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夢の中まで一途な溺愛王子様と公爵令嬢の憂鬱  作者: 古都助
第一章~ラスヴェリート王都への旅路
2/89

~夢から覚めて・セレイン視点~

リデリアが目を覚ました頃、同じように王宮で目を覚ましたセレイン。


「んん~……!」



夢から覚めた俺は、椅子に背中を預け大きく伸びをした。

今頃、彼女も目覚めた頃だろう。時間からして、ティータイムでもとっているかもしれない。

綺麗に片付けられた執務用の大きな机を前に、俺は次の案件を持ってこさせようと横に視線を向けた。

王子である俺の執務を補佐する側近の男に視線を向けると、ぐーすかとまだ夢の中にいるようで机に突っ伏している。

椅子から立ち上がり、その幸せそうな面を力いっぱい引っ張ってやった。

ぐにーんと気持ちいいほど伸びる頬だ。しかし、まだ側近の男が起きる気配はない。




「……おい、お前の大好きな綺麗な足が目の前にあるぞ」




ボソリ。側近を起こすために放った言葉は、見事功を奏した。

カッと目を見開き、側近の男が椅子を蹴倒す勢いで立ち上がると、

右、左、前、後ろ、と鬼気迫る形相で辺りを見回した。



「どこですか!!私好みの素敵な足!!」



「……」




無言で執務机の上から持ってきた厚い本を片手に持つと、

俺はそのまま、側近の男に向かって振り下ろした。

本の角が、非常に良い音を立てて側近の頭にめりこんだ。




「いったぁああああああ!!なにをなさるんですか!!」



「お前がいつまでも起きないからだろう。

 あと、ここには俺達以外いないから、さっさと目を覚ませ」



「はぁ……、また騙して起こしたわけですね。酷いなぁ……。

 あぁ……でも、リデリア姫様のおみ足は、非常に綺麗でしたねぇ……」



「今日限りでクビにしてやろうか?ついでにお前の家も断絶させてやる」



「ちょっ!そんなご無体な!!」




頭から巨大なたんこぶを作りだした側近、ヴェルガイアの戯言に、

不機嫌そのものだった俺は、さらに苛立ちを増大させられた。

この側近は、頭と行動力は俺の右腕として申し分ないが、

困ったことに、無類の足フェチである。

それは、男だろうが女だろうが関係なく鑑賞の対象となり、

理想とする足を探しては日々観察に余念がない。

仕事と関係のない場所で変態行為に走るのは構わないが、

俺のリデリアに目をつけるのだけは許してはおけない。

やろうと思えば、本気で潰してやるから覚悟をしておけよという意味も含めて、

もう一度、ヴェルガイアの頭に二撃目を打ち込んでやった。




「それと、お前はいつまで俺の夢に同行する気なんだ?」



「痛い……、うぅっ。……いつまでって、王子がリデリア姫様の夢に忍び込まなくなるまで、ですかね」



「迷惑だ。最初はオプションとして許してやっていたが、最近のお前の行動は目に余る」




幼い頃、どうしてもリデリアに会いたかった俺は、自身が抱いて生まれた魔力を使って、

対象者の夢と、自分の夢を繋ぐという方法を思いついた。

これがあれば、リデリアに好きな時に会いにいける。俺はその期待に鼓動を高鳴らせた。

しかし……、一度使ってみたら、物の見事に現実に戻ってぶっ倒れた。

まだ確実な制御も出来ない子供が術を行使したのだ。当然といえば、当然だった。

これでは、リデリアに好きな時に会えない……。




そう落ち込んでいた俺の元に、ある日、側役としてヴェルガイアが王宮にやってきた。

