表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

『告白』 お題:そしてある日の夕暮れに


 りん、と扉を開ける鈴の音が響き、店主は椅子を立ち上がる。

「いらっしゃいませ」

「……こんにちは」

 おずおずと入ってきたのは、数日前のお客だった。気の弱そうな、線の細い少年。中央地区の中等学校の生徒というのは知っている。彼はその手に、この店で扱っている瓶を握っていた。

「おや、どうされました」

 開きかけた少年の口は、またすぐ閉じた。何度かそれをくり返す間、主人はにこにこと待っていた。

 そして、少年が顔を上げる。

「あの! これを……お返ししたくて!」

 先日売ったはずの瓶をさしだされた。店主は首をかしげた。

「こちらの『フェアリー』、お気に召しませんでしたか」

「あ……! いえ、そうでは、なくて……」

 語尾がしゅるしゅるとしぼんでいった。おやおやと苦笑して、店主は彼に歩み寄る。

「お役に立ちませんでしたか? フェアリー『ジャスパー』は」

 瓶の中で、暗い紅の球体がわずかに光を放った。それが不満の表現とわかってはいるが、ここはひとまず置いておく。

「いえそんな……すごく効果はあって! おれ、彼女にちゃんと告白できたんです! こいつのおかげなんです! だけど……っ」

「だけど?」

「わからなく、なって……おれ、こいつにたよっちまって、よかったのかなって……」

 うつむきがちになった少年から、店主はそっと瓶を受け取った。

「『ジャスパー』には精神力を高める効果があります。あなたはその力を借りて、告白を成功させた――けれど、そのことに納得いかなくなってしまった?」

 少年はかあっと赤くなった。こくり、うなずいて、また声を小さくする。

「今日これから、彼女の返事をもらえるんです。だからそれは……ひとりで、聞きに行きたくて。だけど、こいつを手元に置いておいたら、また、たよりそうで」

「ええ、ええ。わかりました。かまいませんよ」

 主人は瓶に「おかえり」とささやいた。それからぽんぽんと少年の肩をたたく。

「お引き取りしましょう。お代はお返しできませんが、それはよろしいですか?」

「! も、もちろんです」

「それでは、この後の幸運を。……ああ、それとあとひとつ、よろしいですか」

「はい?」

 フェアリーの瓶を少年の前に。すると『ジャスパー』が、ちかちかと微かに輝いた。

「『がんばって』――だ、そうですよ」

「えっ……」

「ところでお時間はだいじょうぶですか? お相手を待たせるようでは、それこそまずいのでは?」

 あっと声を上げ、少年はあたふたと店を飛び出していった。

 店主も戸口を押し開けて外へ出る。見上げれば見事な夕空が広がっていた。その色はジャスパーともよく似ている。

「残念でしたね。最後まで見届けられなくて。……いえいえ彼ならだいじょうぶでしょう。ひとに、何かにたよりたくないと、決意できるほどの強い子ですよ。ふられたとしても立ち直ります。……え? 『縁起でもないことを言うな』?」

 店主は朗らかに笑った。

 店のドアが閉まる。りん、と鳴った金色の鈴も、今は夕焼けの色を映していた。


                                END




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