7 姫の願い、公の拒絶
アストラリオン塔、離れの客間。
開け放たれた窓から湿った生温い風が吹き込み、カーテンを揺らす。柔らかな昼の光がカムルカの三人の頬を照らしていた。着いたばかりの頃より顔色は良く、質素ながら上質なセレスタ風の衣服を身にまとっている。
出された茶は色味が薄く、香ばしさが勝っていた。使用人が彼らの好みに配慮したものだろう。
「不足はないか」
ソファに足を組み、身を預けながらカエリウスが問う。
トゥイラは静かに首を横に振った。
「むしろ、過分なほどに良くしてくれる」
「それは良かった」
微笑んだカエリウスの青い瞳を受け、トゥイラの黒い瞳が揺れ、頬がわずかに赤く染まる。
「貴女方の話を、いくらかは信じることにした。夜間は魔道具の取り外しを許可する。昼間も、魔道具と監視をつけた状態なら敷地内の散歩を認めよう。薬草園などは気晴らしくらいにはなる」
「感謝する」
カエリウスは茶器を置き、膝に手を重ねた。
「だが、貴女方は我々に何を求める。国に戻りたいのだろう? あの状況が、容易に覆せるとは思えない」
トゥイラは膝上で拳を握りしめた。
「ヴァルデン公閣下。貴方がいれば成し得る可能性がある。どうか力を貸してほしい」
大きな黒い瞳が真っ直ぐにカエリウスの青い瞳を射抜く。
「どういう意味だ」
「……人払いをしていただけないか。二人で話したい」
「それは許可できません」
背後のアドリアンが、刺すように言い放つ。彼の視線は依然として厳しく、姫とその護衛を警戒し続けていた。
それでもトゥイラは怯まず、震える声で続けた。
「それでも……力が必要なのです。助けていただけないでしょうか」
カエリウスは、冷たい青で彼女を見据えた。
「簡単にできることではない。流石に、理解しているはずだ」
トゥイラは小さく頷いた。
けれど――その指先は膝の上でわずかに震えていた。。
カエリウスは席を立つ。
「陛下に話はしてみる。しかし可能性は低いと思え」
「……はい」
俯き、震える声で答える姫を振り返ることもなく、カエリウスはアドリアンを伴って部屋を後にした。
閉ざされた扉の向こうで、トゥイラは静かに息を吐いた。
その目には、わずかな悔しさと――それでも諦めない光があった。




