反魔の刃
定位置に付いたフレイミア達4人に教員がブローチを渡す。赤い宝石がはめ込まれた物で、言われるがままに左胸の上の服に付ける。
「それは安全装置、学園長の魔力の結晶。一定のダメージや魔力残量に応じて反応するよ」
そう告げると、そそくさと森の奥へ消えていく。ヒルルトの班に渡しに行ったのだろうと4人は予想する。
合図を待つ。
空に花火の音が森に響き渡り、レビィとフレイミアは耳をふさいだ。
「合図ってこれか、耳がいいのも厄介だな」
「私は普通にびっくりした」
「さて、どうするか」
「あ、あれ見て!」
フーエルが空を指差すと、赤い光がこちらに向かって落ちてきているのが見えた。それは距離が縮まるごとに大きさがはっきりしてくる。
人の頭部程の火球が複数、4人に降り注ぐ。着弾した火球は爆発し、周囲の木々を倒しながら燃やしていく。
「なにこの攻撃ぃ」
「おわ、アチチ!」
「先制を取られたな」
あたふたするフレイミアとレビィの間でブランツが魔性によって水をまいて消火する。しかし、攻撃は止まず、間に合わないでいた。
火と爆撃によって班は動けないでいた。
「勝負!」
火の中を突っ切って現れたのは細い剣を持った女子、ヒルルトだった。彼女は真っ直ぐにレビィの所へ向かっていく。
「そういう作戦かよ。なかなかやる、けど、前に出たのは失策だな」
「果たしてそうかな?」
細剣で突きを繰り出す。それを硬化する地の魔性をまとった手で弾く。
火花の代わりに互いの魔力が光になって飛び散る。ふと、痛みを感じたレビィが弾いた手を見ると、小さな切り傷が付いているのを確かめると目を見開いて驚きに声を漏らす。同じ魔性であっても勝っている自信があったがそれを打ち破られてしまう。
「な、まさかアタイの魔性を破る奴がいるとは」
「実戦なら手が落ちてたわね。油断してると即リタイアよ」
雨のように高速で何度も放たれる突きを刃に触れないように気を配り弾いていく。余裕のあった顔はすぐに険しくなり、精神的に追い詰められていく。
後退りをしていると背後に熱を感じて止まる。消化しきれていない炎が退路をふさいでいた。レビィの魔性は衝撃には強いが熱等を防ぐ事はできない。
「背水ならぬ、背炎の戦ってか。おいフーエル」
「わかった、今助けるわ」
爆撃も止まない中、立ち止まったフーエルは右手を突き出すと太陽を思わせる熱の塊が出現する。それが形を崩すと炎が柱のようにまとまって直線状に放たれた。周囲の火事より数倍の熱気が迫る。ヒルルトは気が付いて剣を止めると、隙を見てレビィが離れる。
「この威力、ただじゃ済まないぜ」
「入学式で遠目に見た技。対策済みよ!」
迫る業火に目を輝かせて細剣を突き出し構える。炎はヒルルトを包み込んだ後、彼女の後方に飛び火して火事は広がっていく。
「よし! まず1人倒したな」
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったわ」
ヒルルトの攻撃と熱で顔にから出た汗を拭い、レビィは安堵する。
シャン、シャン。燃え盛る炎の奥で白い光が飛び交う。
「あいつ暴れてんじゃない?」
「まさか、安全装置が動いてないとか?」
「いやいや、多分あれは――」
眺めていたフレイミアの予感は的中し、ヒルルトを包んでいた炎が破裂音と共に“一部”を残し飛び散る。
そこには目にも止まらぬ速さで剣を振るい、フーエルの火炎をまとめて留めたヒルルトが立っていた。
「お・か・え・し・だぁ!」
人を軽々と飲み込める大きさの火球が細剣の腹で押し返されると真っ直ぐフーエルへ向かっていく。驚きで硬直した彼女は動けないでいた。
「鈍臭いな、主力がやられると困るんだけど!」
フレイミアは松明を取り出し、黒い火を先から放射して足止めを図る。松明から伸びた火が火球に触れると、不思議な違和感を覚えた。他人が口をつけたコップをそのまま使う様な嫌悪感にも似ている。
だが、勢いは衰えることはない。フーエルの背後からブランツの水弾が手助けするも蒸発してしまう。
「フーエル、固まってるのか、仕方ない!」
ブランツは舌打ちをすると、水弾の狙いをフーエルの背中に定めて撃ち、弾き飛ばして射線から逸らしつつ強引に伏せる。
先程までフーエルのいた地面に火球が着弾、熱風を起こした場所は溶けた土や砂で赤く光り出した。
「あっつーい! あんた手加減を知らないわね。めっちゃ熱いっての!」
強力なフーエルの火炎を返して見せたヒルルトも、さすがに無傷とはいかなかったらしく、服の端等が焦げて煙を上げ、熱さの残る部分を叩いて冷ます。
「あ、ありがとう」
「気にするな。それよりも、フーエルの炎を跳ね返すなんてデタラメな技だ」
フーエルの肩を抱えたブランツとヒルルトの間にレビィが立つ。
拳を胸の前に出して格闘の構えを取り、向かっていく。
「“ブレイズロード”をまた撃てるか?」
「ぶれいず? あ、さっきのね。でも、また返されたら……」
火炎を放った手を撫でて遠慮したようになる。フーエルにとって今のように迷惑をかけるのは避けたいという思いが力を抑えてしまっていた。
応戦するレビィを見てブランツは考える。援護爆撃のこともある、ここで彼女が退場してしまうとさらに不利に傾く。少ないダメージでヒルルトに勝ってくれなければ全体で勝つのは困難だろう。
悩むブランツの視界の隅で目障りにうろつく影に目を移す。
「そうか、フレイミア。お前に活躍してもらうぞ」
「は?」
突然の名指しに戸惑うも、手招きされてブランツの所へ爆撃を避けながら向かっていく。
そして目の前まで来た所で作戦を伝える。
「ほほーう。いいね、やってやるよ」
松明を強く握ったフレイミアは激しい攻防を繰り広げるレビィとヒルルトの元へ飛び込んでいく。