6 塔長室の報告
昼下がり。石造りの塔に久しぶりの晴れ間が差し込んだ。
連日の雨に濡れた土と花々の香りが、最上階の塔長室にまで漂ってくる。
「カムルカは神山シリカナヌプリの封印が解け、夜な夜な“シリオペ”と呼ばれるアンデッドが城を襲っているとのことです。城外の田畑や民家は壊滅。……“大きな危機に瀕している”という言葉は決して大げさではありません」
魔術塔長セラドン・フィオレンツが報告書を読み上げる。
粗雑な木の椅子に腰をかけるカエリウスは、羊皮紙を片手に足を組んだ。
書物と壊れかけの魔道具が散乱するこの雑然とした部屋の中では、その仕草ひとつさえ異様に洗練されて見える。
足の踏み場もない空間で、アドリアンと副塔長ユルゲン・クラウスは所在なげに立っていた。
「……なるほど」
「というわけで、調査員からの報告は以上です。で、どうします? イコルさんの魔術付与の研究、進めてもいいですか?」
報告書を腿に置き、カエリウスは短く言い放つ。
「駄目だ」
セラドンは涙目になった。
「それにしても、なぜ彼らはセレスタを選んだのだろう」
カエリウスは顎に手を添えて思案する。ユルゲンが引き取った。
「カムルカは他国と国交を絶っております。四方を海に囲まれており、距離はありますが潮の流れは我がセレスタへ向かっています。それに――あの国には独特の信仰がある。おそらくそれも関係しているでしょう。……残念ながら今回の調査ではそこまでは明らかになりませんでしたが」
「未知の国だ。現状を掴めただけでも十分な成果だ。よくやった」
「ありがとうございます」
「だが……」
カエリウスはわざとらしく室内を見回した。
「この部屋は何だ。塔長室は客を迎えられる程度には整っていたはずだ。ソファはどこへやった」
ユルゲンの顔が青ざめ、俯いた。
「……塔長が……実験に使って……燃やしてしまいまして……」
「だって! 客人なんて滅多に来ないし!」
「セラドン!!!」
「わぁぁっ、ごめんなさい!!!」
滅多に声を荒げぬカエリウスが怒鳴るのは、このセラドン・フィオレンツくらいのものだ。
アドリアンはそっと目を伏せ、静かに“見なかったこと”にした。




