フライトベース
新キャラが出ます。
一方、EUにいるガルヴァス軍の後方には大型のトレーラーが待機していた。その中にあるメインブリッジでこの作戦の指揮をしていた、初老の司令官は現在の戦況を確認していた。
「フッ、……そろそろ潮時のようだな」
「では、また撤退を……」
司令官の背後に立っていた四人の士官の中の一人が撤退の進言を口にしようとする。だが、
「いや、このまま押し切る! 今この戦闘で疲弊している奴らはもはや虫の息だ! 今すぐ航空部隊を出せ!」
「イエス サー!」
敵が疲弊している今が好機だと言わんばかりに指令官は左手を前に出して、この戦いを終わらせるための策を講じる。オペレーターが返事した後、指令官は怪しい笑みを浮かべていた。
それはこの戦いの最後が近づいていることを意味していた。
もはや何度目かわからない、EUとガルヴァスの戦闘が続いて数時間後、そのガルヴァスが意図的に拮抗させている戦況に変化が起きた。
「!」
EU軍の一台の戦車の中でレーダーを担当していた兵士は、車内でアラートが鳴っていることを知る。それはレーダーに識別がわからない反応が映っていることを示唆していた。
「隊長、レーダーに反応! ガルヴァス軍の後方から接近する物体が多数!」
「何だと!」
EU軍は謎の物体がガルヴァス軍の後方から来ることを知ると、外ではディルオスを載せた飛行体が数機、空を飛んでいた。EU軍が探知したのは、それであった。
ディルオスを載せた飛行体、『フライトベース』はそのままEU軍の背後を抜け、ディルオスはその上から飛び降り、スラスターを噴射させながら地上に降り立とうとする。降り立ったディルオスはそのままマシンガンを戦車に向け、後方から攻撃を開始する。
フライトベースとは、シュナイダーと同時期に開発され、シュナイダーを輸送、および運搬を視野に入れた輸送機である。これはシュナイダーが単独飛行を行えない現状を補うための措置として利用され、戦闘でもシュナイダーによる空中からの奇襲にも使用されている。
もちろんその中にはコクピットがあり、パイロットが操作できるようにしているが、シュナイダー側から自動でアドヴェンダーによる操作も行えるため、こうした運用面での不安を解消させていた。
そして、その想定された運用は現在の戦闘で実践され、功を奏した。
いきなりの奇襲にEU軍は、五年前まで足を踏み入れることすらさせなかった自分達の領土に侵攻を許してしまった。戦線を固定させられたことで後手を踏まれてしまったのだ。
「隊長、後ろを取られました!」
「クソッ! 挟み撃ちか!」
(奴ら、これを狙うために今まで……!)
隊長は思わず後ろを振り向くが、前方から続行されているディルオスの攻撃にさらされる。まさに前門も後門も閉められた状態だ。
これまでの戦闘が、この奇襲を成功させるための布石だったのだと気づくが、気づくのがすでに遅かったのか、前にも後ろにも行けず、退路を断たれてしまった。
スキのない完璧な作戦であるのだが、実はガルヴァス軍にとってもあまり快くない作戦でもあった。侵攻をゆっくりと時間をかけて行うことは、弾薬を多様に消費するだけでなく兵士への負担も重くなる。
だからこそ、戦場を戦況ごとコントロールしてしまえば見返りも大きいと踏んだのだ。その結果、功は奏し、後はゾウのごとくアリを踏み潰していくのみである。
だがそれは、戦場は時に不条理であり、不確定な要素を生むことがあるのを頭から消し去ることでもあった。たとえ、どんなものが現れようとも自分達だけで対処できる過剰とも言える自信が拍車にかけている。
しかし、その時がゆっくりと近づいていることを誰も気づいていなかった……。
戦場から大きく離れたガルヴァス軍のトレーラーよりもさらに後方から、ガルヴァスとは異なる黄色の飛行体が空を突き抜けていた。その飛行体は形が戦闘機に似ているものの、よく見ると巨大であり、その後部には人間の足に似たものが見えた。
また、上部にはスラスターに飛行を安定させる翼と二門の長い砲塔が搭載されており、機首の下にはライフルが取り付けられているなど、既存の戦闘機とは異なる点がいくつか存在し、速度も戦闘機とは段違いの速さで駆け抜けていた。
