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レイヴンイエーガーズ 漆黒の反逆者  作者: 北畑 一矢
第1章 羽ばたく鴉
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紅蓮の剣

予定通り二機のアルティメスを出します。

 茜が操縦するアルティメス・クリムゾンが現れてから、アジア連邦とガルヴァス帝国が対峙する戦場は混乱を窮めた。両軍は攻撃を中止させたまま、手を動かすこともなく呆然とクリムゾンに視線を送っていた。それはついさっきまで起きた衝撃が今も余韻として残っていたのだ。

「な、何なんだ、あれは……」

「今、シュナイダーを斬ったぞ……」

 クリムゾンがディルオスを倒したのを目撃したアドヴェンダー達も、この光景を目にして表情を変え、困惑していた。トレーラーに乗り、後方で展開されている司令部も、今起きている状況に対して同様に困惑し、言葉を失っていた。一泊おいて、その雰囲気を壊す声が強く明瞭に響く。

「何をしている、キサマら! ただちに攻撃を再開せよ! 作戦はまだ続いているのだぞ!」

「イ、イエス サー!」

 その声の持ち主である司令官はすぐに我に返り、周囲の困惑している士官に向かって檄を飛ばす。司令官のげきに士官らも我に返り、自分の役目を思い出す。戦場の真っ只中にいるアドヴェンダーも、オペレーターの指示を聞いて自身の役目を思い出し、実行されている作戦を続けようとする。

「この!」

 しかし、その命令に逆らった一機のディルオスはマシンガンを構え、銃口をクリムゾンに向けようとするが、その視界にいたクリムゾンはいつの間にか、そのディルオスの目の前にまで距離を詰めていた。傍から見ても、瞬間移動でも起きたのかと錯覚してしまう程に。

「え?」

「遅い!」

 そのディルオスを操縦していたアドヴェンダーは、さっきまで視界に捉えていたはずのクリムゾンがいきなり目の前に現れたことに対して、一体何が起きたのか分からず、ただ惚けてしまう。

 一瞬だが、隙だらけとなったディルオスを茜は逃さず、クリムゾンの両手にあるヒートソードを交差してX字を描くように上から斬りつける。斬られたディルオスは機体の上部がX字に刻まれ、バラバラにされた。

 熱で赤く変色した切り口からスパークが迸り、その奥からはクリムゾンの青い目が見え、斬られた上半身は爆散した。

 クリムゾンはすぐにホバー移動で退避し、その場から離れるように前を通り過ぎる。残されたディルオスの下半身は、先ほど破壊されたディルオスと同様に地面に倒れ込む。

 一瞬で相手に接近し、切り刻む。これこそクリムゾンの本領とも言える実力であり、完全にガルヴァス軍を圧倒していた。

『RYS-02 アルティメス・クリムゾン』――高い機動力を持った近接戦闘を重点に置いた高機動型近接機であるこの機体は、スピードを生かした戦闘を実現するための近接用の武装とスラスターが全身に搭載されている。

 その搭載されたスラスターによって三次元の動きを取れるだけでなく、急激な方向転換や一瞬で相手に近づくことができる加速力もあり、接近戦では無類の強さを発揮する。

 つまり、ディルオスの武装では接近戦においてクリムゾンに打ち勝つことはできないことを意味し、騎士の鎧を纏った巨人達はこの赤い鬼を前にして、ただ屍を築くだけであった。

 一方、突如現れたクリムゾンが自分達を相手に好き勝手暴れている戦場を、そこから離れた場所にてモニターで観戦していた司令部も、彼らにとってありえないこの状況には言葉も出ず、ただ指をくわえて見ていることしかできなかった。

「ディルオス、もう一機が沈黙しました!」

「司令、これは完全に我々への敵対行動です!」

 オペレーターの声が明瞭に響く中、司令官の後ろで同様に状況を確認していた士官が進言する。

 高みの見物を続けていたにも関わらず、チェスや将棋のように盤上をひっくり返され、駒である巨人を次々と失っていく場面に司令官は苦虫を噛み潰したように歯ぎしりさせながら命令を下す。

「全軍、正体不明の敵機を破壊せよ!」

「イエス サー!」

 ディルオス部隊はただちに目標をアジア軍からクリムゾンに変更し、数機がマシンガンを構えて斉射を実行する。だが、茜は意に介さないようにクリムゾンの脚部に搭載されているスラスターを噴射させ、ホバー移動で全ての弾丸を躱していく。

 弾丸の嵐が吹き荒れる中、茜はさらに背部にある鳥の翼に似せたスラスターを加えて噴射させると彼女の正面にいた一機のディルオスへ距離を詰める。その代名詞である加速によって距離を詰めたクリムゾンは、そのままヒートソードでディルオスの胴体部を斬りつける。

