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また、あえたね

作者: 鮎坂カズヤ

  



 どこ?


 おかあさん、どこ?


 ボク、どうなったの?


 ボク、おかあさんをまもれた?


 おかあさん  おかあさん













 きがつくとまっしろなところにいた。

 まっしろなかべ。

 まっしろなじめん。

 まっしろなそら。

 そんなまっしろなところにいた。


「あっ、生き返った!」


 こえがきこえた。

 ニンゲンがうえからボクをみていた。

 おどろいた。こわい。こわい。

 ニンゲンはいしをなげたりおいかけてきたりするんだ。

 だから『いかく』しなきゃ。

 おかあさんがいってた。ニンゲンがちかくにきたらおおきなこえをだしなさいって。

 それを『いかく』っていうんだって。


「ウゥーーッ! アン! アン!」

「かわいー、一生懸命吠えてる♪ でもまだ暴れちゃダメだよ。もうちょっとだけ横になってようね」


 おおきなこえをだしてもこわがらないよ。

 だめだ、たべられちゃう。

 ニンゲンにつかまるとたべられちゃうんだ。

 あたまからガブッてたべられちゃうんだ。

 いやだ、たべられたくない。


「ウゥー! アンアンアン!」


 ガブッ!


「あいたっ、噛まれた〜! もー、あたまきた! お前なんてこうだ!」


 ボフッ!


 あたまのうえになにかふわふわなものがおちてきた。

 たべられちゃったんだ!

 ボク、たべられちゃった。

 ……かなしい。ボク、しんじゃった。


「ク〜ン、ク〜ン」

「よーし、おとなしくなった。そのままちゃーんとおねんねしててね〜」

「ク〜ン、ク〜ン」


 ……からだがおもうようにうごかない。

 これがしんじゃうってことなんだ。

 なんだかあしがいっぱいいたいよ。

 なんでいたいのかな?

 おかあさんはどこいったの?

 おかあさんになめてもらったらいたいのなくなるのに。

 おかあさん、どこいっちゃったの……?


「ク〜ン…」


 おかあさん、もしかしてあのときたべられちゃったの?

 ボク、おかあさんをまもれなかったの?

 アイツがおかあさんたべちゃったんだ。……かなしい。

 あいたい……、おかあさんにあいたい……。


「…………」


 なんだか……、ねむいよ。

 このままねたらおかあさんのとこにいくのかな?

 おかあさん ―――




  ◇◇◇




「ほ〜ら、ミルクだよ! これ飲んで元気だしてね、おちびちゃん♪」


 ……おかあさん? ――ちがう、さっきのニンゲンだ!

 いやだ、こわい。こわい。


「ほ〜ら、これくわえて! まだ母乳は出ないから粉ミルクだけど、と〜っても栄養あるんだよ〜! ほら、飲んで飲んで」


 ……? なんだかいいにおいがする。

 おかあさんのおっぱいのにおいがする。

 めのまえにあるものをそっとなめてみる。

 ――― おいしい! おかあさんのあじがする!

 おかあさん、このなかにいるの? おいしい…おいしい…


「ふふ、夢中になって飲んでる。……か〜わい〜♪ 竜ちゃん仕事から帰ってきたら、このコ見てびっくりしちゃうかな?」




  ◇◇◇




「マイ……、こいつどうしたんだ?」

「わたしが産んだの」

「えっ!? ……んなわけないじゃん。妊婦がそんなギャグ言うなよな」

「ほら、こんなになついてる。きっとわたしのことお母さんだと思ってるんだよ」

「指先噛まれてるだけじゃん」


 カプカプ。……おいしい。

 なんだかやわらかくて、かんでてきもちいい。

 ニンゲンだとおもってたけど、このヒトってもしかしてたべものだったのかな?