その中には機体を操縦するコクピットがあり、水色の瞳に一人の耳まで隠れた長さを持った金髪の青年こと、リンド・トゥーガルアが乗っていた。
彼もまた、ルーヴェ達と同様のパイロットスーツを着ており、当然、茜と同じ黒の下地に装甲が機体と同じ黄色のスーツとなっていた。
飛行を続けていたリンドはコクピットにある通信を開くとスピーカーから声が響き、同時にモニターからその持ち主である若い男の顔が映った。
「こちら、リンド。もうすぐ目標地点に到着する。そちらは?」
『問題なし。こちらは既に目標ポイントに到着した。後はアンタからの合図だけだ』
「了解。では、こちらが到着次第、すぐに作戦を開始する!」
リンドは青年との通信を終わらせ、口元に笑みを浮かべたまま戦場へ向かった。
数分後、戦場は黄色の嵐に吹き荒れることとなる。
ガルヴァス軍の策略による意図的な膠着状態を陥っていたEU軍とガルヴァス軍の戦闘は、時期を見計らったガルヴァス軍の奇襲によって、戦況は一変した。
意表をつかれたEU軍は、前方と後方にいるガルヴァス軍のシュナイダー部隊に包囲されてしまい、そのまま奮闘を続けていたが、物量差に押し負ける上に孤立されたこともあってか次々と味方を失っていき、次第に追い詰められていった。
「まずは後方にいるシュナイダーを片付けるんだ! でないと潰されるぞ!」
「ですが、前方も攻撃を受けています! 迂闊に後ろに向けば……!」
「馬鹿者! ここを凌がなければ、我が国は……」
次の瞬間、自身の隣の戦車がディルオスの攻撃で爆発した。突然の爆発で「グワッ!」と兵士が叫び、喋る余裕など何一つなかった。後方にいるディルオスの攻撃もより過激なものになっていき、EU軍は戦車を前にも後ろにも進めない状態となっていった。
既に軍は、周りが壁一面に立たされ、逃げ場をなくした袋のねずみの状態であり、ジリジリと追い詰められていく。
「クッ、こんなところで……!」
隊長が諦めかけたその瞬間、車内で諦めを叱咤するアラートが鳴り響く。さらにコクピットの正面のパネルにあるレーダーの後方には反応が一つだけ映っていた。それを見た隊長は目を丸くする。
「これは……?」
その反応は、救援を寄越してくれた味方でも自分達を蹂躙させるために寄越した敵軍でもない、未知のものであった。
「これで、奴らも年貢の収め時だ……。フハハハッ!」
その頃、大型トレーラーの中で戦況を見ていた司令官は、勝利を確信したのか笑みを浮かべ、高笑いしていた。その時、レーダーに反応が映り、オペレーターが指令官に向けて発信した。
「戦闘中域の後方より接近する物体あり!」
「何!?」
オペレーターの報告を耳にした司令官は一旦、高笑いを止め、訝しい表情をとる。ただ、その反応が何なのか、現時点では誰も確認することができなかった。
EU軍の後方に位置するシュナイダー部隊のさらに後方から、リンドを乗せた飛行体が現在の戦闘中域に向けて滑空していた。
レーダーが反応を捉え、後方から何かが来ることを知ったディルオスは、すぐにEUへの攻撃を中止し、機体を後ろに向けてマシンガンを空に構え、自分たちに迫ってくるものを迎え撃とうとする。
「フッ……」
リンドは上空から銃口を向けたディルオスに照準を向けると唇に笑みを浮かべる。そのまま右のレバーにある赤いスイッチを親指で押すと飛行体の下部から四つのハッチが次々と開き、ハッチの奥に格納された小型ミサイルが一発ずつ発射された。
その危機を察知したディルオスは発射されたミサイルに対して迎撃しようとマシンガンを撃ちまくるが、一発も当たらずミサイルはそのままディルオスに直撃し、爆発の勢いに圧されてしまい後退る。
「な、なんだ……?」
滑空する飛行体に視線を向けていた隊長は戦車の中で疑問を抱く。突如現れた存在に、現在の状況を忘れのか口を開けたままである。
リンドはレバーを動かして飛行機の旋回のように機体を反転させると今度はEU軍の前方にいるガルヴァス軍に向かっていく。
リンドは操縦している機体の上部にある二門の砲塔、"ゼクトロン・ランチャー"から強力なエネルギーを有するビームを発射する。発射された二つのビームはそのまま、横一列に並ぶ二機のディルオスの胸部を貫き、放電を起こさせた後、ディルオスは爆散した。
