44 最終話
アルブレヒトに聖力保持者と聖騎士を返還したのち、皇国からも復興支援の申し出が届いた。
アルブレヒトとセレスタ両国の支援により、カムルカの復興は順調に進む算段が立った。冬が本格化する前に、人々の住まう屋根と最低限の備えは整えられるだろう。
その後も食糧支援や物資の供給は継続され、しばらくのあいだカムルカは各国の庇護のもとに立ち直っていくこととなった。
戦火の記録は淡々と書き留められ、宮廷に報告された。覇者の剣は再び鞘に収められ、カエリウスの日々は静かな政務へと戻っていった。
◇◇◇◇◇◇
いつもよりしっかりと化粧を施し、黒衣に銀糸の刺繍を散らした装束を纏い、銀の髪飾りをつけた私は、胸の奥がざわめくのを抑えきれずにいた。衣の裾が少し揺れるだけで、しゃらりと音を立てる。空を見上げれば、鳶が悠然と横切っていく。
――半年、待った。
毎夜、眠りにつく前に、あの艶やかな金の髪と澄んだ青の瞳を思い出した。自分の唇に触れ、忘れまいと必死だった。
「妻に迎えたい」と言ってくれたあの言葉を何度も反芻し、大丈夫、必ず来てくれると自分に言い聞かせた。けれど、少しずつ記憶が薄れていくのが怖くて、泣きながら眠った夜もあった。
戦の緊張の中で、私は強引すぎたのかもしれない。彼は一時の情に絆されただけで、国に戻れば小国の姫など忘れてしまうのではないか――そんな不安に苛まれ続けた。
だから、迎えの使者が訪れた日の夜、私はまた泣いた。
使者は彼の手紙と、銀の髪飾りを携えてきた。
「やっと迎えに行ける。愛している」
几帳面で美しい字。その一行を何度もなぞっていたら、涙で滲んでしまった。
それからの日々、私はその手紙を胸に抱いて眠った。生涯の宝物にすると決めて。
◇◇◇
そして今日。
社の跡地近くの広場には人々が集まり、どこか緊張した面持ちで空気が張り詰めていた。
魔法陣が光を放ち、空気が震える。
息を呑んだ。
瞬きののち、そこに現れたのは――金の髪を風に揺らし、正装に身を包んだ青年。
まっすぐに、私を見つめている。
本当に、来てくれた。
ひとときの夢じゃなかった。
用意していた言葉はすべて消え、胸の鼓動だけがやけに大きく響く。
カエリウスは静かに歩み寄り、私の前に立つと、その青い瞳に優しさを宿して言った。
「迎えに来た」
――ずっと聴きたかった声。
瞳が潤む。けれど涙はこぼさないと必死に笑顔を作ろうとした時、彼が低く囁いた。
「いい子にしていたか?」
堪えきれなかった。
頬を濡らしながら、泣き笑いで答える。
「……当たり前じゃないか」
抱き寄せられ、額に口付けを落とされる。かつて「人前で口付けたりしない」と私が怒ったからだろう。――怒らなければ良かった。
愛しい人。もう二度と離れない。
その日、広場は歓声に包まれ、澄み渡る空が祝福するかのように広がっていた。




