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夢の中まで一途な溺愛王子様と公爵令嬢の憂鬱  作者: 古都助
第二章~王子との再会・目覚め始める不穏~
29/89

~ラスヴェリート国王との謁見~

ついにラスヴェリート王国の王都に到着しました。

国王との謁見を取り付け、王城へと向かいます。




「いやぁ~、騎士の正装持って来てて良かったわ~」




色々あったけれど、やっと王都に辿り着くことが出来た私達は到着の翌日、王宮へ向かう迎えの馬車の中にいた。

ラスヴェリート国王との謁見の為、私を含めた全員が正装にふさわしい装いに着替えている。

ルディーとルイヴェルさんは、予め荷物の中に収めておいたウォルヴァンシアの正装を着ているから準備はいらなかった。




「ウォルヴァンシアに帰るまで必要ないと思っていたがな。

 意外なところで役に立ったようだ」




手首の部分袖の釦を止め直していたルイヴェルさんは、

その身体のラインに沿ったしなやかでスタイリッシュな白の正装を纏っている。

ウォルヴァンシアの紋章の他に、金糸の文様が白の生地に縫い込まれている様は目に美しく、

ルディーの方も、肩の房飾りが金の騎士服に、同じくウォルヴァンシアの文様が肩に刺繍されている。

こうしてきちんと着込んだ正装のルディーの姿は、少年なのにどこか大人っぽく感じられて、

彼がウォルヴァンシアの騎士団に所属している事が真実なのだと伝わってくる。




「リデリア姫様、そろそろ到着するようですよ」



「あら、……懐かしいわね」




フィーシュに声をかけられ、馬車の窓の向こうに視線をやると、視界全体を覆い尽くす荘厳なるラスヴェリート城が映った。

王門の前に馬車が停まり、フィーシュに手を貸して地面に降りる。

十数年ぶりのラスヴェリート城は、幼い頃に見た時よりも視線の高さが違っていて……。




「(あの頃はすごく大きく見えたっけ……)」




お父様の手に引かれて登城したあの日は、初めて見る王城の大きさに圧倒されたわよね。

夢の世界の建物のようにも感じられて、豪奢な王宮内にわくわくして道を進んだのを覚えている。

ここから……、私とセレインの関係は始まったんだっけ。

王宮の門を越えて、一歩一歩進みながら、記憶が幼い私をそこに映し出す……。




『おとうさま! おうきゅうってとってもおおきいのね! 