残ったディルオス達は飛行体に向けてマシンガンを撃ちまくる。だが、リンドは気に止めない様子でそれらを躱す。またもや機体を反転させ、今度は機首に装着されているライフル"ゼクトロン・アサルトライフル"から青白いビームをマシンガンのごとく激しく連射し、上空から降ってくる礫がディルオスを次々と破壊していく。
「逃げられないさ……。この『アルティメス・トワイライト』からな!」
その様子を見ていたリンドは、鷹のような鋭い目つきで攻撃を続ける。
崩壊していく戦況を見ていた指令官は、突然の出来事に目を丸くしながら声を荒げ、そのモニターにある"戦闘機"に向けて右の人差し指で指していた。
「一体なんだ、あれは!?」
「わ、わかりません……」
「敵の新型なのか、よく……」
司令官はその"戦闘機"が何なのか、オペレーターに正体を求めた。だが、オペレーターの返答はたどたどしく、理解が及ばないのか言葉にするのが遅れている。その弱々しい言葉に司令官も怒りを表す。
「だが、完全に我々に攻撃しているではないか! あれは敵だ!」
「……!」
指令官の反論にその場にいた士官達も言葉が出なかった。静寂が包み込む中、改めて戦況を確認していたオペレーターは今も流れていた静寂を打ち砕かんと司令官への状況を報告した。
「司令官、EU軍が攻撃を再開しました!」
「!」
EU軍が"戦闘機"への攻撃に集中している隙に、前線のガルヴァス軍への攻撃を再会したようだ。戦況は未だにガルヴァス軍に優勢である。しかし、トワイライトの攻撃で編隊が崩れかけていて、立て直すにも時間が掛かっている。
そこに追い討ちをかけるようなEU軍の攻撃が加わって、戦線は維持できなくなっていた。
有利な状況から一転、不利へとひっくり返される戦況をただ見守っていた司令官はさらにイライラと怒りを募らせる。
「どいつも、こいつも……!」
今頃は既に勝利を収めていたはずの作戦は死に体となっていた。作戦を指揮していた司令官の、視線だけでも人を殺そうとするほどの殺意は周囲に撒き散らすばかりである。これでは冷静な判断もできないだろうと周囲にいた士官らは声をかけることができず、終始無言のままだった。
その戦況とは裏腹に、ガルヴァス軍の大型トレーラーの左方向から大きく距離が離れている場所に建てられていた高層ビルの上には、緑の装甲を纏った一体の巨人が右膝を着きながらライフルを構えていた。
その視線の先には、直線上にあるトレーラーを見据えている。もちろん、目視できるような距離ではない。そのビルの上に立つ巨人も当然、シュナイダーである。
そのシュナイダーには頭部にアンテナ、顔に二つの黄色の瞳を持ち、額にはゴーグル、右肩や背中、腰部など、至るところに武装が搭載されている。さらに両手には射程の長いスナイパーライフルを持ち、銃口をトレーラーに向けながら狙撃の体制を取っていた。
そのシュナイダーは顔がクロウに酷似していて、左肩にも同様にカラスのマークが刻まれてあった。明らかにルーヴェが乗るクロウと関係していた。
また、そのコクピットにはルーヴェ達と同じ種類かつ、黒の下地に緑の装甲を纏ったスーツを身につけ、薄い茶色のサングラスを掛けた緑の短髪の青年、アレン・パプリックがいた。
「…………」
無言を貫くアレンがモニターに映るトレーラーに向けて照準を合わせようとする時、シュナイダーの額にあるゴーグル"スコープゴーグル"が下がり、瞳を隠す。
するとコクピットから外の状況を映すモニターにターゲットを捉える緑のマーカーが表示され、スコープゴーグルの中央にあるレンズで照準を合わせていく。照準が合わさるとモニターに「LOCK ON」の文字が表示され、マーカーが緑から赤に変わる。
「ターゲット、ロックオン。誤差修正、異常なし。『アルティメス・ヴェルデ』、作戦開始!」
照準補正が終わるとアレンは眉を吊り上げるようにひそめ、右のレバーのグリップにあるスイッチを押すと、銃口を向けている"ゼクトロン・スナイパーライフル"から青白い光が放たれた。
登場するメカがどんな姿なのか知りたいでしょうが、挿絵はちょっと拝見させることができません。ごめんなさい。皆様の協力があれば姿を見せることが出来るかもしれません。