俺より少し年上のヴェルガイアは、元気のない俺の様子に気が付き、

知らず知らずの内に、俺も誰かに縋りたかったんだろう。

ヴェルガイアにだけ、リデリアに会いたいことと、夢を繋ぐ術のことを話した。

しかし、内容が自分の我儘であるだけに、大人に相談するわけにはいかない。

こっそりと、誰にも気が付かれずに、リデリアの元に行きたかった。

そんな俺の望みを、側役だったヴェルガイアは意図も簡単に叶えてくれたのだ




俺にだけこっそりと教えてくれたヴェルガイアの秘密。

表向きはただの貴族だが、実は人の魔力を傍で安定させ行使させる能力をもつ家系なのだと。

その言葉に、俺は一も二もなく飛び付いた。

リデリアに会いたい、ただその一つの強い想いが俺を突き動かしていた。

そして、ヴェルガイアは、俺の我儘を笑顔で引き受けてくれたのだ。

夢の中では、白馬となって俺の傍にいた男、それが、ヴェルガイアだ。




最初は、俺の魔力安定係として、一方で俺が現実にちゃんと戻ってくるようにと、

監視役としての意味もあったのだろう。ヴェルガイアは今日に至るまで夢の中に同行し続けた。




「もう俺の魔力も安定しているし、自由に使うことも可能だ。

 お前の助けはそろそろ必要ない」



「王子~、それは駄目、ですよ。

 貴方一人で行かれたら、下手をしたらいつまで経っても戻ってこないかもしれないじゃないですか」



「さすがに、俺も自分の立場はわきまえているから、そこまでの心配は必要ない」



「わかりませんよ~!誰の邪魔も入らない二人だけの世界!!

 恋する男女が、そんな理想の楽園にいたら、ずっとそこにいたいと思うのが本能でしょう!」



「……両想い、なら……な」




目の前で力説して見せるヴェルガイアに小さく呟き、俺は自分の机へと戻った。

一日にこなさなくてはならない仕事の大半は、朝の内に片付けてある。

後は、夕方に残ったものを片付けてしまえば、自分の部屋に帰れるだろう。

ヴェルガイアの不要な心配に溜息を吐きつつ、窓を向こうに視線を投げた。

本当に……、彼女も俺を愛してくれるのなら、ヴェルガイアの心配も意味を持つのかもしれないな。

けれど、今のところ、その懸念は何の意味もなさない。




俺がどんなにリデリアを愛していても、彼女は違う。

幼い頃の夢への不法侵入、嫌がる彼女への過剰なスキンシップ……。

最初は、会いに来てくれなかった彼女を夢の中に見つけた時、

嬉しさと一緒に湧いたのは、ある種の怒りだった。

自分はこんなに君を想っているのに、君は俺に会いに来る事もなくなった。

そんな事実に腹が立ち、俺は、彼女が嫌がる方法で愛を伝え始めてしまったのだ。

今思うと……、本当にアホだったと思う。




気の強い彼女が引くぐらいのキャラクターを作り上げ、その引き攣る嫌そうな顔を見て喜んだ。

蔑みの視線も、罵倒も言葉も、最初は少々堪えたが、すぐに慣れてしまい、

俺は……、彼女の感情全てを独り占め出来ることに幸せを感じ始めてしまっていたのだ。

それが、どんな言葉であっても構わなかった。

俺を真っ直ぐに瞳に映す彼女、他の誰でもない俺のことだけを頭でいっぱいにしている彼女。

好きになってもらえずとも、それだけで俺は幸せだった。




「とにかく、お前の心配は無用だよ。

 リデリアは俺が大嫌いなようだし」



「わかりませんよ~、嫌いも嫌いも好きのうち、みたいに、

 いつか、殿下のお気持ちに胸きゅんしちゃったり~」



「お前の脳内は幸せでいいな。

 それより、自分の分の仕事は済んでいるのか?

