~旅立ちの日には金棒を~
いよいよ、リデリア公爵令嬢旅立ちの日でございます。
そして、ここで一つ失礼します。
変更点・リデリアのお父さんと国王陛下の関係を、
『従兄弟』に修正しました。
アルパーノ公爵にとって、国王陛下は、年上の『従兄』となります。
よろしくお願いいたします。
―ゴゴ……ゴゴゴゴゴ……
「ん?なんだろ……」
リデリア・アルパーノの専属侍従である少年が、得体の知れない音に気付き振り返った。
用意出来た馬車のチェックやら、これからの行程を再度把握していた少年は、
屋敷の中から響いてきた音に、耳を澄ませた。
重い……、何かを引き摺るような物音……。
次いで、視線を音の響いてくる方に向けると……。
「リデリアお嬢様!?」
屋敷の入口を抜け、階段を下りてきたその人は……。
誰あろう、少年、フィーシュの仕える主であり、この屋敷の公爵令嬢様だったのだ。
「な、なに持ってるんですか!!」
「え?……武器だけど、なに?」
「いや、そうじゃなくて!!なんか見た事もない形状してますけど!!
っていうか、なんで旅行にそんなものが必要なんですか!!」
「並みの武器じゃ心もとないじゃない!!
『アイツ』を仕留めるためには、確実なものを持っていかなくちゃ!!
それと、これは、東の国の武器で、金棒というらしいわよ」
「アイツって、誰ですか!!そして、お嬢様は王都に何をしに行かれる気なんですか!!」
大慌てで私の手から、金棒を回収したフィーシュが、それを屋敷の隅の茂みに放り投げた。
せっかく手に入れた武器を……、しかし、フィーシュが驚くのも無理はなかったのかもしれない。
私は、先日のセレインの暴挙に激しく腹を立てていた。
いくら、機嫌を損ねるような発言を私がしたからと言って、無理やり人の唇を奪うなんて酷過ぎる!
しかも、最悪なことに……。
「(人のファーストキスを~!!あの変態王子めぇ~!!)」
人生初のキスの相手が、よりによって変態……。
自分がこの世で一番の天敵と認識している男なんて、神様は残酷すぎる。
あの日から、私は、どうやってあの男に地獄を見せるような復讐をしようか考え続けてきた。
お父様には、王族相手に暴力は絶対駄目だと言われたけれど、
あの男のことだ。私にちょーっとくらいボコボコにされたぐらいで、国王陛下に泣きつくとも思えない。
要は、人の見ていないところで、瞬殺してしまえばいいのだ。
別に、命までとろうという訳じゃないから、穏便に済ませられるよう闇夜の報復の体でいこう。うん。
「せっかく、屋敷に来た東の商人から買ったのに~!!」
「駄目です!!こんな物騒なものを馬車に持ち込むのは許しません!!」
「主人は私なのよ!?なんで、勝手に決めるのよ!!」
「……旦那様から、もし、お嬢様が物騒なものを持ち込んできたら、
即刻没収するようにと、なぜか言い含められました」
さすがお父様ね……。
私の行動を先読みしてらっしゃる……。
まぁ、私がもし、迂闊なことをすれば、公爵であるお父様にも迷惑がかかるわよね。
わかってた。わかってたけど……、こっそり……一発くらいなら……。
「お嬢様、目が怖いです。落ち着いてください。
もう出発の準備は出来てるんですから、ほら、乗ってください」
「わ、わかったわよ!!」
茂みに放り込まれた金棒に未練を残しつつ、私は馬車へと乗り込んだ。
これで、私の身を守る武器がひとつ減ってしまった……。
仕方ない。お父様に言われた通り、何かひとつ罰を考える方に専念しよう。
セレインが、一番嫌がりそうで泣いて謝るほどの何かを……。
「(と、そういえば……、最近、夢を繋いでこないわね……)」
当たり前と言えば、当たり前か。
人にあんなことをしておいて、のんきな顔で飄々と出てきたら、
今度こそ沈めてやる。完膚なきまでに。
夢の中だから、現実にダメージはないんだし、それくらい許されるはずよね。