「このコまだ歯がとがってないからカプカプされるの気持ちいいんだよ♪ あとで竜ちゃんにも噛まさせてあげるね〜」

「いや、それはいいんだけど。そいつどうすんだ? うちで飼う気か?」

「もちろん! このコとわたしは出会う運命だったんだよ! さっき産婦人科に行く途中で血まみれのこのコが寄りかかってきたの! 急いで病院で治療してもらってなんとか動けるようになったんだよ! それを竜ちゃんは放り出そうとするの!? 鬼ー!! 鬼畜ー!!」

「鬼畜ってなんだよ!? て言うか、さすがにそんなことしないって。まぁ、ケガが治るまではおいてもいいけど……」

「ケガが治ったあとは放り出すの!? 鬼ー!! 鬼畜ー!! ドスケベー!!」

「あー! もうわかったから落ち着けよ! そいつはうちで飼うよ、飼わせてください!」

「やった! やっぱり竜ちゃんやっさし〜! 愛してるよ〜竜ちゃん♪」

「わー! 飛び回るな! おなかの子に障るだろ! 落ち着けー!!」

「アン! アン!」


 このふたりはじゃれあってるのかな?

 ボクもいっしょにはねる。

 ――― いたい。

 あしがいたいのわすれてた。

 でもたのしい。

 なんだかいっぱいたのしい。




  ◇◇◇




「ほら〜、チビ〜おいで〜」

「アン、アン!」


 おいしいヒトがボクをよんでる。

 またおかあさんのおっぱいくれるんだ。

 まだあしがすこしいたいけど、がんばってはしる。


「はい、よくこれました〜♪ ごほうびのミルクだよ〜」


 おいしい、おいしい。

 このヒトもおいしいけど、やっぱりこのしろいもののほうがおいしい。


「竜ちゃんもあげてみる? もうすぐお父さんになるんだから練習しなきゃ!」

「そうだな。よし、やってみるか。ほら、チビおいでー」


 しろいものが大きいヒトにとられた。あるくのいたいけど、がんばる。


「……なんか、こうよたよたとこっちに歩いて来るの見るとやばいな。思わず抱きしめたくなっちまう」

「でしょ! 竜ちゃんもすっかりこのコのトリコだね♪」

「……子供ってこんな感じなんだろうな。危なっかしくて、ほっとけなくて。いくら世話が大変でもそれを苦に感じさせないくらい愛らしくて……。守ってあげたいって、心の底から思えるんだろうな」


 まるくてツルツルしてて、うまくかめない。

 かまないとおいしいのでないから、ちゃんとかまないと。


「ははっ、ほらここだよ。ちゃんとくわえろって」

「竜ちゃん、なんだかすごく優しい目してる」

「えっ、そうか?」

「うん。竜ちゃんのこんなに優しい目、久しぶりに見たかも。初めてHした時以来かな?」

「……お前、そういうこと誰かがいる前とかで絶対言うなよな」

「言っちゃダメだった? ごめんね」

「……へー、言っちゃったのか。そうなのか」

「竜ちゃん、だんだん目が怖くなってるよ。ほら、チビにちゃんとミルクあげないと」


 おなかいっぱい。もうたべられない。

 おいしいヒトのところまであるく。

 このヒトもいいにおいがするんだ。

 すこしだけ、おかあさんとおなじにおいがするんだ。


 カプカプ


「……やっぱり噛まれるんだな」




  ◇◇◇




「すっかり足も治ったね、チビ。逆にわたしはあまり動けなくなっちゃった」

「しょうがないさ。結構おなかも大きくなってきたしな。もういつ産まれてもおかしくないんだろ?」

「一応予定日は二週間後なんだけど、早ければそろそろ産まれるかもって言ってたよ」


 おいしいヒトはあまり前みたいにはねなくなった。

 つまらない。

 いっしょにはねるの楽しかったのに。

 どうしたんだろう?


「じゃあ、仕事いってくる。何かあったらすぐに俺に連絡しろよ!」

「竜ちゃんは心配性だな〜。大丈夫、携帯ずっとポケットに入れとくから、何かあってもすぐかけられるよ」

「チビ、マイに何かあったらちゃんと守れよ。お前だけが頼りだからな」

「アン!」


 大きいヒトがボクを見てなにかいってる。

 あそんでくれるのかな? やった、やった。

 ――― あれ?

