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夢の中まで一途な溺愛王子様と公爵令嬢の憂鬱  作者: 古都助
第三章~ラスヴェリートの結晶~
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~ルディーの怪我とヴェルガイアの解呪~

――ラスヴェリート王宮・セレインの部屋。



「はぁ……、昨夜はとんでもなかったわね~」



いまだ眠り続けるセレインの寝台の傍で、私は頬杖を着きながら独り言を零した。

操られたヴェルガイアと、謎の男……、奪われたラスヴェリートの結晶(仮)。

部屋に戻ったらルイヴェルさんは倒れちゃってるし、

ヴェルガイアは暢気に部屋の中を転がってるしでもうっ!!

後片付けが本当に大変だったわ……。



「ルイヴェルさんもアンタも、いつになったら目を覚ますのよ」



ヴェルガイアは地下の牢屋に繋いであるから、別に後回しでいいとして……。

一晩経っても目を覚まさない二人に対して、不安ばかりが大きくなっていく。


「駄目ね……。ルイヴェルさんにどれだけ頼りっぱなしだったか、思い知っちゃったわ」



――ガチャ。



「リデリア~。そろそろ昼食の時間だよ~!!」



部屋の中に元気の良い声を響かせたエルゼラが、ノルクやシーゼルさん、フィーシュと一緒に入ってきた。

バタバタと私の方に駆け寄ろうとする彼女の優しいブラウンの頭を、

ノルクががしっと掴んで「殿下の御前だぞ。少しは行儀良く入れ」とお兄さんのように叱りつける。



「朝から何度呼びかけても王子様起きないじゃん!

 ノルクの石頭! おかん気質!!」



「あのな……。寝てようが起きてようが、王宮や貴族の屋敷では大人しくしてろ!

 何度言っても聞かねーんだからお前は……。はぁ、元貴族の娘とか詐欺だよな」



「はぁ? ……えい!!」



――ドスッ!!



ノルクの言葉に憤慨したエルゼラが、ギロッと目線を不穏なものに変えて、

右肘に渾身の力を込めてノルクのお腹へと叩き入れた。



「うっ!! この馬鹿力……っ」



お腹を押さえ、エルゼラを睨んだノルクが、ズルズルと絨毯に倒れ込んでいく。

ちょっと……、アンタ仮にも身体鍛えてる剣士でしょ?

エルゼラの一撃で沈没するとか、ちょっと男として色々どうなのよ?

傍にいたシーゼルさんとフィーシュが慌てて助け起こしに行ってるし……。



「ねぇ、リデリア。やっぱり、王子様まだ目覚めない?」



「ええ。何度か名前を呼びかけてみたけれど、全く反応がないわ」



「そっか~。あ、そうだ。ルイヴェルさんの方はさっき目を覚ましたよ」



「本当に? ……良かった」



元々、ラスヴェリートには何の関係もない他国の人なのに、

ルイヴェルさんには多大な迷惑をかけている……。

亡霊屋敷の一件や、私の夢の事、それから、セレインの治療に、謎の男の相手。

一体どれだけの負担をかけているのか……、本当に反省だらけだわ。



「じゃあ、昼食を食べた後で、ルイヴェルさんのお見舞いに行こうかしらね」



「じゃあ私も付いてくね!!」



椅子から立ち上がった私は、最後にもう一度だけセレインの穏やかな寝顔を見遣って、

「アンタも早く目を覚ましなさいよ……」と、小さく音にして、部屋を後にした。










――ラスヴェリート王宮・ルイヴェルの部屋。



「ルイヴェルさん、やっぱりまだ休んでいた方がいいわよ」


「そうですよ、無理はよくありません」



私とフィーシュは、すでに寝台から抜け出し、いつもの白衣姿に戻っていたルイヴェルさんに、

表情を顰めて休養に戻るように勧めていた。

けれど、相手はあのルイヴェルさんだものね……。

自分が大丈夫だと判断している行動を、易々と取り消すはずもない。



「俺は医者だ。自分の身体の事はよくわかっている。

 それよりも、……ルディーは戻って来ていないか?」



「ルディー? そういえば、昨夜も、あの紅の狼の事を『ルディー』って呼んでいたわよね?

