38 聖なる光、戦場を覆う
シリオペの群れは、カムルカの戦士たちと近衛の誘導により、広野の窪地へと押し込まれていった。腐臭と呻き声が辺りを覆い、夜気は重く淀む。
覇者の剣を握るカエリウスは振り返り、鋭く声を張った。
「囲いを固めろ! 一匹たりとも逃がすな!」
鬨の声が広がり、戦士たちが半円を描くように布陣する。
トゥイラが馬上で両手を掲げ、黒髪を風に散らした。唇から古の詞が流れ出し、青白い炎が大地を駆け抜ける。
炎は壁となり、群れを取り囲み、焼き爛れた亡者の叫びが夜空を裂いた。
その刹那、炎を突き破って一体が飛びかかる。
「閣下に近づけさせるな!」
近衛が槍で貫き、もう一人が剣で首を落とす。黒い体液が飛び散り、火の粉が夜風に散った。
カエリウスは剣を掲げ、声を轟かせる。
「――ソフィア! ベネディクト! 今だ!」
ソフィアとベネディクトが頷き、祈りを重ねる。
聖なる言葉が夜空を震わせ、清浄な光が奔流となって覇者の剣に収束した。
剣が輝きを帯び、カエリウスの腕に焼けつくような熱が走る。
「……応えてくれ、覇者の剣!」
振り下ろされた瞬間、戦場全体が光に呑まれた。
聖女の清らかな力と司祭の祈りが覇者の剣で増幅され、轟音と共に窪地を覆う。
白金の閃光は夜を貫き、星さえかき消すほどだった。
光に呑まれたシリオペの群れは絶叫を上げ、灰となって崩れ落ちていく。
焦げた匂いの代わりに、わずかな草の香りが風に戻った。
◇◇◇
そうして一夜を越え――二日目。三日目。
神山から絞り出されるように、なおも亡者は姿を現した。
群れは次第に数を減らしていったが、戦士たちは気を抜かず戦い続けた。
炎と光、祈りと剣。夜ごと同じ地獄を繰り返し、ついに三日目の夜を越えた。
◇◇◇
四日目。
城門の外で全軍が構え、息を詰めて待った。
――だが、何も現れなかった。
それでも油断せず、五日目も同じように待機する。
緊張を解くことが、ただ恐ろしかった。
だが、夜は深まっても……亡者の影はどこにも現れなかった。
長い闇が過ぎ、やがて空が白みはじめる。
東の地平線から朝日が昇り、広野を照らし出す。
亡者の影はどこにもなく、ただ風が草を揺らしているだけだった。
一瞬の沈黙。
そして――
「……本当に……終わったのか……」
「シリオペが……いなくなったんだ……!」
「やり切ったんだ!」
誰かが震える声で呟いた次の瞬間、歓声が爆発した。
武器が一斉に天に掲げられ、涙と笑顔が広がる。
カエリウスは剣を下ろし、静かに空を仰いだ。
――夜は明けた。
本当に、全てを片付けたのだ。