 しっぽをふってるのに大きいヒトは行っちゃった。

 いつもあさはどこかに行っちゃう。

 どこに行くんだろう? ボクもいっぱい外にでたいのに。


「竜ちゃんいっちゃったね。仕事とわたしのどっちが大切なのかな? もちろんわたしだよね〜、ねえチビ♪」

「アン! アン!」


 足、もういたくないよ。

 おもいっきりはしりたい。

 外にでたい。外にでたい。


「アン、アン、アン!」

「ん〜? そんなに吠えてどうしたのチビ? おなかすいたの? ちょっと待っててね。すぐミルクつくるから。……よいしょ」


 おいしいヒトがゆっくり立ち上がる。

 やった、外にでれるんだ!

 おもいっきりはしれるんだ!

 どこから外にでるんだっけ?

 大きいヒトが外にでたところまではしる。

 でも戸がしまっててでれない。

 ……かなしい。


「ク〜ン」

「あれ、チビ? 玄関前に座っちゃってる。散歩に行きたいの? 今日は夕方に病院に行く予定だからその時まで待っててね♪」

「ク〜ン」


 かなしい。

 ここにくる前はいつだってじゆうにはしりまわれたのに。

 はやくそとにでたい。

 いっぱいでたい。




  ◇◇◇




「―――あっ、もうこんな時間だ。検診いかなくちゃ。ほら、チビ〜お外行こうね」


 おいしいヒトがそとにだしてくれた。

 うれしい。だけど、あまりじゆうにうごけない。

 ひもでつながれてておもいきりはしれない。

 でもうれしい。うれしい。


「あん、そんなに強く引っ張らないでよ〜。わたし結構動くのしんどいんだからね」


 うれしい。うれしい。そとの匂いだ。うれしい。


「ふふ、チビうれしそうだね〜。そんなにしっぽ振っちゃって。でも急がないと暗くなっちゃうから、早く行こうね」


 うれしい。うれしい。

 もっとおもいきりはしりたい。

 でも、おもいきり動こうとするとおいしいヒトがじゃまするんだ。

 あっちに行きたいのに、なんでこっちにつれて行くの?

 じゆうにうごきたい……。

 あっちにいきたい……!


 グンッ!


「あっ! チビ、だめー!」


 ―――ひもがはずれた!

 じゆうだ。じゆうにうごける。うれしい。

 おいしいヒトがうしろからおってくる。

 つかまったらじゆうじゃなくなっちゃう。


「チビーッ!!」


 うれしい。うれしい。じゆうだ。

 おもいきりはしれる。うれしい。

 外の匂いがつよくなる。

 ボクのすきな匂い。

 おかあさんといっしょにいたときの匂い。

 木の匂いがした。

 これもすきな匂い。

 久しぶりに草木に体をこすりつける。

 気持ちいい。

 気持ちいい。


「はぁ、はぁ……。チ、ビ……」


 おいしいヒトがふらふらしながらこっちにやってきた。

 なんだかいつもよりゆっくり動いてる。どうしたんだろう?


「アン!」

「はぁ、はぁ……。よかった、急に走るんだもん……。はぁ、ぁ―――」


 どさっ。


 あれ? おいしいヒトがねちゃった。

 気持ちいいのかな?

 ボクも同じようにねてみる。

 気持ちいい。

 気持ちいい。


「はぁ、はぁ……。おなか、いたい……。ちょっと、だめ、かも……」


 おいしいヒトは気持ちよくないのかな?

 なんだかいっぱい苦しそう。

 どうしたのかな?

 わからない。

 こんなに気持ちいいのに。

 どうしたのかな?


「グルルル……」


 ――― うしろからこわい声がきこえた。

 この声、どこかで聞いたことがあるよ。

 ……そうだ、前にボクとおかあさんをたべようとしたアイツだ!

 おかあさんをたべたアイツだ!