 一体どういう事なの?」



「お前達には伏せていたが、あれはルディーの魔力から創り上げた存在だ。

 そして、本物のルディー自身も、昨夜の内にラスヴェリートに到着し、

 今は俺の頼みを受けて、あの男の跡を追っている」


ヴェルガイアに対抗するように襲いかかった美しい紅の狼。

まさかそれが、ルディーの魔力の化身だっただなんて……。

話を聞けば、本体であるセレインに何かが起こった時の為に、

腕輪にその魔力を封じて嵌めさせていたらしい。

さすがルイヴェルさんというか、抜かりないわね。



「でも、ルディーの姿はまだ見ていないわ。

 エルゼラ達もそうよね?」


「うん。まだ見てないよ」


「俺もだな」


「私もです」


「リデリアお嬢様、僕もルディーさんの姿は身ていません」


「……となると、出たのが昨夜って事は、……まさか、何かあったんじゃないわよね?」



急速に胸に湧き上がる黒い靄のような不安……。

ルイヴェルさんの話では、相当前の時間にあの不精髭の男を追って出たはず。

それなのに、まだ戻らないなんて……。

空中に手を翳したルイヴェルさんが、険しい表情をして詠唱を唱えた。

銀色の光がぐるりと円を描くように出現し、その中に映像が浮かび上がっていく。



「これは……、森、かしら……」



ルイヴェルさんの詠唱によって映し出された光景は、薄暗い森の中。

地面に……、何か黒い液体のようなものが……、いいえ、……あれは、……血?

ドクドクと、嫌な予感が胸を打ち、……やがて、全体の映像が私達の前に突き付けられた。



「ルディー!!!!!!!!!!!」



以前にも見た事のある、大人の姿をしたルディーが、血だらけの状態でうつ伏せに倒れている。

瞼は閉じられ、息をしているかどうかもわからない。

口許を覆い、身体を恐怖に震わせた私と同じように、皆もその映像を目にして息を呑んでいた。



「る、ルイヴェルさんっ、ルディーがっ、ルディーがっ」



「あの男の仕業か……」



「は、早く、ルディーを助けにっ」



おびただしい量の出血、早く手当しないと取り返しがつかない事になってしまうかもしれない。

私の震える声に、ルイヴェルさんが転移の陣を出現させ、一瞬にして掻き消える。

同時に、ルディーの姿を映していた術も形を失い、室内には静寂が落ちた。



「の、ノルク……、ルディー、大丈夫だよね?」



「当たり前だろ……。死ぬなんて……そんな事、あるわけ」



「大丈夫ですよ!! ルイヴェルさんが迎えに行かれたんですから、

 どんな大怪我でも、きっと……、きっと治ります!!」



「そうですよ。シーゼルさんの言うとおり、悪い方に考えるより良い方に考えましょう!!」



胸中に渦巻く嫌な不安を、早く消し去ってしまいたいとばかりに、私達はルイヴェルさんの帰還を待つ。

ルディーは死なない。あんなに元気で……明るい笑顔を見せていた人が、簡単に死ぬわけがない。

どうか無事でいて……お願い!!

