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『それでも、続く日々』 お題:大嫌い


 時折、客から聞かれることがある。『フェアリーとはなんなのか?』

 その答えを自分は持たない。すべては両親から引き継いだだけのものだから。ただただ『そういうものだ』ということと、扱い方しか知りはしない。もちろんそれを客には言えないので、いかにもそれらしくごまかしているわけなのだが。


『見て。また考えてる』


『考えてるね』


『むつかしいことばっかり』


 くすくすと笑う声が店内に満ちていく。僕はカウンターに肩肘をついたままフェアリー達を軽く睨んだ。

「なぜ笑うのかな君たちは」


『だって』


『わからないものはわからない』


『それがあなたにはわからない』


『可笑しい』


「はいはい何しろ基本的に暇で考えるくらいしかやることのないしがない自営業だからね。悪かったね」

 投げやりに答えて息を吐く。

 別に怒っているわけではない。フェアリー達を嫌っているわけでもない。ただ、時々思うのだ。他にやりたいこともみつけられず、遺されたものに頼って生きる自分は。

 そんな自分を、自分は――


『アルト。ねえアルト』


 こちらの気を引くかのように、瓶のひとつがチカチカと瞬いた。

 『ガーデンクリスタル』だった。不透明な白の中にうっすらと緑を内包する、古参のフェアリーのひとつ。つきあいが長いせいか彼女とは意思疎通がしやすく、言葉もかなりはっきりと聞こえてくる。

「何か用かい」

『悩んでる?』

「……別に」

『人間はときどき本当じゃないことを言う。変なの』

「君達だって、人を誑かすことはあるじゃないか」

『わたしたちは「言わない」だけ。本当じゃないことは、言わない』

 そうかそうかと適当に相づちを打つ。と、ガーデンクリスタルは瓶の中で瞬いた。

『ねえ。考えてること、当ててあげる』

「ん?」


『アルトは、自分が何もできないと思ってる。それが嫌だって、思ってる』


「さすがはインスピレーションのフェアリーだ、急に突飛なことを言い出すね」

 皮肉っぽく言い返してやった。……当たっているけれど。認めてしまっては立場というものがない。

 しかし、そんなことはお見通しとばかりにガーデンクリスタルは続けた。

『気にすることないのに』

「別に、気にしてなんかいないよ」

『アルトはわたしたちの「声」が聞こえる、それだけで、すごい』

「……そうは言っても……」

 口ごもり、どう返したものかと思案する。否定するのは簡単だが、フェアリー達の機嫌を損ねるのももちろん望ましいことではなく、それでは――


『それに、わたしたちはアルトが好きよ』


 不意に聞こえた単語。耳に入り、しかしすぐには頭に入ってこなかった。

 言葉もなく瓶に目をやれば、光が真摯な雰囲気で明滅している。


『だから元気でいてほしい。元気がないと心配。ちゃんと元気でいて。でないと、他の誰がわたしたちの世話をしてくれるというの?』


「……」


 今度こそ沈黙した。この言いようでは本当に心配されているのか単に自分フェアリーたちのためなのか、微妙なところだ。

 ――まあ……いいか、それでも……

 微苦笑と共にため息をついたとき、小さくドアの鈴が鳴った。

 顔を上げる。細く開いたドアの隙間からは、初老の品の良い男性が顔をのぞかせていた。

「失礼。開いていますかな」

「いらっしゃいませ。開いておりますよ、どうぞお入りください」

 打って変わってよそ行きの顔を作る。呆れたような笑い声のさざ波は耳に蓋をしてやりすごし、いつものように、にっこりと笑って見せた。

 何はともあれ、仕事だ。


「フェアリー専門店『レッツェル』へようこそ。お客様、どのようなフェアリーをお捜しでしょうか?」



                               END



おしまい。

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