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「おいおいウィル、俺に持たせたの本当に時計?」


 電車と車が上下に交差する高架下。 先ほどとはうって変わった騒音のダブルパンチを堪能できる場所で、季人はウィル特性ヘッドセットを装着し、その製作者に連絡を取っていた。


『ん? その筈だけど?』


 多機能を備えたウィルの新型ヘッドセットのおかげで通話に雑音は殆ど介入せず、付随するマイク事態にも通話以外のノイズを除去する機能があるため、ウィルの方も聞き取りにくいという事は無かった。


「にしては、この時計目当ての淑女と達とすごい出会いがあったぞ。 本職のお嬢様もメイドも始めて見た。 ふっ、やっぱり本職は違うな」


 少なくとも、長年かけて培われてきたものとコスプレ意匠を着たアルバイトでは立ち振る舞いや雰囲気に差が出る。 少女の後ろに控えていた者達は、正しく召しつかえる者達だった。


『わぉ……。 お茶会でも誘われたのかい? “今日は何でもない日”だっけ?』


 ウィルの冗談に季人は失笑で答え、直ぐに真面目な話へと舵を切りなおす。


「テラスで一人お茶してたらウィルから預かってたケースを奪われそうになった。 まぁなんとか乗り切ったが……」


 あの時、季人がスマートフォンから流した音楽は、相手の交感神経を一時的にマヒさせる波長が組み込まれたスタン・ミュージックだった。


 カウンターとなる波長をノイズキャンセルとしてヘッドセットから流していた季人は無事だったが、それ以外の者、半径三メートル以内の人間は、その音楽を聞いた数秒後には全身の感覚が薄れ、痺れにも似た症状を見せたまま三分程度動けなくなる。


 レディー達が意識を失っているところを我関せずで抜け出してきたのは男として後ろ髪を引かれる思いだったが、状況としては早くその場を離れる事を優先せざるを得なかった。


『その時計の資産価値を考えればあり得ない事じゃない。 けど、どっから情報が漏れたんだろう……』


 ウィルの懸念はもっともだった。 ワールドアパートが預かっているアンティキティラ・デバイスの事は、あくまで個人と個人に近いやり取りであり、ホームページ上に載せる事はしていなかった。 それに、自分達の存在もあくまでオカルトサイトの管理人以上のことは載せていない。


「なるべく早く突き止めておいてくれよ。 寝ているところに押し入られるのはイヤだからな」


『確かに。 季人はまぁ別として、女性の居る家に不審者が来ても困るからね』


 防犯設備に対して中々信頼性の高いマンションに季人とセレンは住んではいるが、あのような常識の外に居そうな手合いには、万全の用意をするに越した事は無い。


「俺だって繊細なんだ。 物音どころか、豆電球が点いているだけで寝れない程度には」


『よく言うよ。 まぁともかく、用心だけはしておいて』


「了解」


 季人は改めてボディーバッグを背負い直し、足早にその場を離れた。


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