祈るように胸元で両手を組み合わせた私は、皆を一緒にルイヴェルさんの帰りを待ち続けた。








――ラスヴェリート王宮・客室



「……ルディーって、本当にタフよね~」



寝台の上で布団を蹴り飛ばしながら行儀悪く睡眠を貪っている紅の髪の青年を見ながら、

私は安堵と呆れの交じった溜息を零した。

ルイヴェルさんに支えられて戻って来たルディーは、確かに映像の通りに血みどろの有様だったのだけれど……。

背中に怪我を負っていたというのに、あの森でぐーすか眠ってたなんてねぇ……。

図太いというか、大物というか……、ルイヴェルさんの話では、傷自体は治りかけらしいのよね。

普通の人間だったら絶対安静の重症だけれど、ルディーの身に流れる血が、彼を早く回復させようと作用しているらしい。

だから……、こんなに暢気に寝相悪く寝てられるのよねぇ。



「リデリア、今のうちに地下牢の方に行くぞ」



「ヴェルガイアの所に?」



「ルディーが目を覚ますまでには、まだ時間がかかるだろうからな。

 今のうちに、あの側近の洗脳を解く」



壁に背を預けていたルイヴェルさんが、私やシーゼルさん達にそう告げ、扉へと向かう。

あの不精髭の男に操られていたヴェルガイア……、今は王宮の地下にある牢屋に放り込まれ、

兵士達の監視の下、身柄を拘束されている。

ルイヴェルさんが餌にした足フェチ雑誌を与えているから、きっと大人しくしているんでしょうね。

操られていても、馬は馬……。それは、何があっても変わらないらしい。






――ラスヴェリート王宮・地下牢



「あ~! リデリア姫様~!!

 いらっしゃいませ~」



薄暗い陰気な地下の様子を払拭するように、間の抜けた陽気な声が私達を出迎えた。

鉄格子の向こう側で、足フェチ雑誌を楽しんでいたらしきヴェルガイア……。

一応、アンタ囚人の立場扱いされてるんだけど、なんでそんなに活き活きとしてんのよっ。



「傍目から見れば、全然洗脳なんて受けてないように見えるのにねぇ……。

 ルイヴェルさん、これでもやっぱり解けてないのかしら?」



「普段の様子と全く変わらないのが厄介なところだが……。

 お前達、少しの間、後ろを向いていろ」



「え? なんで?」



ルイヴェルさんの指示にエルゼラがきょとんとした表情で聞き返す。

ノルクもシーゼルさんもフィーシュも、私も同じように何で見ていてはいけないのかと首を傾げる。

けれど、眼鏡の奥の深緑の双眸に不穏な気配を漂わせたルイヴェルさんが、



「トラウマになってもいいなら、止めないが?」



……。

全員、くるりと後ろを向き壁に視線を固定する。

何……、今の意地悪な声音と、危険極まりない笑みは!!

普通は好奇心の方が勝って、ちょっとだけ見ちゃおうかな~とか思うものだけど、

この場にいる全員が、絶対に見るものかと全力逃避の心地で後ろを向いていた。




――……。




ルイヴェルさんが牢屋の中に入って解呪を始めてから十分ほど……。

私達の耳に聞こえていた恐ろしい音の数々は、やっと静寂へと消えていった。

牢屋から出て来たルイヴェルさんが、気絶しているヴェルガイアを引き摺って通路に出てきた。

……あんなに凄い悲鳴が聞こえてたってのに、意外に軽傷ね、馬。



「ねぇ、ルイヴェルさん……。

 解呪って、痛みや傷を伴うものなのかしら?」



「酷いものになると、多少の精神的苦痛や辛さがあると言えるだろうな」



「じゃあ、そのせいで……、あんな凄い声が」



ヴェルガイアの身に根付いていた洗脳の呪は、思ったよりも強く彼を縛り付けていたのね……。

可哀想に……、解呪を行ったルイヴェルさんも、苦しがるヴェルガイアを前に、心を痛めたに違いない。

そう思って呟いたのだけれど……。



「いや、こいつを操っていた術は、軽いものだ」



「「「「「え?」」」」」



「色々と面倒をかけてくれたからな。少し仕置きを加えておいただけだ」



「「「「「し、仕置き……」」」」」



ふっ、と口許に笑みを浮かべたルイヴェルさんとヴェルガイアを見比べ、

私達は再び後ろを向きたくなった。やけに時間がかかると思っていたら……、個人的な恨みを晴らしていたのね。

もしかしてルイヴェルさんって、根に持ちやすい気質なのかしら?

ついでに、報復は何倍にも増量して返すタイプね、きっと……。



「ついでに、ヴェルガイアの記憶の一部を調べておいた。

 俺の読みどおり、……『あの男』も協力者の一人だったようだな」



「あの男って……、セレインの部屋に現れた不精髭の?」



「いや。アイツは操っていた側だ。

 俺が言っている男は、ヴェルガイアに王子の病の種を育てさせる魔力を渡していた奴のことだ」



詳しい説明は、ヴェルガイアをルディーと同じ部屋に運んでから行うという事になり、

ノルクと共にヴェルガイアを支えて運び始めたルイヴェルさんに続いて、私達もその後を追う事になった。




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