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夢の中まで一途な溺愛王子様と公爵令嬢の憂鬱  作者: 古都助
第一章~ラスヴェリート王都への旅路
4/89

~温泉と再会~

一つ目の町に到着しました。


その日の夜、昼に出発した私達の馬車は、タプナの町に着いた。

さすがに夜通し馬車を走らせるのは、色々危険が伴うので夜は宿に泊まることにしているのだ。

にしても……、久しぶりの長時間移動は身体に堪えるわね……。

フィーシュに支えられ馬車から下りると、人通りの少なくなった町を見回した。



「お嬢様、こちらへ。信頼のできる宿をとってありますから、

 今日はそこでお休みください。それと、温泉もありますから是非」



「温泉!!それはいいわね~!!

 馬車に揺られてると、ちょっと背中が痛くなったりするのよね~!!

 楽しみ~!!」




有能な侍従のおかげで、今日はまったり温泉に浸かって気持ち良く眠れそう。

私は宿屋に案内されると、すぐに貸し切りにされた温泉まで向かった。

旅の道中の癒しは必要よね。それが温泉なら、尚更……。

戸を開けて外に出ると、そこに木のを何本も合わせて作られた柵がぐるっと辺りを囲み、

温泉が外から見えないように仕切られていた。

これなら、誰かに見られる心配もないし、ゆっくり浸かれそうだ。

ちゃぷんとお湯を手で掬って、身体を湯船に沈めていく。

ふぅ……、丁度良い温度で気持ち良い……。

柵の向こう、夜空に浮かぶ三つの月を見上げながら、頬を緩ませる。




「セレインをとっちめるための旅だけど、

 こうやって過すのもいいわね~」




しかし、そんなまったりゆっくり温泉三昧は、瞬時に終わりを迎えた。

まさか……、と思った時にはもう遅かった。

唐突に襲ってきた睡魔に目はとろんと眠気で閉じられていく。

ちょっと待ってよ……、こんなところで夢の中に引きずり込まれたら……、

私は意識を失う前に、なんとか中に戻り、急いで身体を拭いて夜着を着込むと、

そこでタイムアウトとばかりに、その場に身体を横たえてしまった。

このままでは、風邪を引いてしまうんじゃないかとか、色々心配はあるけども、

まずは、この眠りの先にいるあの馬鹿男に一発蹴りを入れ込んでやらないと……。




「セーレーイーンー!!アンタねぇっ!!いい加減にしなさいよ!!」




夢の中の私が目を覚ます。そして、そのまま身体を起き上がらせ、

傍に立って見下ろしてきたセレインの腹に勢いをつけた蹴りをお見舞いしようと攻撃に出た。

しかし……、



「なに?せっかく会いに来たのに、いきなりこれ?

 別に君の蹴りならいくらでも喰らってもいいけどさ、

 今はちょっと疲れてるから、パスだね」



がしっと片手で掴まれた右足が、ぱっと離されて地面に落ちた。

先手必勝で攻撃に出たのに、なんで受け止めるのよ……こいつはっ。

だけど、ここでへこんでいてはいけない。

現実の私の身体に戻らないと、心配してフィーシュ達が駆けこんでくるかもしれないのだ




「今すぐ、術を解きなさい!」



「まだ一分も経ってないのに、何言ってるの?

 俺がどんな想いでここまで来たか、少しは考えてくれても……」



「アンタの事情なんて知らないわよ!!

 早く戻らないと、私の身体が風邪引いちゃうんだから!!」



「……外にでもいたの?」



「温泉に入ってるとこを、アンタに呼ばれちゃったのよ!!

 少しは空気読んで行動してよね!!」




私が怒りに任せて捲くし立てるようにセレインに詰め寄ると、

なぜか、口元に手を当てて明後日の方向を見始めた。

なに……、なんなの……、泳ぐような視線とわずかに赤く染まった頬は……。



「てことは……リデリア、今……裸なんだ……」



何を想像してるの、この男は……!

右拳をぐっと握り締めると、ドゴッと音を立てて見事セレインの鳩尾にヒットした。

最近、思うけど、私の攻撃がヒットする時と、まるで掠らない時の違いって一体何なのかしら。

多分……、セレインが何かに意識をとられている時とか、

……妄想に熱中してる……時なのかもしれない。



「変な想像してんじゃないわよ~!!

 ちゃんと夜着に着替えるとこまでは意識を保ったわよ!!

 でも、脱衣所で寝転がってるから、早く戻りたいのよ!!」



「いや、いつかは見ることになるんだろうけど、温泉に入ってる君を想像したら……」



よろめきながらも妄想を止めないこの男を、誰か本当に息の根を止めてやってちょうだい……。

しかも、いつかって何よ……。そんな予定私の人生の中に影も形も入ってないわよ!