 こわい、こわい……。


「はぁ……、はぁ……、怖い犬、きちゃった……。竜、ちゃん……」

「グルルル……」


 アイツがちかよってくる。

 ボクたちをたべようとしてるんだ。

 こわい。こわい。

 ―――でも、まもらなきゃ。

 このヒトをまもらなきゃ!


「ウゥー! アン! アン!」

「グルル……」

「はぁ、はぁ……、チビ……」


 ――きた! こわい、こわい!

 でも、今度こそまもらなきゃ!

 まもらなきゃ!


 ガブッ!!!


「キャイーン!」


 かまれた! いたい!

 いっぱいいたい!

 でもまもらなきゃ、まもらなきゃ……!


「アン! アン!」


 ガブッ!


 力いっぱいかんだのに、アイツはへっちゃらな顔してる。

 これじゃだめなんだ。

 もっと力をいれてかまなきゃ。もっと力を――、


 ブンッ!!!


「キャン!!」


 いたい! ふりまわされた!

 足が、背中が、いっぱいいたい! いたい!

 でも……、負けない!

 こんどこそおかあさんをまもるんだ!

 ――― あれ? まもるのはおかあさんだっけ?

 とにかく、まもるんだ!


「アン! アン!」

「ワォン!」

「キャイーーン!」


 いたい! いたい!

 でも……、まもらなくちゃ。

 まもらなきゃ……、まもらなきゃ……。


「やめて!! チビをいじめないで!!」


 おかあさんの声でアイツはおどろいてる。

 今だ、今度こそ……!


 ガブッ!!


 やった!

 首におもいきりかみついてやったぞ!

 どうだ、まいったか!


「グルル……、ワォン!」

「キャン!!」


 ひっかかれた!

 いたい、いたい! いっぱいいたい!

 でも……、まもらなきゃ……、

 守らなきゃ ―――、


「チビ! ……これ以上チビを傷つけたら、許さないから!!」


 お母さんの叫び声。

 お母さんの気迫にアイツは怖がってるみたいだ。

 少しづつ後ろに下がっていく。

 ――― 今だ。


「ワォン!!!」


 怖がってるアイツに思い切り吠えてやった。

 ボクの声に驚いて、アイツは逃げていった。

 アイツの匂いが消えた。

 本当にいなくなったんだ。

 やった、お母さんを守れた。

 今度こそ、守れたんだ。

 良かった……、良かった……。


「うぅ、チビ……。こんなに、ケガして……。わたしのこと、守ってくれたんだよね? ありがとう、ホントにありがとう……」


 お母さんに強く抱きしめられた。

 ……あれ? 泣いてるの、お母さん?

 泣かないで、お母さん。


 ペロッ


 お母さんが泣き止むようになめてあげる。

 お母さん、泣かないで。

 でもどんなになめても、いっぱいなめても、お母さんは泣き止まない。

 それになんだか苦しそう。

 どうしたんだろう?

 もうアイツはいなくなったのに。

 お母さん、どこか痛いの?


「うぅ……、おなか、痛いよ……。竜、ちゃん……」


 プルルル、プルルル


 お母さんの体から変な音が聞こえる。

 なんの音だろう?


『もしもし? ……もしもし? もしかして、マイか?』

「竜ちゃん……、痛いよぅ……、産まれ、そう。たす、けて……」

『おい、もしもし! 今どこにいんだよ!? 答えられるか、マイ!?』

「……山の、入り口近くの、うぅっ、……大きな木が、あるとこ……」

『それだけじゃわかんねえよ! もしもし、マイ! マイ!』

「……はぁ、はぁ……」

『聞いてるかマイ!? しゃべらなくてもいいから、絶対電話切るなよ!』


 お母さんが持ってるものから大きなヒトの声が聞こえる。

 あのヒトならお母さんを助けられるかもしれない。

 あのヒトを連れてくるんだ!


「ワン! ワン!」


 お母さん、待ってて!

 すぐにあのヒトを連れてくるから!

 すぐに戻ってくるから!


 ダッ!!


 ――― 痛い!

 足が、首が、体中が痛い!

 でも走らなきゃ、走らなきゃ!

