第二話
どうしてこうなった。
今現在、俺は両手両足をロープで縛られ転がされている。
やっぱり人間見た目だよ。
大男は悪者で、しかも山賊の首領らしい。
誰だよ、顔は怖いが心根の優しい世捨て人とか言ったの。
小屋の中には部下が4人居た。
いずれも悪人面をしており、尚且つ小物臭い。
こいつ等が山賊だと分かった時点で、叩きのめすのが正しい道なのだろうが、残念ながら今の俺は丸腰だ。
下手に刺激せず、ここは大人しく囚われた方が良いだろう。
騒げば殺すと言われたから従った訳ではない、決して。
小屋の隅に転がされたまま、俺は山賊達の会話を聞いていた。
どうやら山賊達は、俺をどこぞの貴族だと勘違いしているらしい。
確かに元の世界では貴族ニートだったが、彼等がそれを知るはずもない。
やはり、溢れ出る高貴なオーラで分かってしまうのだろうか。
が、よくよく会話を聞いてみると、どうやらジャージに目を付けたらしい。
確かに、彼等が纏うボロ切れの様な服と比べると、上等な作りなのだろう。
これが無かったら、一体どうされていたのか。
考えるだけでぞっとする。
その後も、身代金だとか奴隷商だとか、物騒な言葉が飛び交う。
俺を貴族だと思うのなら、どこの家の者か確認し、その上で協議すべきだ。
それなのに俺に何も尋ねないのは、どういうつもりだろう。
言葉が通じないという線は無い。
すでに会話は交わしているし、彼等の言葉も分かる。
単に頭が弱いのだと結論付けるとしよう。
と、そこで俺はある事に気が付いた。
言葉だ。彼等は日本語を話している。
この世界の言語も日本語なのだろうか、便利な事だ。
しかし、よく見ると彼等の口の動きと言葉が合っていない。
おそらく、女神のご都合主義的な力が働いているのだろう。
確認しようがないので、そう思っておく事にする。
しかし、改めて考えてみると酷い話だ。
何の脈絡も無く、話も半ばに異世界に飛ばされた。
しかも選ばれた理由が、俺に存在価値が無いからだときた。
その上、スタート地点は何も無い森の中。
初期装備は自前のジャージのみでチート武器すら無し。
チュートリアル的イベントも起こらずに、ただただ腹が減るばかり。
そしてようやく辿り着いた先が山賊の隠れ家で、拘束される始末。
あの女神は、そろそろ次の選ばれし者 を選定するべきだ。
割ともう駄目かもしれない。
そんな風に俺が諦めモードに陥っていると、山賊達に変化が見られた。
首領の大男が手を挙げ、その場に居る全員が黙り込んだのだ。
全員の視線が扉へと向けられている。
もしや誰かが近付いて来ているのだろうか。
俺には何も聞こえないし、気配など感じようもない。
が、山賊ともなれば、常に狙われていてもおかしくはない。
人並み以上に敏感である必要がありそうだ。
どうやら俺の予想は当たっていたらしい。
首領が武器を手に頷くと、部下達もそれぞれの武器を手に取り立ち上がった。
見るからに殺気立っているので、友好的な来訪者ではないのだろう。
そして山賊達は俺を放って外へと出て行った。
うーん、蚊帳の外。
俺は主人公に成れないタイプなのかもしれない。
せめて女神に与えられた加護とやらが何なのか分かれば違うんだろうが。
取り敢えず、今はあの山賊達が退治されるのを祈るほかなさそうだ。
しかし事態が動いた事で、僅かばかり思考が前向きになる。
先程の山賊達を見事に倒したのは腕利きの美少女だった!とか。
いや、一人で来るとも考えにくいから、美女揃いのパーティかもしれない。
何にせよ、早い所俺を解放して欲しいもんだ。
と、都合の良い妄想をしていると、外から激しい戦闘の音が聞こえてくる。
いや、戦闘の音とかリアルに聞いた事もないけど。
金属同士がぶつかる甲高い音や、誰かの野太い雄叫びが聞こえるのだ。
おそらく間違ってはいないだろう。
あ、今誰か死んだっぽい。
しばらくの間、俺は外から聞こえる声や音をぼーっと聞いていた。
今更慌てた所でどうにもならないし、ここはあれだ。
果報は寝て待て。
俺が最も好きな言葉だ。
そして一際大きな悲鳴が上がり、それ以外の音が止んだ。
戦闘が終わったのだろうか。
俺は扉を注視する。
あの扉が開かれた時、目に映るのは山賊達か美少女か。
前者だったら今度こそ諦めよう。運が無かったのだと。
足音が近付いてくる。
どうやら複数の様だ。
カチャカチャと金属音が聞こえるので、甲冑でも身に纏っているのだろうか。
もしそうであれば、あの山賊達ではない。
これは期待してもいいのではなかろうか。
扉が開かれる。
さぁ、おいでませ美少女剣士!
「む、誰か居るのか?」
やや警戒した声音と共に現れたのは、白銀の甲冑に身を包んだ金髪の男だった。
その背後には、やや鈍い色の鎧を纏う男達が居る。
女性の姿はそこになく、彼等の鎧は所々血に塗れていた。
うん、やっぱそんな美味い話は無いよね。