プロローグ
「や、やめてくれえええええええ!」
「喚くな。どうした、自分が死にそうになったら命乞いか? 見っともない人間だな」
俺は、小汚い男性の髪を強く引っ張り上げ、自分の人差し指の先を口元に突っ込んだ。
喚くなと注意したのに、一向に止める気配がない。
仕方ない。耳元で騒がれるのは不快で極まりない。いい加減、執行してやるか。
「皆さん、お待たせしました。今から、この男の体内を爆発させる。我々、執行連ディエンドは悪事を働いた人間は抹殺するための組織だ。このさき、あなた方が悪事を働かないよう、この男の最期を見せしめとして執行する」
サーカス小屋。俺は男性を壇上に連れてあがり、観客席に座る人たちに訴える。
その言葉を聞いて、子供連れの母親が小屋から出ようとする。
しかし、ドアは施錠されており、母親は酷く困惑している様子だった。
「出れませんよ。この執行が終わるまで、ドアは施錠されたままですから」
小さな子供がいようが関係ない。むしろ、俺たちにとっては好都合である。
見せしめといっても、人によっては目を閉じる者もいることだろう。
無論、そういった場合も想定済みだ。
視覚が機能しないなら、聴覚で恐怖を植え付ければいい。
耳を抑えていても、貫通するほどの轟音を演出する。
「では、執行開始」
「うわあああああああああ!、お、お願いだ! な、なんでもする………だから、命だけは助けてくれ!」
「喚くな。いいか、これで二度目だ。命だけは助けてくれ? 何様だ。 この小屋を爆発させようとしていたお前が、吐いていい台詞ではない」
俺は殺意に満ちた目で、両目を覗き込むように見つめると、男の全身は痙攣を始めた。
笑えるな。体は正直みたいだ。
多くの人間を殺そうとしておきながら、自分は殺されるのが怖いって―――滑稽でしかない。
さて、随分と楽しませてもらった。もう終わりにしよう。
「コホン。改めまして、執行開始」
人差し指の指先に、圧縮された高密度の魔力を流す。
そして、魔力で生成された一粒の液体を喉から腹にかけて落とした。
その直後、耳栓をしていても鼓膜を揺らす爆発音が小屋中に響いた。
「執行完了。では、あとはご自由にしてください」
効果覿面である。観客席にいた全員は恐怖で立ち上がることができていなかった。
壇上には、男の肉片が床に飛び散っていた。
俺が男に落とした液体は、いわば魔力で生成した爆弾である。
高密度の魔力を薄い膜で覆うことで、その膜が破れた瞬間、中に閉じ込められていた魔力が発散され、小規模な爆発が起きるという原理だ。ちなみに、爆発音は力強く舌を弾いて鳴らした。
耳を閉じていても、あの音を聞いたら、嫌でも何が起きたのか想像できることだろう。
悪事を働こうとする者、悪事を働いた者を執行連ディエンドはどんな相手でも抹殺する。
この腐った世界を変えるため、真っ当に生きている人間が報われる世界にするために―――




