスは左腕にあるシールドで機体を守った。

 左腕を下ろしたディルオスは再びマシンガンをトワイライトに向けて発砲するが、リンドはその銃弾を躱してディルオスに近づこうとする。

 さらにトワイライトの右腰に搭載された、剣にある白い柄の形をしたものにその左手で取り出し、つばの先から、ライフルから放たれるビームと同じエネルギーを纏った青白い剣"ゼクトロン・ブレード"を発振させる。

 トワイライトはそのブレードを右から振り、ディルオスを通り過ぎた後に両足を地面につけた。

 そのディルオスは一拍置いた後に胴体部が真っ二つに分かれ、断面が熱を帯びたように赤く変色していた。ブレードを発振させる高出力の熱量がディルオスの装甲を焼き斬ったためである。そして、胴体部から上にある上半身は爆散し、残った下半身は爆発することなくそのまま地面に倒れ込んだ。


自分が描くメカは、一旦どこにでも見られる設定にも思えますが、これは練りに練ってまとめ、作り上げた設定です。感想をいただければ喜びます。


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