 まいごになっちゃいそうよ!!』



『そうだね。お父様の手を絶対に離さないようにするんだよ』



『うん!』




お父様の手をしっかりと握り締め、煌びやかな王宮に笑みを浮かべながら進んでいく私。

セレインのお母様が暮らしている後宮は、あちらの方の回廊から行けたはず……。

立ち止まり、向こうの回廊を思い出に浸りながら見つめていた私に、

ルディーが心配そうに声をかけてくれた。




「おーい、リデリアの嬢ちゃん、大丈夫か~?」



「うん、大丈夫よ。少しだけ、……昔の事を思い出していただけだから」



「リデリアの嬢ちゃん、そういえばここに来た事があるんだっけか?」



「ええ。幼い頃に一度だけね。その時……、セレインと出会ったのよ」



「つまり、ここはお前にとって、面倒事の始まりだったと、そういうわけだな」




面倒事の始まり、か……。

幼く大人しい王子、お母様である王妃様の傍で引きこもるように時を過ごしたセレイン。

お父様の配慮により、私はセレインの遊び相手としてここへやって来た。

もう、十数年も前なんて思えないくらいに……、記憶に鮮やかに当時の事が浮かび上がっていく。

ルイヴェルさんに促され、私はかぶりを振ると、その思い出を一度心の底に閉じ込めるように歩みを進めた。






――キィィィ……。





「アルパーノ公爵令嬢、リデリア・アルパーノ様お越しにございます」




騎士の高々とした声音に、私達は玉座の間へと入室した。

真っ赤な絨毯の上を歩き、玉座の下でドレスの裾を掴み礼の挨拶をとる。




「ラスヴェリート国王陛下におかれましては、

 お忙しいところをお時間を割いて頂き、感謝いたします」




私の横では、ルディーとルイヴェルさんが膝を絨毯の上に着き、他国の王への敬意を表す姿勢をとっていた。

ラスヴェリート国王、セレインのお父様であり、この国の絶対的なトップ。

私のお父様とは従兄弟の関係にあり、幼い頃に一度挨拶をしたきりだ。




「顔を上げよ。

 遥々遠いところをよくぞ参った、リデリアよ。

 アルパーノからは大体の話は聞いておる……。

 息子が何やら迷惑をかけたようだな……」




太く逞しい声帯が紡いだ声は、重々しく一国の主を表すに相応しい重低音だ。

私は言われた通りに顔を上げ、玉座に座るラスヴェリートの国王を見上げた。

……セレインによく似ている。

髪の色こそ違うが、歳を重ね貫録が出た頃には、きっとあの王のように穏やかで威厳のある風情になるだろう。




「リデリアよ、息子が仕出かした罪は必ず償わせよう。

 お前の望むように、あれを好きに罰するが良い」




仮にも、次期国王であるセレインを好きにしていいって……。

思ったよりも、親としてあるべき姿がそこにあり、私は息を呑んだ。

お父様から言われた、セレインへの罰。

それは……。




「申し訳ありません、国王陛下。

 それは、セレイン殿下にお会いしてから心を決めたいと思っておりますので、

 今暫しの猶予をお許しください」



「ふむ。お前がそれで良いならそれもよかろう。

 して……、そちらのウォルヴァンシアの客人方よ、顔を上げられよ」




まだセレインにどんな罰を与えていいか決めかねていた私から視線を外し、

膝を着いていた二人にそう声をかけると、ルディーとルイヴェルさんがゆっくりと顔を上げた。

どちらも、一国の王を前に引かぬ強さを持った意志強き眼差しを浮かべている。




「お初にお目にかかります。ラスヴェリートの王。

 私は、ウォルヴァンシアの騎士団を束ねる長、ルディー・クラインと申します。 

 謁見をお許し頂いた事、深く感謝いたします」




「え? る、ルディー……」




いきなり横で、とんでもない肩書が飛び出したのは私の聞き間違い?

小さく疑問の声を上げた私に、ルイヴェルさんが黙っていろと目配せを寄越してくる。

嘘でしょう……。確かに騎士だって事は知っていたけれど、

まさか……、騎士団の長だなんて。

意外すぎるルディーの地位に、私は身動きも忘れていた。




「同じく、ウォルヴァンシアが王宮の医師、ルイヴェル・フェリデロードと申します。

 ラスヴェリートの王に拝謁賜ります事を嬉しく思います」




二人の挨拶を受け取った国王が、深くひとつ頷く。

傍にいた臣下の人から一通の手紙を手に受け取り、それを取り出し開く。





「先に我が王宮に届いた手紙によって、事の次第は受け取っておる。

 アルシェの町から離れた森が消え、謎の陣が現れたとのこと……。

 早急に我が国の術者達を調査に向かわせよう」



「あれは、恐らくこの国にとって何らかの影響を及ぼす存在と感じました。

 慎重に事を運ばれるようにお願いいたします」




ルイヴェルさんが深緑の瞳を国王に据え言葉を紡ぐ。

その声音が混じりけのない真剣さを含んでいるためか、国王も顎に手を当てそれに応えている。

アルシェの町から離れた場所にある森、そこに現れた謎の陣。

ルイヴェルさんの見立てでは、あの場所は確かに魔力の集まりやすい『場』であり、

そこに陣を刻むという事は、なんらかの目的が存在するとの事だった。

だから、一刻も早くあの陣の目的と効果を明かさないとならないのだけど……。

ルイヴェルさんはウォルヴァンシアに近い内に帰らなければならないから、

国王に引き継ぎを頼んだのだ。





一通り、難しい話を終えた頃、ふと、玉座の扉の向こうに騒々しい声がくぐもって聞こえてきた。

女官達の誰かを制止する為の声……。

国王との話を終えた私達はくるりと振り向き、





――バタァアアン!!





