でっどすいーつ
木屑が飛び交い、小さな嵐が巻き起こり煙が辺りを覆い隠した。
「ヴァイン、やり過ぎだよ! 」
「馬鹿じゃないの!」
「何度目の停学だろーねー?」
大男の仲間が怒りをあらわにする。煙が晴れると半壊した食堂が全容を現す。上からスプーンですくったかの様に抉れ、木製の床は彼の魔性の前には壁の役割すら果たさず半壊状態。床板の下から風で巻き上がった土が屋内に撒き散らされていた。
「あばばば……」
剥がれた床板の側にフレイミアが服や顔を土で汚されながら腰を抜かしていた。
フレイミアの座り込んでいた位置にヴァインと小さな男子が目を大きく見開く。
「今の拳、紙一重で避けようものなら俺の風魔性の餌食になっていた。だが、この女はそれすら読んで避けたのか」
「これは、楽しくなるね~」
硬直するヴァイン。男子は落ち着いた様子でスプーンですくったプリンを自分の口まで運んで放り込むと、目をつむって美味しさから唸り声を上げる。
驚きと期待を向けられている当の本人はさっきまでいた自分の位置の惨状を見て腰を抜かしていた。直撃していればどんなに防御しても数箇所の骨折は確実だっただろう。
「あば、あばばばば」
「早く逃げるぞ!」
ブランツの腕から伸びたツタがフレイミアの両腕に巻き付き、屋外へ引っ張り出される。焦った行動のせいで勢い余ってフレイミアの背中が胸部に激突して倒れた。
ツタが解かれて起き上がったフレイミアはブランツの太ももに跨る形で座り込む。
「大丈夫か? ん、この感覚は……」
ブランツは跨られている太ももに何か湿った物が押し付けられている感覚を覚え、その正体が判明すると共に硬直して顔が青ざめていく。
「お前、汚いぞ!」
「うっさいな、男なら聖水だって喜べよ」
「そんな趣味はない!」
言い争う間、フレイミアの顔は真っ赤になっていた。そこにレビィを抱えたフーエルが焦った顔でやってくる。
ブランツはそれに着いていき、フレイミアも遅れて食堂から離れ寮に戻る。
入れ替わるようにして半壊した食堂に教員がやってくるその中に学園長プロミナの姿もある。
「どうだった? 私の妹は」
「ケッ。あんな雑魚、血縁を疑うね」
悪態をつきながら床に唾を吐く。その様子に軽く息を吐いた。
食事を終えた男子は食器を片付けてハンカチで口元を拭きながらプロミナの側まで近寄り、顔を見上げる。
「いや、あの娘は化ける可能性あるよ」
「でしょ! 私の妹なんだから当然よ」
腕を組んで何度もうなずく。そして、辺りを見回して食堂の惨状を確認するとヴァインに対してビシッと指を差す。その様子は壇上に上がった時の威厳や凛々しさはなく、少女の様な幼さが垣間見える。
「気分がいいから一週間の謹慎で済ましてあげよう」
「一週間か、勉強追いつくかな?」
「またみんなで頑張ろう」
班員の4人が集まり、2年の寮へ向かっていった。
部屋に戻ったフレイミア達はブランツを部屋から追い出して待たせていた。しばらくしてドアが開き、ようやくブランツは部屋でくつろげる。
「焦げ臭いんだが」
「そりゃあ、布を焼いたからな」
「火事には気を付けろよ」
処分方法に呆れながら窓際にもたれかかる。
「それにしても、あいつ強かったな! 普通に殴られたダメージだったぞ」
レビィは赤くなった左の頬を撫でる。弾きとばされた瞬間を思い出すレビィは高揚感に口元が弛んでいた。
「きも、もしかしてそういう趣味が」
「あ? もっぺんちびらすぞ」
「ごめんなさい」
拳を振り上げるのを見たフレイミアは即座に土下座する。
「アタイはな、あんな強いやつをぶっ倒してやりたいって思っただけだ」
「戦いたくて入ったんだもんね」
「野蛮だな」
ブランツの呟いた文句にレビィが睨みつけるも、涼しげな態度を取る。
「てめぇも戦うんだから同じだろ!」
「確かに戦うが、僕には夢がある。野蛮なお前とは違うんだ」
「夢ぇ? 私も聞きたーい」
いつの間にかベッドでくつろいでいたフレイミアが手を挙げる。皆が注目する中、ブランツは窓の外を見たままで、黙ってしまう。レビィの視点からは赤くなった横顔を伺うことができる。
「恥ずかしがってんじゃねえよ」
「ふん、お前には分からんことだ。ああいう横暴なのは騎士として許されないだろう、僕もなんとかできればいいが」
「ケッ」
つまらなそうな顔をすると、獣族持ち前の脚力で一気にベッドの上段目まで飛んで腕をだらんと垂らして楽な姿勢で3人を見下ろす。
「けどさ、あいつらが気に入らないってのは同じだろ?」
「もち、私のお姉さまを侮辱した罪はその体で償わせてやるよ!」
フレイミアは拳を握り締め、力を込めすぎて黒い火が拳に灯る。熱を持つ火であればフーエルならば止める所だが、彼女の火は通常時は熱を持たない。
「私だって、デザートを独占するなんて許せない。何とかしてもらうんだから」
「目的はとりあえず皆同じ、か」
4人の目的は歪だが、“でっどすいーつ”を倒すという目的だけは一致していた。