けれど……、いつもあった来訪がないというのは……、何か違和感のあるものだ。
夜は規則正しく眠れるし、体調も良い。これは平和なことだ。
むしろ、これが普通なのだ。今までが異常だっただけで……。
「お嬢様、道のりは長いですから、ゆっくり景色でも楽しまれてください。
町に着いたら、宿の手配も出来ていますから」
「ありがとう。何から何まで任せてしまって申し訳ないわね」
「いえ!僕もお嬢様のおかげで、王都に行けるわけですし、良いこと尽くめですよ!!」
「ふふ、王都に着いたら、私は屋敷で休んでいるから、観光に出てもいいわよ」
「いやぁ、さすがにそれは……」
まだ見ぬ王都に期待を募らせるフィーシュに、私はくすりと笑みを零した。
この子は、本当に……、昔から私をよく気遣ってくれる良い子ね。
本当は、王都に行く理由をフィーシュだけには話しておくべきなんだろうけれど、
さすがに、王子殿下をシメに行くなんて聞いたら、卒倒しかねない。
彼の心の平穏を想い、出来るだけ彼に負担をかけないように、
セレインの馬鹿をシメ倒さなくてはならない。
そのためには、渾身の一撃ともいうべき、罰を考えださねばいけないのだけど……。
この旅の途中で良いアイデアが浮かびますように。
私は、馬車の窓から目まぐるしく変わっていく景色に意識を預けた。
その頃、リデリア・アルパーノが馬車に乗り、目的地とした場所、
ラスヴェリート王国・王都クレイシェンでは……。
「王子~、追加の案件ですよ~」
「……もう持ってくるな……。そのまま回れ右して出て行け……」
一体、これで何日目だ……。
リデリアに平手を受けてから、早数日。
いきなり増した仕事の量に、そろそろ精神の限界が来そうだ……。
俺は、本来ならばこれで最後!と思っていた書類にサインを付けると、
そこに追加を運んで来た側近のヴェルガイアに殺気を込めた眼差しを向けた。
これでまた……、リデリアに会いにいけなくなる。
本当は、影にでも任せてしまえば早いのだろうが、
さすがに、量が多すぎるせいで、それをこなすための影に使う魔力が足りない。
夢と夢を繋ぐ術は、意外に消耗する魔力量も多い。
俺は、リデリアに会いたいがために、自分の魔力で自身の影を作りだし、
簡単な案件には、それを用いてきた。
だがしかし、今はそれも使えない状態……。
「国王陛下から直々のお仕事ですからね~。
さすがに突き返すわけにはいきませんよ~」
「……息子を思い遣る心はないのかな……、あの父親はっ」
「王子を信頼しているからこそ、なんでしょうけどね。
私も手伝いますから、頑張りましょう」
今頃……、リデリアはどうしているだろうか……。
もう馬車に乗って、王都を目指している頃かな。
それとも、俺の前回の行動のせいで、王都行きもキャンセルしたりして……。
考えるだけで、絶望しそうだ……。
一枚一枚書類を目に通しながらも、考えてしまうのは彼女のことばかり……。
この仕事が終わったら、今度こそ、リデリアの夢に会いに行こう。
彼女に会えない日々は、正直言って、生きている意味もないほどに辛い。
たった数日だけど、夢を繋ぐ事も出来ず、疲労困憊した身体で眠っても、
魔力は使えず、そのまま寝入るという醜態……。
はぁ……、俺を殺すのに剣とか必要ないな……。
リデリアに会えないだけで、あの世に行きそうだ……。
「ヴェルガイア。速攻で全部片付けるぞ。
これ以上、生殺しの目に合うのは……御免だ」
「おやおや、やる気が出たようで何よりですね~。
では、私も全力でお手伝いいたしますよ~」
視界の片隅で、ヴェルガイアが腕まくりをし、書類に向かって燃えあがるような闘志を見せた。
この調子なら、夕方までには終わるだろう。
そうすれば……。
俺は、ご褒美を用意された子供のように、書類に立ち向かい始めた。
反省して来なかったんじゃなくて、
仕事で忙殺されてて、来ることが出来なかったようです(爆)