 俺に付き合っているせいで、支障が出ているんじゃないか?」



「あはは~、そうですねぇ。たま~に徹夜したりしますけど、

 ま、大丈夫ですよ」




のんきに笑うこいつが羨ましいな、本当……。

それにしても……、俺は夢の中での出来事を思い出した。

リデリアを好きだという俺に対し、他の女を勧めてくるあの無神経さ……。

あまりの言い様に、ついつい押し倒してリデリアの唇を奪ってしまった。

なぜかと聞かれれば、……腹が立ったとしか言い様がないな。

人の気持ちも考えず、喋るのを止めない彼女に苛立って、その言葉を全部封じてしまいたかった。

聞きたくない……、リデリアの口から、その凛とした声音から、他の女に行けなんて言葉……。

リデリア以外、俺は誰も愛する気はないし、見合いの話だって全部ゴミ箱行きにしている。




時を見て、リデリアの父であるアルパーノ公爵に、彼女を妻に迎えたいと言おうとは思っているが、

あの娘大好きな父親のことだ。色々対策を練ってからいかないと、笑顔で断られそうだ。

一番てっとり早いのは、リデリアが俺を好きになることだ。

そうすれば、相思相愛の男女を引き離そうとは、さすがのアルパーノ公爵もしないだろう。

だが……、現在の状況は、明らかに俺に不利だ。

リデリアの俺への気持ちはあきらかにどん底レベルでマイナス値。

素直に今までの所行を土下座でもして謝って、友達からでもいいから始めるべきか……。

いや、そんなに悠長なことは言っていられないだろう。

リデリアは夢の中で見たように、とても美しく気高く育った。

そんな魅力に溢れた華を、誰が放っておくだろうか。

今までは、裏から手をまわして、リデリアに懸想しそうな貴族は排除してきたつもりだ。

公爵位に釣られて寄ってくる者、リデリア自身に興味を抱いて懸想する者、

使える手は全て使って阻んできた……。

だが、……アルパーノ公爵が本格的に動いたら、俺には手が出せなくなるだろう。

リデリアが万が一にも、アルパーノ公爵の用意した男に惚れでもしたら……、




「(立場とか全部忘れて、その男を殺す自信しかもてない……)」




そんな自信は、出来ればもちたくはない。

しかし、黙って笑顔で結婚式に参列する自信もない。

いや、まず招待状事態用意されそうにないが……。

もしそんなことになってしまったら、俺はどうすればいい……。

きっと生き甲斐を失ったような生気のない屍のように成り果てるだろう。

リデリアだけを想って生きてきたのに……、

今さら他の女を適当に見繕って、それを相手に子作りに励む気持ちなんて持てるわけもない。

後宮に女を何人入れられようが、相手など絶対しない。

となると……、下の弟達に王位を譲って、陰からリデリアの幸せを見守るとか……。




「そんなの絶対したくない!!って、ぐはぁあっ!!」




危ない未来を想像してしまい、叫んだ俺の頭に本の角が容赦なく打ち込まれた。

誰だ!と顔を上げたら、ヴェルガイアが呆れた顔で、俺が置いた本を手にしていた。




「今、変な妄想してたでしょう?しかも、絶望的な何かを」



「お前、王子に向かって容赦ないな……」



「何年側近やってると思ってるんですか~?」



「うっ……」



「来てもいない未来を想像して、へこむのは止めてください。

 リデリア姫様が、今、どんなに貴方を嫌っていても、

 ちゃんと話して、真っ直ぐに愛を伝えていけば、いつかはわかってくださいますよ」



「現在進行形で、変態だの歪んでるだの、色々言われてるが……」



「変態だって、恋はしますよ~。

 そのパワーで奇跡を掴む事だって、不可能じゃありません。

 諦めなければ、いつかはきっと……」




諦めなければ、か……。

当然、リデリアを諦めるなんて選択肢は俺の中には存在しない。

けれど、




「さっき、夢の中で無理やりキスしたからな……。

 絶対、怒ってるだろうな……」




「……王子……。すみません、前言撤回していいですか?」



「は?」



「そんなことまでしちゃったら、さすがに女性の心理的に、

 アウトぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」




本をゴトンと床に落としたヴェルガイアが、俺を思いきり指差して大声で叫んだ。

……俺は、どうしたらいいんだろう……。(遠い目)

その後、葬列に参加しているかの如き雰囲気で、俺達は仕事に臨んでいた……。



 






この王子も、実際は余裕ぶってますけど、内心はどこか臆病だと思います。

あと、白馬は、現実で人の姿であろうとも、変わりのない変態でした(笑)

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