8 封じられた知識
窓の外では強い雨が降りしきり、雷鳴が轟いていた。
窓枠に寄りかかり外を眺めていたトゥイラは、小さく呟く。
「どうすれば……ノパシリの王は、力を貸してくれるのだろう」
「姫……」
片手剣の手入れをしていたイコルが、その手を止めて前に進み出た。
「我らが知る真実を伝えるしかないのでは」
四十を前にした精悍な顔には疲労が刻まれ、黒髪には白いものが混じり始めている。幼い頃から仕えてくれている忠実な二人――イコルとサラナの歳月を思い、トゥイラの胸は締めつけられた。
「……でも」
衣類を整えていたサラナが静かに加わり、雷光がその頬を淡く照らす。
「ウタラ様は言っていた。――その知識は世界の均衡を崩すかもしれない、と。それを思えば、姫様が迷うのも当然だ」
「……だが」
イコルはさらに言い募ろうとしたが、トゥイラは首を振った。
「わかっている。イコル、こうしている間にもカムルカは襲われている。冬が来れば、もはや……」
サラナはそっとトゥイラの髪を撫でた。
「……姫」
トゥイラは雨の打ち付ける冷たい窓ガラスに手を触れる。ひやりとした感触の奥に、微かなざわめきのようなものを掌が覚え取った気がした。
「だが、できることならノパシリの王にだけ伝えたい。彼がこの知識を広めると選ぶなら、モシリカの巫女として私は従う。
だが――近づけないのだ。あの……綺麗な男に」
トゥイラは先ほどまでガラスに触れていた自分の手のひらをじっと見つめる。
次の瞬間、衝動のままに窓を勢いよく押し開けた。
「姫!?」
イコルとサラナの声を振り切り、トゥイラは外へ腕を突き出す。
その掌から、青い小さな火がふっと灯った。
「……できるかもしれない」
黒い瞳が決意に燃える。
「イコル、サラナ。私は王に会いに行く」




