狙撃
ようやく四機目です。
アルティメス・ヴェルデから放たれた青い閃光は放物線を描かず、一直線を走ったまま駆け抜けていき、ガルヴァス軍の大型トレーラーのキャタピラに直撃した。
キャタピラ部は爆発を起こし、トレーラーの内部は地震に似た衝撃が士官らに襲いかかる。内部を激しく揺らし、中にいた士官らはバランスを崩してその場で倒れ込み、膝を着く。
一方、外では近くにいた数機ものディルオスが爆発したキャタピラ部に集まり、頭部を動かしながら周囲を警戒する。しかし、そこには誰もおらず、確認することができない。
「何事だ!」
「車輌部のキャタピラが損傷! 敵の攻撃だと思われます!」
「そんなことはわかっている! 場所は!」
爆発の衝撃で膝をついていた司令官は、デジタルパネルが設置されているテーブルに左手で支えながら何があったのかと声を掛ける。
持ち場で衝撃を堪えていたオペレーターは即刻、現在の状況を説明するが、司令官も理解していたようで、今攻撃を行った敵の位置の特定を急がせる。
しかし、オペレーターから伝えられた言葉は予想外のものであり、攻撃を受けてもいないにも関わらず、違う意味で衝撃が走った。
「それが……敵は我々の索敵範囲外にいる模様!」
「何ィ!? そんなのがあるはずがない! もう一度確認しろ!」
「索敵を広げます!」
そんなことなど認めないと言わんばかりに司令官はオペレーターに敵の捜索を続行させる。オペレーターも急いで索敵範囲を最大値まで広げようと両手を高速でキーボードに打ち込む。その合間にも、またもや青い閃光が走る。
今度は護衛に来たディルオスの胸部に直撃し、内部が閃光の熱で焼かれて爆発を引き起こす。その一瞬の出来事にアドヴェンダーは戦慄、困惑させる。
迎撃しようにも手立てすら見当たらない彼らには、既に未来が決まっていた。その未来を暗示、いや証明させるような蒼い閃光がディルオスを貫き、彼らは巨人と共にその命を散らしていった。
護衛を勤めていたディルオスはいなくなり、動けなくなっていたトレーラーは今、隙だらけの状態のまま晒された。身動きすらできない的当てとなる中、彼らに朗報が舞い込む。
「出ました! 九時、西方向からの長距離狙撃です!」
「そうか! ならば、ただちに迎撃せよ!」
「……!」
「?」
オペレーターがようやく敵の位置を特定し、その座標をすぐに司令官に伝えた。司令官はそのまま左方向に顔を向けるが、もちろんその姿を確認することができない。それでも司令官は特定された座標に向けて迎撃の準備を命令する。
もちろんオペレーターはその迎撃の指示を聞いてはいるのだが、表情を苦くしたまま手を動かさなかった。いや、動かすことすらできなかった。それは……
「どうした、迎撃せんか!」
「ダメです! こちらの武装ではどれも射程圏外であり、しかも目視できません!」
そう、 "無理"という言われようもない現実が立ち塞がったのである。そのことを知らない司令官は声を荒らげてしまう。当然、反応は"できない"という言葉が返ってくる。
「なっ! ……おのれ!」
「それにこの状態では、身動きが……」
「……バカな!」
さらに追い打ちをかけるかのごとく今度は自分達が立ち往生するハメとなってしまった。それを聞いた司令官は自分達が敵の攻撃の対応を行えないことに指をくわえることしかできなかった。
だが、このままやられるわけには行かず、状況を打開するために司令官は別の手を打とうとする。
「……ならば、フライトベースで迎撃させろ!」
司令官は空中を移動できるフライトベースなら索敵の範囲外でも行動できると踏んで出撃を促す。トレーラーの中でオペレーターの指示を聞いたアドヴェンダーはすぐにフライトベースの上に乗り、出撃した。
一方、ビルの頂上で膝をつくヴェルデに乗るアレンはライフルの銃口から白煙が吹き出す中で、モニターに映るトレーラーを見据えていた。