「リデリア!!」




騎士達に取り押さえられながら、肩で荒い息を繰り返し夜着を身に着けたその姿。

私を呼ぶその声は……。

拘束された腕を振り払い、私だけを瞳に映して駆け寄って来るのは……。




「せ、セレイン……?」




夢の中で見ていた時と違い、どこか病的めいて苦しそうな雰囲気のセレインに、

私は自分の目を疑うように声を発した。

今にも倒れそうな顔色で、私の腕を引きこの身をその腕の中へと抱き締める。

泣き出しそうなくらいの呻き声が、肩ごしに伝わってくる。




「リデリア……っ、リデリア……!」




何度も私の名を繰り返し、熱の籠った声音で呼び続ける。

間違いない、この人は……、セレインだ。

でも、どうしてこんなに衰弱したように弱っているの?

昼間だというのに、夜着のままだ。

夢の中ではどこも具合が悪そうな事なんてなかったのに……。

病でも得てしまったのかと不安になる。




「セレインっ、んっ、苦しいからっ、離してちょうだいっ」



「……っ」




これが元気な状態だったのなら、今すぐに足蹴りで沈めているところだ。

けれど、仮にも国王の眼前。かたや、病人のように見えるセレイン。

さすがに暴力は繰り出せない。

身を捩ってなんとか引き離そうとしていると、セレインの背後に銀の影が現れた。




「王子~! 落ち着いてくだ、さ~い!」




―ベチーン!




銀の影は思いきり勢いよくセレインの首に何かを押し当てると、

「っ!」という声と共にセレインが絨毯の上に崩れ落ちた。

私もしゃがみ込み、何が起こったのかとセレインの首に手を回すと、ヒンヤリとしたもちもちした感触がした。

これは……、熱を出したり風邪を引いた時に病人に使う冷却効果のある道具、よね?

もしかして、この冷たさに不意打ちを受けてセレインはびっくりして力が抜けたの?




「ちょっと、大丈夫? セレインっ。

 ……って、すごい熱じゃない!」



「どうした? ……これは」




異変に気付いたルイヴェルさんが、私達の元に駆け寄り膝を着いた。

セレインの額に手を当てその熱を確認し、その手首の脈をとる。

そして、険しい瞳をセレインに向けた後、その身体を横抱きに抱き上げた。




「陛下、セレイン殿下を自室に戻し、診させて頂きます」




その焦ったような声に、国王は浮かしかけていた腰を一旦玉座に収め、許しの言葉を与える。

ルイヴェルさんに抱き上げられたセレインは、苦しそうに何度も浅い息を吐き出しては小さく呻いている。




「私が王子をお止め出来なかったばかりに~っ、

 リデリア姫様、すみませ~ん!」



セレインの首に冷却道具を当てた銀髪の長い髪の男が、私の前で手を組み合わせて涙目で謝ってくる。

この物言い、この声……。

私は玉座の間を出て、騎士さんに先導されるルイヴェルさんを追いかけて皆で走りながら大声を上げた。




「アンタ、ヴェルガイア……、馬、なの!?」



「はい~! 人間の姿では初めてまして~!!

 それと、王子は今ご病気なんです~!!」



「どういうことなのよ!!」



「わかりませ~ん!! リデリア姫様との術を解いてから急速に体調を崩されまして~!!」




ヴェルガイアの簡単な説明を受けながら、

長い回廊を駆け抜け、暫くすると王子の居室であるという区画に移り青の絨毯の上を急いだ。

あんなにルイヴェルさんが焦るって事は、セレインの状態は良くないって事よね。

……一体どうしちゃったのよ、セレイン!


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