「もういい。それ以上妄想続行禁止!!

 とにかく、さっさと現実に戻してちょうだい」



「あぁ、それは、うん。君の身体も心配だし、術は解いてあげるよ。

 だけど、またあとで会いに行くからね。

 それと……」



「なによ」



「いつか一緒に温泉に入ろうね」




――グッ。




戯けたことをぬかすのは、その口かー!と繰り出した拳は、

案の定、セレインの手に受け止められ、挙句の果てには拳を解かれ、

私よりも大きな掌に指同士を絡ませられてしまった。

愛おしそうにぎゅっと絡められた指先に、セレインの唇が触れる。

こちらに流される艶やかな青の視線に、指先の温もりと共に、鼓動がドクンと脈打つ。




「なにすんのよ……!離しなさっ」




絡められていた手をぐっと手前に引かれ、そのまま私の抗議の声はセレインの腕の中に封じ込まれてしまう。

腰にまわった手が、私の身体をセレインの身体に深く密着させ、

耳元に触れた感触が、セレインの吐息だと気付くのと同時に、彼の切なげな熱を宿した囁きが耳におちた。




「これじゃまだ足りない……。

 あとで、また来るから……、待ってて……ね?」




最後に音を立てて触れたのは、セレインの唇だ。

私は、その行為に対応できず、フリーズしたまま、夢の中をフェードアウトしてしまった。

気がついた時には、まだそれほど時間も経っていなかったようで、

私の身体は温泉の熱でまだ温かいままだった……。

けれど、セレインによって与えられた熱は、湯船で得た温もりが去った後でも、

この身に残ったままだった……。















「……はぁ」



ゆっくりと、自室の寝台の上に身を起こす。

仕事が終わってすぐに部屋に戻り、余裕もなくリデリアの夢に繋げてしまった……。

いつもなら、彼女を夢に導いても大丈夫かどうか魔力で気配を探るのに……、

今日に限って、余裕が無さ過ぎたようだ。

今度から気をつけないとな……。

もし、呼び出すタイミングを間違って、リデリアに怪我でもされたら……。

考えただけでも背筋が寒くなる。




「まだもう暫くはやめておいたほうがいいだろうな……。

 ……食事でもとるか」




呼び鈴を鳴らすと、なぜか控えているはずの女官ではなく、

俺の側近であるヴェルガイアがひょっこりと扉から顔を出した。

帰ったんじゃないのか……。

俺と同じく、仕事に忙殺され、限界を越えていたはずの側近は、

いつの間に回復したのか、その顔には満面の笑みを浮かべている。



「まだ、一時間も経っていませんのに、

 もう、リデリア姫様に追い出されたんですか~?」



「……違う。リデリアの方の事情が立て込んでいただけだ。

 また後で会う約束をしている」




……一方的だが。

それをわかっているのか、ヴェルガイアが苦笑交じりに相槌を打って、手に抱えていた軽食をテーブルの上に置いた。

何を持ってきたのかと思えば、いつでも手に取って食べられるサンドウィッチだ。

連日の激務のせいで少々胃の調子が悪かった俺は、これなら食べらるなと思いながら寝台から下りた。




「……お前は今日はついて来なかったな?」



「はは、そうですね~。一応、殿下にとっては久しぶり?の逢瀬でしょう。

 なら、邪魔するのを悪いかと思いまして、今日はご遠慮いたしました」



「……」



「でも、やっぱり、リデリア姫様の愛らしいお顔とナイスなおみ足も拝みたいので、

 後で夢を繋ぐ時は同行させていただきますね~」



「はじき飛ばしてやろうか?」




リデリア……。

君は俺のことを変態変態と罵るけれど、実際、本当の変態は、今目の前にいる俺の側近だと思うよ……。

人生の楽しみが、全て『足』に集結してしまっている。

これに比べたら、俺の愛の囁きや、夢を繋ぐ行動ぐらい、可愛いものだと思う。切実に……。

その後、ヴェルガイアを踏みつけながら適当に時間を潰した俺は、

ようやく、ゆっくりとリデリアに会える時間になり、夢を繋ぐため寝台に横たわった。

さっきの一瞬だけじゃ……さすがにリデリア補給は出来ない。

もっと傍で彼女の存在を長く感じていたいと願うこの心は、幼い頃から、君に囚われたままだ……。

閉じていく瞼の奥で、俺と同じように、彼女も俺を想ってくれればいいのにと願わずにはいられなかった。





いや、主従揃って、どっちも変態だと私は思います(マテ)


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