「念を入れて試し撃ちを行ったが、この長距離射撃にはさすがに堪える……。悪くはないが、これ以上"獲物"を痛めつけるのは良くないな……」
キャタピラが傷ついて動くことすらできなくなったトレーラーをスコープ越しで見て、これ以上騒ぎを立てるのは良くないと思ったアレンは、スナイパーライフルによる次の一撃で止めを刺そうとする。
その時、正面のパネルにあるレーダーに左斜めの方向から反応が映る。
「ん?」
アレンがその反応に気が付くと左側のモニターにバズーカを肩に担いだディルオスを乗せたフライトベースが二基、こちらに向かっているのが見えた。ディルオスはヴェルデの姿を確認するとフライトベースの上からバズーカをヴェルデに向けて照準を合わせて弾頭を撃ち込む。
二発の実体弾がヴェルデに向かう中、アレンはただちにヴェルデを立ち上がらせ、構えていたスナイパーライフルを下ろす。そのまま避けるように背中にあるスラスターを噴射してその場から離れると、実体弾はビルの上部に直撃し、爆発した。
ヴェルデは空中に浮遊したままスナイパーライフルを構え、フライトベースを乗せたディルオスに照準を向ける。
アレンはライフルの銃口からビームを二発発射し、ディルオスの胴体を貫くように直撃させる。ディルオスは爆散し、その下にいたフライトベースも爆炎に巻き込まれるが、かろうじて爆炎から抜け出し、ヴェルデに背を向けるように反転させる。
アレンはスナイパーライフルを構え直し、もう一度トレーラーに照準を絞り込む。
「ジ・エンド」
照準のマーカーが赤に変わるとヴェルデはビームを撃ち込む。ビームは一直線に走り、トレーラーのメインブリッジ後方を貫いた。アレンはビームをトレーラーに貫いたまま左に曲げるとビームはメインブリッジに傾いていき、やがてビームの奔流がブリッジを飲み込んでいった。
「こ、こんなことが……!」
ブリッジにいた司令官はその場にいた士官を含め、ブリッジごとビームの本流に巻き込まれた。ビームが消えるとブリッジは爆発、トレーラーは誘爆を起こしてそのまま爆散した。
また、先に出撃し、新たにトレーラーの周辺の護衛についていたディルオスは身を守るためにシールドを前に出すが爆発の勢いに押され、機体ごと爆風に吹き飛ばされてしまう。
その前方に展開されていたシュナイダー部隊は、その爆発音に気づいて頭部を後ろに向けると後方に位置するトレーラーから舞い上がった黒煙を確認する。
「な、何が起きた!? 司令部は……?」
シュナイダー部隊の一人の兵士が自身の後方に上がっている黒煙を見て、司令部に何があったのか心配する。すると右隣のディルオスからそれに関わる通信が入る。
『そ、そんな……』
「どうした!?」
『司令部との連絡が……途絶えました』
「何っ!?」
兵士は通信で司令部からの連絡が途絶えたのを知ると、驚いた様子を見せる。あの黒煙が司令部から上がっているのだとようやく理解した。
『ど、どうすれば……』
『……撤退するぞ』
『え!?』
通信をしていたアドヴェンダーがディルオスの中でひどく狼狽する。通信で中の様子を見なくても分かり、焦りが止まらない。そこにもう一人のアドヴェンダーが全軍の撤退の指示を提案する。狼狽しながらも、その通信を聞いていたアドヴェンダーは真っ先に驚いた。
『各機、この場から撤退! 現時刻を持って、作戦を中止する!』
『し、しかっ』
『何度も言わすな!!』
『『『イ、イエス サー!』』』
シュナイダー部隊は、撤退の提案を批判することなく聞き入れた。これ以上は被害が増えてしまう。独断での行動も然りだと兵士達はその意図を汲み取ったため、すぐさま市街地から撤退していった。
「フゥー、……助かった、のか」
EU軍の隊長はガルヴァス軍が撤退するのを見て、彼らに何が起きたのか分からずじまいだったが、戦闘が終わったことに安堵し、息を大きく吐いた。これでEUは守られた、と表情を思わず緩ませる。
