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フカの魔性  作者: 黄昏
9/11

運動の後は……

 フレイミアは勝利を実感した後、疲れからその場に座り込む。がむしゃらに動き回ったこともあって安堵した瞬間に忘れていた疲労が一気にのしかかり身体が重くなる。


「だぁ~、疲れた。もう動けない」

「まさか、勝つとはおもわなかったぞ」


 離れて見ていたブランツ、レビィ、フーエルが駆け寄る。レビィが真っ先に手を差し伸べて立ち上がらせた。しかし、もう立つ気力がないフレイミアはフラフラと歩き木の根につまずく。


「わ、危ないわよ」

「へへ、ありがと。あぁ~、ぷにぷに」


 受け止めたフーエルに抱き着くとギュッと力を強めて大きく柔らかい体の感触を楽しむ。フーエルが頭を撫でるとさっきの戦いとは違う穏やかな笑みで目を閉じる。


「ふふ、甘えちゃって」

「その様子だと立ち直ったみたいだな」

「じゃ、後はアタイ等に任せときな。弱らせてたとはいえ、真っ先に戦果上げたのがこいつだからな……気合い入れて全力で行く」

「そろそろヒルルトがやられたのに奴らも気が付くだろう。また空から火球が降る前にフレイミアを移動させよう」


フーエルが負ぶって戦闘位置から離れた所で降ろす。腕を回すレビィとそれに続くブランツとフーエルの背中を見送ると、フレイミアは目を閉じた。

 起きた時には戦いは終わっていて、相手の班が目の前に並んでいる所で起こされる。いつの間にか運ばれていた様で、別の場所にいた。


「起きろ。ぐっすり寝やがって」

「それ」

「ぶっふぁ!」


 寝ぼけた顔にブランツの魔性で放った少量の水が顔にかかる。苦いものでも口にしたかの様な顔でぺっぺと吐き出す素振りをする。もちろん口の中には入ってはいない。

 フレイミアにとって水の魔性(特に手から水が出るもの)は不潔という認識でいる。汚い物をかけられた、と一気に目を覚ます。


「ほら、決闘は終わったぞ。礼をして解散だ」

「あーびっくりした、そんなに寝てたの?」


 フレイミアの問いかけに教員は首を横に振る。


「ヒルルトがやられてからは一方的な戦いだったな。さすがに学年上位クラスの実力者2人がいる班なだけはあるよ」

「雑魚ばっかりってことか」

「おめぇの倍は強かったけどな」


 レビィがツッコミを入れる。

 2組が並び、礼を済ませると安全装置のブローチを教員に返却する。そして再び後ろを着いて行き、学園への帰路を歩く。


「初の決闘だ、疲れただろーしそのまま浴場に行くといい」

「風呂! やっぱ汗流さないとね~。手ぬぐいじゃさっぱりしないしさ」

「風呂……そうか、風呂か」


 皆が楽しみにしている中、レビィだけが耳を垂らしてうつむきがちになる。

 そしてその逆、目を輝かせて先を歩く女子が1人。束ねた金髪が一歩踏み出すたびに跳ねていた。


「お前さ、回復早くないか?」

「ほぼ魔力消費だけだったからね。先生の魔力をもらったらいつも通りよ」


 決闘の間のことを話す彼女達の表情は明るくとてもさっきまで戦っていたとは思えない和やかな雰囲気になっていた。そのままで学園屋内の大きな木製扉の前までやって来る。扉の上の壁には『大浴場』と書いた看板が掛けてあった。

 大きな扉は二つあり、男女に分かれて入るようになっている。


「やっと着いた。ここに来るだけでも結構汗かくんだけど」

「体力無さすぎだろお前、よく戦えたな」


 肩を落として腰を曲げ、すっかりだれきったフレイミアにの横でレビィが呆れる。


「じゃあ、ヒルルト、風呂あがったら部屋に来いよ」

「あー、わかったわかった」


 班員の男子の声に眉を寄せてあからさまに不機嫌な顔をしながら手で払う動作をする。3人を見送った後、フーエルやレビィを押して女湯へ急かす。そんな中、フレイミアだけが廊下に残される。


「私の扱い、変わってね?」


 扉の向こうからする話し声にフレイミアは孤独を感じると急ぐように後を追う。

 入ってすぐの場所には傘立てのような物が置いてありそこに松明を置くと楽し気に話すレビィとフーエルそしてヒルルトが石造りの長い椅子に座っていた。


「なんでまだ服も脱いでないわけ?」

「あぁ? べ、別にいいだろ。お前が遅いからだ」

「喧嘩しないの。私はお話しできるのも嬉しいから大歓迎よ」

「だ、だろー?」


 間に入ってヒルルトが腕を広げる。引きつった笑顔でレビィはそれに合わせる。

 明らかにおかしい態度にフレイミアはその理由に気が付き、にたぁと不気味に笑む。


「猫かよ、水が苦手とかマジありえねー。ぷぷっ!」

「くぅ~~。てめえ、ぶっこ……湯船に沈めてやるから覚悟しろよ!」


 脱衣所でフレイミアとレビィが追いかけっこを始める中、フーエルとヒルルトが互いを見つめて2人の様子に微笑む。


「その、ごめんね。決闘前に言ったこと」

「もういいのよ。それよりも、なんでフレイミアちゃんを欲しがってたのかしら?」

「あなた達の中で一番か弱そうだったから。か弱い娘を守る騎士って格好いいじゃない? 家柄も上級の騎士って事もあって憧れてるのよね、お姫様を守る騎士ってのに……まさかあんなのだったとは思わなかったけど」


 キラキラした目で語るヒルルトの瞳がフレイミアが横切り視界に入ると濁ってしまう。その様子にフーエルは苦笑いすることしかできなかった。

 そんな中1人が痺れを切らして声を出す。


「僕も汗はかく、早く流さないか?」

「なっ!? お前は」


 今この場には似つかわしくない人物。ブランツが4人を急かしていた。

 今まで気が付かないでいた自分と気配を感じない植族の男に驚愕する。


「なんで、男のお前がいる?」

「なに、気にすることはない。僕と君達では身体の構造からして違うんだ、変なことはする気もないから気にしなくていいぞ」

「なんでいるかって聞いてんだよ」

「同じ班じゃないか、一緒に行動するものだろう。そんなに身構えなくてもいいじゃないか」


 拳を震わせるレビィに身じろぎをして開いた手を突き出す。レビィの後ろでは楽園を汚されたことで怒るヒルルトも柄を構えて迫っていた。


「あ、まずいことをしてしまったらしい」


 気が付いた時にはもう謝罪は耳に入っておらず、恐怖に目を閉じ次に開いた時は決闘の時以上のダメージを受けて廊下で天井を見上げていた。


「勇者だな、あんた」

「尊敬する。憧れないけど」


 心配になって廊下に出ていたヒルルトの班の男子に連れられて男湯まで運ばれていく。

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