 お母さんを守るんだ!




  ◇◇◇




 ―――おうちまで戻ってきた。なのにあのヒトはどこにもいない!

 どこにいるんだろう?

 お母さんは苦しんでるって言うのに、一体どこにいったの!?


「ワン! ワン!」


 どこにいるの?

 早く、早くあのヒトを連れていかなくちゃ!

 大きいヒトがいつも向かう方向に走る。

 足がふらついてうまく走れない。

 どうしてうまく走れないの?

 速く走りたいのに。

 早く大きいヒトを見つけなきゃいけないのに。

 どうしてうまく走れないの?




 もう 走れなくなってもいいから


 もう 勝手に先に走ってったりしないから


 もう 一緒にはねること できなくてもいいから


 もう 白いモノもいらないから


 お母さんを助けられたら もうなんにもいらないから


 お願いだから あのヒトを見つけさせてください 


 お願いだから


 お願いだから




「チビ!!」


 ――― あのヒトの声がする

 よかった  やっと見つけた


「チビ! マイは!? あいつはどこだ!?」


 このヒトを連れて行かなくちゃ

 お母さんのいるところまで  連れていかなくちゃ


「チ、チビ! どこに行くんだよ!? マイのいるところか!?」


 あれ  もう痛みを  感じない 

 ずっと走ってるのに  苦しくもない

 前しか見えない

 お母さんの  いる  ところへ  続く  道しか  見えない

 お母さんの  こと  以外  何も  考えられない

 どうしたのかな

 ボク  どうしたのかな

 でも  いいや

 早く  早く

 このヒトを  連れて  いかなくちゃ

 連れて  いか  な  く  ちゃ




  ◇◇◇




「――マイっ!!」

「……竜、ちゃ、ん……」

「くそっ、破水してる……! すぐ救急車呼ぶからな! もう大丈夫だからな、マイ!」



 やっと  やっと ついた


 これで お母さんは  助かるの  かな


 お母さん  また  元気に  跳ねること  できるの  かな


 大きいヒトが お母さんを   助け て  くれるよね


 何だか  とっても疲れた


 何も  感じない よ


 何も  見え  な   い  よ


 何も 考え ら れ   な   
















 きがつくとまっしろなところにいた

 まっしろなかべ

 まっしろなじめん

 まっしろなそら

 そんなまっしろなところにいた


 ちかくにだれかがいる

 ……おかあさん?

 おかあさんなの?


 みえないけど かんじる

 やわらかくて いいにおいがする

 ――― おかあさんだ!

 おかあさん たすかったの?

 ボク おかあさんをまもれたの?

 ボク おかあさんをたすけられたの?


 よかった

 おかあさん

 おかあさん

 あいたかった

 あいたかった
















「おぎゃー、おぎゃー!」

「がんばりましたね、奥さん。一時は本当に危なかったけど、無事に産まれましたよ。とっても元気な男の子です」

「本当に? 看護婦さん、わたしにも抱かせて……」

「マイ、マイ……! よくがんばったな」

「竜ちゃん、産まれたよ、わたしたちの赤ちゃん」

「ああ、そうだな。……チビは残念だったけど、この子だけでも無事に産まれてくれて、本当によかった」

「……この子が産まれたのは、あのコのおかげだよ。あのコがわたしとこの子を守ってくれたんだよ。……とっても勇気のあるコだった」

「……ああ、そうだな」

「おぎゃー! おぎゃー!」

「おー、よしよし。元気な子」

「おぎゃー! おぎゃー!」

「……あなたにはお兄ちゃんがいたんだよ。とっても怖がりで、とっても甘えん坊で、でもとっても勇敢なお兄ちゃん。そのコの名前はね ―――― 」











 おかあさん


 おかあさん

 

 また、あえたね












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― 新着の感想 ―
[一言] 児童文学作品、といった感じでしょうか。 最後はうるっときてしまいました。 子犬の立場から人間を見るというのは、こんなものなのかなぁと感心しました。 チビの心の移り変わりの様子がすごく上手で…
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