爆炎が起きている地点を確認したヴェルデは再度、スナイパーライフルを銃口が上に向くように上げる。さらにゴーグルスコープを上げると、その下に隠れていた二つの黄色い瞳が現れ、ドヤ顔を見せるように光らせた。
「作戦終了」
アレンは無表情のまま、戦闘を終わらせたことを呟く。敵の本拠地を叩くことは戦法の常識であり、簡単に見えて意外と難しい。それを跳ね除けてどうだ、と言わんばかりのことをやってのけたのだ。
「!」
アレンが感傷に浸る中でアラートが鳴り響く。アレンは自身の周囲を見渡すと横方向からトワイライトが向こうで行われていた戦闘中域から来ていた。そして、トワイライトがヴェルデに近づき、アレンは通信を開くとリンドの声が響いた。
「こっちは終わったよ。そちらは……終わらせたようだね」
「当然だ。戻るぞ」
「了解」
リンドが戦闘を終わらせたという報告をしてきたが、向こうの様子を見て、終わらせたことに感づいた。実際には敵に予測できない事態が起こったため、攻撃を中断して撤退するしかなかったが……。
アレンは相変わらず無表情のまま任務を終わらせた、と思わせる程の仕事ぶりをリンドに見せつけてきた。まさに職人、いや軍人のごとく。
二人はEUの市街地を後にした。残ったのは、街の一角だけ残骸と共に嘆きとも思える炎だけが灯されていた。
この日、四体のアルティメス、いや四匹のカラス達は、今羽ばたいたのであった。
四体のアルティメスがそれぞれ各国の戦場に介入した頃、薄暗く視界に捉えるものすら見当たらない空間内で帽子を被った女性がその戦況をモニターで観戦していた。
その彼女の左隣にいる一人の女性オペレーターが女性に声をかける。
「全員、作戦を終了しました」
「そう、ならよかった」
オペレーターが戦いが終わったことを聞くと女性は喜ぶ様子で目を閉じつつ、背中を深く椅子にかけた。どうやらご満悦の様子である。今度は彼女の右隣にいる一人の男性オペレーターが、喜びを隠そうとせず彼女に声をかける。
「始まりましたね」
「いえ、まだよ」
「え?」
ところが、女性は即座に否定する。男性はどうやら理解できていないらしい。その理由を彼女が答えた。
「まだ、アレがあるでしょうが」
「す、すいません!」
女性がそう答えると男性オペレーターは、忘れてしまったのかと今頃気づく。その周囲にいるオペレーターもクスクスと笑いを堪えていた。指摘された男性は恥ずかしいときに見せる反応のごとく赤面し、顔を見せないようにササッと元にいたデスクの前に戻る。
「んじゃ、いきますか。今度は私たちの番よ!」
「「「はい!!」」」
女性は椅子から立ち上がり、高らかに宣言する。その宣言にオペレーター全員もそれに応える。女性は、目の前のモニターに映る世界地図を見て、
「フフ……覚悟しなさい。もうすぐここは、私達の狩場となるのだから……!」
口元に妖しい笑みを浮かべた。その笑みは無邪気な子供のようで、悪魔にも思えた。
彼らは、もうじきこの世界に大きく羽ばたく。その目的は、あることをする為。
そしてその内容は、この世界に生きる人間にとって衝撃的なものであった……。
ガルヴァス帝国の駐屯基地に建てられている聖寮には、皇族との謁見が行われる謁見の場だけではなく、皇族が主に利用する執務室も存在する。執務室には机と椅子が一つずつ置かれてあり、そこに皇族の血が流れているルヴィス・ラウ・ガルヴァスが座る。
ちなみに基地に在住する兵士や本国からの遣いがここに立ち入るのは、皇族との面会を求める時だけであり、入ることを許されているのはルヴィスの下に仕えるケヴィルと彼と同じ皇族のみである。
ガルヴァーニ率いるガルヴァス軍が、謎の黒いシュナイダーであるアルティメス・クロウと邂逅したその夜、ルヴィスが今日も溜まっていた業務をこなしていたところ、その前にあるドアからノックを三回立てる音が響いた。
