渡された武器
食堂が破壊された翌日。朝食のために寮内の食堂に1年生が集まって雑談に花を咲かせて賑やかになっていた。
フレイミア達も他の者と同様に、班員同士で固まって食事を取っている。広い食堂だが、500人近い生徒がいれば狭く感じられる。手が届く範囲の隣では別の班が食事をしていた。
「まずは力をつけないと挑んでも無意味だな」
「ケッ。やっぱ、手当たり次第に決闘しまくれば強くなれるだろ」
「野蛮な発想だな。もっといいやり方があるはずだろう」
隣に座るブランツとレビィは互いに睨みながら今後を話し合っていた。その様子を見ていたフレイミアは暴れだしてスープがひっくり返されないか気にして器を持ち上げ、会話と動きに注目している。フーエルはというと、落ち着いた雰囲気のままおかわりした何杯目かのスープを飲んでいた。
「実技もいいけど、学科も頑張らないと進級できなくなるかもしれないわよ」
「そうだぞ。脳筋猫」
「誰が脳筋猫だ!」
猫耳を立てたレビィはテーブルを叩いて立ち上がる。わずかだが髪も逆立つ。
食堂のテーブルは一つが長く、数十人は食事できるようになっていて、叩いた衝撃は全体に伝わって皆の皿を揺らす。
「うるさいぞ、朝飯くらい大人しく食えないのかよ!」
数人の生徒から怒られ、舌打ちをして座り頬杖を付く。抗議する生徒の中にはフレイミアに負けた石棒を武器にしている男がいた。
男を見つけたフレイミアは、ニヤリと微笑んで向かいに座るレビィに顔を近づける。
「あいつになら私勝てる。決闘やるならあいつのいるグループにしようよ」
「ん? ま、いいけど」
にししと笑うフレイミアの考えの浅さをわかった上でレビィは了承する。
「決闘もいいが、フレイミアは勉強頑張らないとな」
「大丈夫大丈夫。あんたら学科試験は何点だった? 私は98点」
「え?」
フーエルやブランツも食事する手を止めて驚く。てっきり実技も座学もダメダメな女だとばかり思っていたために班は凍りついたようになる。
「間抜けなくせに、頭良かったのか」
「ま、頭でっかちというやつだろうな。どっちにしろ想像もつかないが」
「い、意外ね。自信あったけど78点だったのに」
フレイミアは気を良くして腰に手を当て威張って見せた。
食器を片付け、準備を済ませると寮を出て教室に向かう。新入生の中にはセメントの壁や、高そうな壁の照明器具を眺めながら歩く者が多くいた。
「そんなに珍しいの、これ。家にも沢山あったけど」
「そりゃ、こんな火を使わない松明なんてここで知ったようなもんだし」
レビィは壁に掛けてあった棒を飛び上がり取ると、フレイミアの目の前に持ってくる。金属製の棒の先には透明な宝石の様な物がはめ込まれ、窓からの光を受けて輝いていた。
「ちょっと、使ってみろよ」
「私はちょっと……上手く扱えないから」
「いいから、やれって」
無理矢理に松明を握らされたフレイミアは仕方なく魔力を流す。
すると、宝石を中心に黒い火が着火される。
「だから言ったのに。フーエルにパス」
「あ、うん」
フーエルに持たせると、今度は白く輝き始めた。流す魔力の量で光の強さを操作できるらしく、点滅させて遊んでいた。
松明を4人で回していると、シワだらけの黒い上着をした緑髪の男教師がやってきてレビィから松明を取り上げた。
「こら、勝手に備品で遊ばない」
「チッ、壊してないからいいだろ」
「良くないな。でも良いものを見させてもらった……あいつの妹の、フレイミアだったか」
「は、はい! すみませんでした」
名指しされ、叱られると思い頭を下げた。が、かけられた言葉は意外なものだった。
「あげるよ。多分、あいつもそう言うはずだしな」
「は、はぁ。ありがとうございます」
「まかさこんなありふれた物でも“魔象器”になるとはね」
教師は微笑むと手を振って教室へ向かって先に歩いていった。フレイミアはというと、急に松明をもらってぽかんと口を開けたまま背中を見ていた。
「良かった……のか? ま、ドンマイ」
「いやさ、地味に重いんだけど、鉄だしさ」
仕方なく鞄の隙間に差し込んで教室まで持って行く。置き場に困り、部屋の隅に立て掛けておくことにした。
「あんなの持ってたら目立つだろって、思ったんだけどさ……」
席に着いて辺りを見回す。額に布を巻いていたり、キラキラしたピアスをしていたり、刀剣や弓矢など武器を持ち込んだ生徒や、そもそも制服を着ずに踊り子の姿をしている者までいた。。
「剣は鞘に収まってるからいいけど、危ないよね。目を合わせないようにしないと」
「お前はナチュラルに喧嘩売るとこあるからな~。何度ひっぱたいたかもう数えてられねぇ」
「は? 皆がレビィと同じで短気な訳ないでしょ、思慮も浅いわけ?」
フレイミアの後ろに回り込んだレビィは両の拳を押し付けてぐりぐりとねじ込む。
「があぁぁぁぁあ! ごめんなさいごめんなさい、ば、爆発……頭が爆発するぅ!」
大粒の涙を流し腕をバタバタと振り回しながらもがき叫ぶ。その声は校舎中に響き渡ったという。