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「どちらでこの番号を?」

 カバーリの問いに対しても、ウィルは別段変わらない調子だった。

『調べ物が得意なのはおたくの専売特許じゃないのさ。 というより、僕にとっては本職だ。 ただ、住所録には載ってなかったとだけ言っておこう。 さて、お互い無駄話をしているほど親しいわけでもないから手短に行こう。 十分以内に水越季人の身柄を自由にしてくれ。 要求が受け入れられない場合は……』

 沈黙が続く。 季人が口元を抑えて咳払いをしたのを皮切りに、カバーリが先を促す。

「……場合は?」

『あぁ、うん。 とりあえず、君達の口座の凍結とその屋敷を競売にでも出させようか。 即決で決まる程度の値段をつけて。 それとも、イージス艦からのミサイルでも届けようか? 迎撃用ミサイルが時速960Kmでチャイムを鳴らしてくれる』

 ぱっと思いついたかのような交渉案。 しかし最後の件に関して異議を唱えなければならない季人。

「おいおい、それじゃあ俺の身が持たないだろ」と季人が考えるのも仕方が無い。この屋敷から解放はされるだろうが、体から魂も一緒に解放されることは間違いない。 ただ、ウィルにはそれくらい不可能ではないという事は十分すぎるほど分っていた。

「どうやら、冗談で言っているわけではなさそうですね」

『後者は冗談さ。 だけど、前者やその他については確実に実行に移せる。 分っているとは思うけど、交渉に持ち込もうとしても無駄だ。 時間稼ぎも応じない。 回線は常に開いておくように。 別に逆探知してくれても構わないよ。 万が一こちらの居場所が掴めて拘束しようとしても、その時は君達も道連れだ』

 このままだと本当にウィルは行動に移すだろう。 それくらいはやってくれる程度には互いに信頼も信用もしている。 だからこそ、今の関係性を深刻化させないためにはここで口をはさむ必要がある。

「まぁそう急くなよウィル。 こっちはようやく面白くなってきたところだ。 弾道弾の発射はもう少し待ってくれ」

 非日常に飢えている季人にとって、現状はカンフル剤を打ち込まれた程度に興奮している。 それを炸薬で吹き飛ばされるのは勘弁願いたい。

 それにこれは、ここで終わらせることは出来ない話だ。 まだ、触りの部分にさえ到達していない。 あの時計の事だって、まだ詳しくは知らないのだから。

『季人? 無事なのかい?』

「ああ。 ちょっと中世にタイムスリップした以外は概ね問題ない。 ただ、正装じゃないってとこだけ気になるけどな」

 自分のスウェット姿を見下ろしながら言う。 

『そもそも君はスーツなんて持っているのかい? まぁそれはいいとして、本当に大丈夫なんだね?』

「大丈夫だ。 これからこの場に招待してくれたロズベルグ財閥から、ことの本題を聞く所だ」

 そう言ってカバーリを見る季人に、頷きが返される。

『はぁ……。 ならよかったよ。 セレンから電話を受けた時に、彼女かなり動揺していたから、それなりの緊急事態だと思ってさ』

 言われて思い出す。 セレンを部屋に押し込んで扉を閉めた所までは保護者としても男としても及第点だった気がする。

 だが、本当に今の今まで忘れていた。 仮に気付いていたとしても、目の前の人達が大人しく連絡させてくれるかと言えば微妙なところだ。

 ウィルの言うとおり、確かにセレンからしたら一大事に思うだろう。 そこから指示通りウィルに連絡したのは、緊急事態に対する行動プランを言い含めてある内の一つだったから、直ぐに行動できたのだろう。 というより、この場合にウィルへ報告することが一番の正解だ。

「そうか。 それじゃあセレンにも大丈夫だと伝えてくれ」と軽く返す季人だったが、それを聞いたマリオンは逆にしゅんとしている。 自分に責任の一端があると思ったのだろう。 間違いではないが、もう過ぎた事である。 季人自身も既になんとも思っていない。

「ミセスカバーリ、今会話してる相方の同席を許してくれないか?」

「構いません。 私といたしましても、そちらの方が望ましいので。 ただ、この回線は盗聴の恐れがあるので、フレイザー様には特別回線でご参加ください」

『僕の名前もご存じか……。 どうやら、季人の言う通り、本当に面白い話のようだ』

 ウィルの言うとおり、どう転ぶか全く先が見えない。

 カバーリの言うそちらの方が望ましいとは、一体どういう意味なのか。 ひょっとしたら、ロズベルグ財閥からしてみたら、ウィルの参入まで織り込みずくなのかもしれない。

 となると、今のところは向こう側の思惑通りに推移しているという事になる。

 しかし、季人にとってはむしろ望むところ。 話が深く、複雑になるのは季人にとって願ったりだ。


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