 胴体部を斬られたディルオスは爆散するが茜はそれに目をくれず、再び脚部のスラスターを軽く噴射させて、その場を離れた。

 スラスターの噴射を止め、一旦クリムゾンの足が地面に着くとアラートが鳴り響く。それに気づいた茜は上を見ると空から多数のミサイルが降ってきていた。

 ディルオスにはオプション兵器であるミサイルランチャーがあり、この攻撃はおそらく後方からの援護によるものだろう。発射されたミサイルの目標がクリムゾンであることは明白である。

 しかし、茜はホバー移動でこれらもすべて躱し、目標を見失ったミサイルはそのまま地面に当たって爆風を起こす。

 茜はホバー移動を続けながら、後方にいるミサイルランチャーを抱えたディルオスへ顔を向け、その機体がいる地点へ近づこうとする。

「!」

 だが、数機ものディルオスがその狙いを読んだのか、目標に定められた機体の前に移動してクリムゾンの前に立ちはだかり、その背面にあるバトルアックスを展開して迎え撃とうとした。

「……無駄よ」

 茜はそれを無視するかのようにクリムゾンの背中にある大型スラスターを再び展開し、さらに加速をかける。

 その行動に一番前にいたディルオスは驚くも、茜はヒートソードで次々と一撃で仕留め、最後に阻むものを無くしたミサイルランチャーを抱えるディルオスを斬り伏せて破壊する、ヒットアンドアウェイの戦法を繰り出す。その姿はまさに圧巻の一言であった。

 その様子を見ていたシュナイダー部隊の隊長を務めるアドヴェンダーは、焦りながらもクリムゾンの戦闘を冷静に分析し、部隊の兵士達に指示を出す。

「各機、距離を保て! 奴は見たところ、近距離用の武装しかない! このまま包囲して撃破せよ!」

「イエス サー!」

 部隊はその指示に従い、連携して遠距離での戦法を実行する。アドヴェンダー達は指示の通りにキャタピラを起動させ、クリムゾンとの距離を保ちつつマシンガンを発砲する。

「!」

 茜も敵が距離を保ったまま発砲していることを知り、それを嫌ったのかホバー移動させながら右腕を前に出し、その外側にある【四連装腕部ビームガン】をディルオスに向けてビームを銃弾として連射する。

 ビームガンから発射された、エネルギーでできた数発もの弾丸は一機のディルオスを蜂の巣にして、爆散させる。

 茜はそのままビームガンでガルヴァス軍への牽制を行うが、こまめに移動を続けるディルオスの動きに翻弄される。ネズミのようにすばしっこい動きに茜は舌打ちする。

「チッ!」

 クリムゾンは近接戦を想定した設計であるが、その代償と言っていいのか射撃武装が最低限のものしかなく、遠距離の攻撃には弱い特性を持つのだ。複数のディルオスにそこを突かれてしまい、最初の勢いはもはや見る影すら無く、段々と追い込まれていった。

「よし、このまま追い込むぞ!」

 アドヴェンダーがそう確信したつかの間、何もない空からいきなり砲弾が降ってきた。その砲弾は弧を描くようにディルオスに直撃し、爆風を起こしていく。その思いがけない攻撃にアドヴェンダーは混乱する。

「何だ!?」

 その正体は先程まで相手をしていたアジア連邦の軍隊であり、ガルヴァス軍はその存在を頭から消していた。

 軍隊はそれを逃さず部隊を立て直し、ガルヴァス軍の攻撃がクリムゾンに集中したところに攻撃を再開、クリムゾンを援護するように次々とディルオスに砲弾の雨を降らせていたのだ。

「あの赤いシュナイダーを援護しろ! いいか、この機を逃すな! 絶対に奴らをこの国から退がらせるんだ!」

 軍隊の指揮官と思われる男が右手を前に出して叫ぶ一方、アドヴェンダーは連邦の存在を忘れていたのか、次々と優位性を失っていくこの状況にシュナイダー部隊の隊長は口を歪ませていた。

 そこに、部隊の兵士が通信を開く。

「隊長、これ以上は持ちません! 一度この場を退がりましょう!」

「――クッ!」

 隊長は軍隊の勢いに押され、身動きができなかった。そして、獲物を取り損なったことで悔しそうに顔を歪めたまま後退した。

 状況を観戦していた司令部もさすがにこの状況には予想できず、誰も口を出すことができなかった。

「指令! この状況では我々にとって不利です! 撤退の指示を!」

「…………!」

 部下の進言を耳に入れた司令官はリアルタイムでモニターに映る戦況を見て、苦悶の表情を浮かべながら右腕をデジタルマップに叩き、体を震わせた。そこに居合わせた部下達も思わずたじろぐ。

「……信号弾を発射せよ! 残念だが、全軍をこの中域から撤退する……!」

「! ……イエス サー!」

 司令官の言葉はもはや力を感じなかった。一度顔を下に向けた後、前に向けて命令を下すと士官を含めたガルヴァス兵士らは予想外の命令に一度は困惑し、口を噤んでしまうがその真意を感じ取り、改めて返事する。

