笑顔
――カルがいなくなった。
すっごく小さな村で、それも夜の間に子供が一人いなくなったんだ。
当然、村は大騒ぎになる。
誘拐だの、人拐いが現れただの、根拠の無い憶測が飛び交う。
そんな中、カルは余りにもあっさり見つかった。
見つけたのは村の長老様。
村で一番の魔法使いで、カルの魔力を感じ取って居場所を見つけたとか?
カルは魔力が弱いから、探すのは難しかったらしい。
カルが居たのは、『絶対に入ってはいけない』と村のみんなが言う森の入り口。
大人達が見つけた時はスヤスヤと寝ていたんだって。――頭に葉っぱを付けたまま。
勿論、カルはいっぱい怒られてた。でもカルはずっと、何も言わずに黙ってた。
『ごめんなさい』もしなかった。
変だな?って思ったけど、何が変なのか僕にはよく分からなかったんだ。
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――カルが悪いおばけに取り憑かれた。
そう、お母さんたちが話してるのを聞いちゃった。
カルは悪い子になっちゃったんだって。
でも僕は『カルは悪い子じゃないもん!』って思ったから、久しぶりにカルに会いに行った。
カルはあの日以来『お仕置き』っていって、お外に出ちゃダメなんだって。
「カルぅ~。」
僕はカルの部屋の窓に辿り着くと、グッと背伸びをしてペチペチ窓を叩く。
「ん?」
カーテンが捲られ窓を開けたカルが僕を睨む。
「ひっ!」
体が震えて、恐怖が僕の心を支配する。
泣き虫な僕は案の定泣いた。
でも、しばらくしてからポンと頭に置かれたカルの手が暖かくて、僕は泣くのを忘れてカルを見上げた。
「悪い悪い。ほら、泣くなよ。」
そう言ってカル、優しく笑って頭を撫でてくれたんだ。
――でも、その笑顔は隙間風が入ったときみたいにちょっと寒くて……。
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「おい、ユン。どうしたんだ?」
「え?え?何?」
目の前には見慣れた学校の廊下。
「早く行かねぇと授業始まる。おいてくぞ?」
僕の顔を覗き込んでいたカルが、ニィと悪戯っぽく笑う。
「え?あっ。カ、カルぅー。待って~。」
カルの背中を追いかけながら僕は思う。
――あの、お日様みたいな暖ったかい笑顔は、どこに行っちゃったんだろう?
って。
あの時以来、カルの笑顔は変わっちゃったんだ。
暖かくてポカポカしてたハズなのに、今は隙間から風が吹いてきて少し寒い。
あの時いなくなってから、前までのカルはいなくなっちゃった。