「失礼します、殿下」
「入れ」
執務室のドアの先から渋い声が聞こえた。それを知ったルヴィスは自分がいる執務室に入るように促すと開いたドアからケヴィルが現れ、思いつめた表情のまま執務室に速やかに入る。ルヴィスは慌ただしい様子のケヴィルを見て、何か良からぬことが起きた事に不安をよぎらせた。
「どうした? ケヴィル」
「大変です、殿下!」
「?」
そして、その不安は見事に的中する。それも最悪な方向で。彼らにとって信じられない出来事であった。
「数時間前に、アジア連邦およびEU連合で起きていた紛争にて、謎のシュナイダーが現れたという報告がありました!」
「何!?」
ケヴィルの報告にルヴィスの表情は一層険しいものとなり、眉を細める。だが、続くケヴィルの言葉によって、彼の表情がさらに歪むものとなる。
「現地での報告によりますと、アジアには一機が出現、戦場を混乱させた後、アジアの軍隊と共にシュナイダー部隊を退けさせた模様! 一方、EUには戦闘機のようなものが一機、さらにシュナイダーが一機出現、同じく戦場を混乱させ、後方に待機させていた司令部も破壊、内部で指揮を担当していた司令官が戦死しました!」
「!?……クッ!」
その報告を聞いたルヴィスは驚愕し、思わず椅子から立ち上がる。その際、ガタッと大きな物音を立ててしまうが、それが耳に入らないほど二人の頭は困惑という感情に囚われていた。
「我々以外にもシュナイダーが現れたということか……!」
「いえ、我々のところを含めればシュナイダーが三機、爆撃機が一機、合わせて四機ということになります!」
「分かっている! だがそんなものが各地で、しかも同時になど……!」
三機、いや四機もの正体不明機が現れた、というケヴィルも意味が理解できない報告を耳にしたルヴィスは大きく目を見開き、両手を机に叩きつつ顔を下に向けたまま体を震わせた。こんなあり得ないことが続くなどあってはならないと、ルヴィスは内心否定し続けていた。
しかし、その詳細を知ろうとルヴィスは証拠となるものを要求する。
「……画像データはないのか!」
「ここにあります。戦場にいた兵士達が捉えた映像ではありますが……」
ルヴィスの要求に対し、ケヴィルは応じるように左手に持っているパッドを取りだす。そのまま右の人差し指で操作してルヴィスに見せた。ルヴィスはそれを左手で受け取り、自分の目の近くに持ってくるとパッドに映された画像データを見て、またもや目を大きく開かせた。
「こ、これは!」
パッドの画像にはクリムゾンが映り、ルヴィスがそのまま右指で横に移動させるとトワイライト、ヴェルデが次々と映っていた。それを見たルヴィスは報告が正しかったこと、自分達に歯向かう謎のシュナイダーが一体ではなかったことにまた驚きを隠せなかった。
「?」
ルヴィスはこれらの画像を目に通しながら、あることに気づく。そのルヴィスの表情を見て、気になったケヴィルはその疑問に踏み込もうとした。
「どうしましたか、殿下?」
「見てくれ。……こいつらの機体、どうも似ているとは思わないか?」
「確かに、そう思いますが、……!」
彼から返ってきた言葉は襲撃してきたシュナイダーの特徴に関するものであった。確かに顔部分が似ており、同じ場所で造り出されたのかと思う程だ。だが、それは確信へとすぐに至った。
「まさか……!」
「シュナイダーを製造できる国は限られている……。これは明らかに何者かがこれらを造ったという事実しかあるまい。だが……」
アルティメスの共通点から製造できる者がいることをルヴィスは特定するが、その人物が何の目的で造ったまでは理解できなかったようだ。
ルヴィスはクロウの画像を見ながら内心「こいつらは一体……!?」と悪態をつき、改めて体を震わせていた。
日本とは異なる国の情勢を描きたかったのですが、やはり上手くかけません。どうにかこの文の意味を理解して欲しいのです。