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女子高と男子校シリーズ

全力直球

作者: 尚文産商堂

僕は今、恋をしている。

恋の相手は、同じ部活の先輩。


僕の部活は料理部で、入部したきっかけは、料理が好きだからという、ただそれだけの話だ。

部活には、先輩も何人かいて、僕はその先輩たちにいろいろと教えてもらいながら料理を楽しんでいた。

3年生の井野嶽幌(いのだけほろ)先輩は、小さい方、大きい方と身長で先輩を言っていたが、普段は名前で呼んでいた。

「こんな感じですか?」

「うん、そんな感じで」

今日作っているのはショートケーキだ。

今は、スポンジ台につけるクリームを作っている。

シャカシャカと泡立て器を動かしながら、先輩に見てもらう。

スポンジ台は、井野嶽先輩が作ってくれている。

さっき見てもらったのは、ショートケーキにのせるためのいちごを切り揃えている、2年生の女の先輩だ。

2年生には、女子しか入らなかったそうで、男の俺は、3年生の先輩が卒業してしまうと、一人きりとなる。

できればもう一人ぐらい同性のやつがいると、僕自身の心も楽なのではあるが、来年に期待しておこう。


「よし、できた」

井野嶽先輩が、きれいにデコレーションをしたケーキを料理部の部室の机の上に置く。

「完成ですか?」

僕は井野嶽先輩に聞く。

「うん、完成。あとは食べるだけだね…」

井野嶽先輩が横を見ると、陽遇琴子先輩がすでに皿を用意して待っていた。

「…食うかい」

井野嶽先輩が聞くと、おもいっきりうなづいていた。

「先輩、こっちの片付けも手伝ってくださいよ」

そこに、小さな方の先輩である岩嶋阿古(いわしまあこ)先輩が井野嶽先輩に言った。

「さきにこっち切っちゃうよ。何等分かな」

「私と員子(かずこ)と先輩お二方と、後は及川(おいかわ)君かな」

及川というのが僕の名前だ。

「じゃあ、5等分…どうやってだよ」

井野嶽先輩は、そう言いながら、星を指で描いていた。

「うん、ここだな」

そう言って、いっきに中心へと向かって包丁を入れた。


「お待たせ、ショートケーキだよ」

白い家庭科で使う皿の上に、頭が平らな純白の山がそびえていた。

その上には、真っ赤な苺が載っていた。

「やっぱし、幌のはうまいわ」

笑いながら井野嶽先輩に言っているのが、陽遇先輩だ。

付き合っているという噂もあるが、どうもまだ告白はしていないという話だ。

「この3年間、ずっとそれだけ言っていたな」

「えー、せやって、うまいもんはしゃあないやんか」

陽遇先輩が井野嶽先輩にひっつきながら言っている。

僕はそれを見ながら、黙々と食べていた。

「おいしい?」

話しかけてきてくれたのは岩嶋先輩だ。

ちなみに、片思いの相手でもある。

「あ、はい。十分おいしいです」

「そう、静かだから、ちょっと心配しちゃった」

笑顔で、先輩は話しかけてくれる。

「おいしい物は、自然と静かになるものかもよ」

にやっとして笑いながら岩嶋先輩に話しかけているのが、大きい方の先輩の沢入先輩だ。

「そうかもしれないけど、ケーキってみんなで楽しんで食べるものじゃないかな」

ケーキを一口食べながら、明らかに僕に視線を送りながらさらに続ける。

「特に、心を開けて話し合えるような人となら、なおさらね」

僕はこの時、一度目線を合わせただけで確信をもった。

この先輩が好きなんだと。


食器類を片付けている間、先輩たちも一緒に乾燥棚へと食器を移していた。

「ほら、こっちに貸して」

岩嶋先輩が僕が持っていた洗い終わった食器を受け取った。

「ありがとうございます」

渡すと、すぐにタオルで拭いて乾燥棚へと置く。

「これで全部やな」

「そうだね」

陽遇先輩が周りを確認して、井野嶽先輩がそれに答えた。

「ほな、わては先に帰るわ」

陽遇先輩が、井野嶽先輩に言ってから部室から出た。

「先輩はもう帰ってもいいですよ。あとは私たちでしておきますから」

「そうかい、じゃあ帰らせてもらうよ」

沢入先輩が井野嶽先輩に言って、すぐに陽遇先輩を追いかけていった。

「……岩嶋先輩」

「ん?」

「ちょっといいですか」

「いいわよ」

沢入先輩は、何かを察したようで。

「じゃあ、あたしは先に帰るから」

「うん、ごめんね」

岩嶋先輩が言うと、からからと扉が閉められた。

僕は、もう後戻りはしない。


部屋の中は、僕と先輩だけ。

「ストレートに言います。どうか、付き合ってください!」

バッと音が聞こえるぐらいの勢いで、キョトンとしている先輩に頭を下げる。

これまでの人生で、最も長い5秒間を経験した。

その沈黙は、僕の頭をなでてくれる、その暖かい手で終わりを告げる。

「それが本心?」

「はい」

わずかに答える。

「いいわよ」

先輩は優しい声で、僕に答えた。

「付き合って、いいわよ」

もう一度、同じ声で。

手が頭から離れると、ゆっくりと顔をあげた。

そこには、笑顔の先輩がいた。

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