 その後、トレーラーから発炎筒が上空に向けて発射され、上空に光が灯される。それは撤退の合図であり、アジア連邦を含む、どう見てもどちらが優位か理解できるこの戦場にいる全軍へと伝わった。

 ディルオス部隊は後方から放たれた光を確認し、次々と後方へ下がっていく。それを確認した茜は一旦手を休めてクリムゾンの足を地面に着けた。その周辺にはクリムゾンによって斬り刻まれたディルオスの残骸が大量に転がっていた。

 まさに屍のごとく様は、いかにクリムゾンの恐ろしさを理解させるには十分であった。

「フゥ……どうやら、撤退していったようね……」

 茜は肩の荷を下ろしつつ肩ごしで後ろに振り向くとこの地を守るアジア連邦の軍隊は歓喜の表情に満ちていた。もちろん言葉には出さないが茜も共感している。

 それを見た彼女はクリムゾンの手に持つヒートソードを再び両腰にセットして、その場から背中を向けるように彼らの前から去っていった。

「ま、これで任務完了、っと!」

 茜は自分の仕事を果たした様子で、満足した顔で砂漠地帯を後にした。その背後では戦場で生き残ってきた人々が一斉に手を振っていたことを知らないままだが。

 もっとも、彼女にとっては途方もない戦いの火蓋であった。その火蓋は日本でも、アジア連邦だけではなかった。



 EU連合――その国は日本と同様に先天的な技術を持った企業がいくつか抱えており、ビルなど巨大な建物が風景として残っていることで有名である。そこは未だにガルヴァスに侵攻を許しておらず、抵抗を続けていた。

 そして現在、その地区にある都市の市街地内で日本と同様に戦闘が行われていた。もちろんEU軍とガルヴァス軍の戦争である。

 EU連合の軍隊は、日本やアジア連邦と同じく旧世代の兵器を大量に戦線に投入し、市街地に入らせないように市街地へ通じる橋の前で待ち構えながらガルヴァス軍に抵抗していた。いわゆる残党軍である。

 一方、ガルヴァス軍も橋の中心部まで渡りながらEU連合との戦闘を継続していた。証拠に戦車から砲弾が放たれる轟音も耳を割らんと今も響いている。

「ガルヴァスの侵攻を許すな! ここが腕の見せ所だ!」

 EU連合の部隊を率いる隊長が部隊に向けて叫ぶ中、戦車は砲弾を絶え間なくディルオスに向けて発射させていた。無数もの編隊を組むディルオスは迫り来る砲弾の雨に晒され、動きを止められている。

 そんな中、その内の一体が砲弾を直撃され、よろけながらもマシンガンを連射し、拮抗を続けていた。しかし、

(そうは言っても……一体、いつまで続くんだ、この戦闘は! これで何日目だ!)

 隊長は今までの戦闘が明らかにおかしいと心の中で疑っていた。それは現在のように戦闘が長引き、夕日が沈む頃合になるとガルヴァス軍は一旦マシンガンを撃ち止めて進軍を中止し、そのまま橋から見えなくなるまで後退していった。

 さらに日が昇るとまたガルヴァスは侵攻を開始し、また夕日が沈む頃になると後退する、ガルヴァス軍はこの行動をなぜか何日も繰り返していた。

 EU軍は相対するガルヴァス軍が町をつなぐ橋の向かい側にいるため、その場で待機しなければならず、戦闘が始まれば進軍への抵抗と、立ち往生する日々が続いた。

 EUの兵士達は何日も繰り返す侵攻に汗をかき始め、さらに疲労が溜まり、現在では息を切らす様子が目に見えるようになり、休憩には思わず膝をつくほど力が無くなったり、立ち上がることすら困難にもなっていた。

(この戦いは明らかにおかしい……。奴らは完全にこの状況を意図的に狙っているとしか思えない! このまま続けてしまったら、こちら側の弾薬が全て尽きてしまう!)

 隊長は兵士達と同様に息切れしながらも、心の中で現在の状況に対して悪態をついていた。表情を見ても余裕が一切見られず、いつ終わるのかと極限状態であったため、彼らの精神は既にボロボロの状態であった。

 まるでゴールが目に映らない長距離のマラソンを走っている感じであり、常に走り続けなければならない、終わりが見えない状況が彼らを苦しませていたのだ。その場で休めたり、食料や水が喉を通ることは救いなのだが、いつ倒れてもおかしくはなかった。

 周囲にいた部下達も同じように疲労が見え、自分のことしか考えられない様子であり、そこまで追い詰められていた。たとえ、それが敵の策略だということ、そして、じわりじわりと終わりの時が近づいていることも最後まで気づくことはなかった……。


終盤でチラっとメカが出ていましたが、次の話ではなんと二機も出ますので、楽しみにしてください。


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