37 青炎と黄金の瞳
カエリウスは目を開けた。
腕の中で、トゥイラが泣きそうな顔をして見上げている。覇者の剣を片手に持ったまま、彼女の頭を胸に寄せ、短くキスを落とした。
「心配かけたな。――行くぞ!」
「閣下!」
周囲から声が上がる。
カエリウスが不敵に笑って返すと、皆の顔に一斉に安堵が広がり、「御意!」の声が重なった。
その瞬間、青い瞳の奥に金が差す。覇者の剣が彼の血を震わせ、内奥に眠る力を引き出していた。
◇◇◇
「トゥイラ! モシリカの炎を解き放て! 奴らを押さえろ!」
鋭い指令に、トゥイラは力強く頷いた。
馬上で身を翻し、両手を掲げる。青白い炎が掌から溢れ出し、弧を描いて広野を走った。
炎は呻き声を上げるシリオペたちを絡め取り、黒い群れを縫いつけるように押し留める。
「押し出せ! 広野へ!」
カエリウスの号令に、戦士たちが鬨の声を上げて駆け出した。
盾を叩き、槍を突き出し、炎に怯むシリオペを少しずつ押し流していく。
「右を締めろ! 左、崩すな! 列を乱すな!」
馬上から飛ぶ声に、戦士たちは即座に応じた。混乱しかけた列が再び整う。
秩序を取り戻した戦列が、夜の広野にひとすじの光を描いた。
◇◇◇
「閣下、正面から来ます!」
アドリアンの声と同時に、数体のシリオペが影のように跳びかかってきた。
血走った目、腐肉の爪――かつて人であった者たちの残骸が牙を剥く。
「退け!」
カエリウスの号令より早く、近衛の二人が馬を飛ばす。
一人は槍でシリオペの胸を貫き、もう一人は剣を振り下ろして胴を断つ。
骨が砕ける音とともに、黒い体液が飛び散り、悲鳴が風に溶けた。
「よくやった! そのまま前を開けろ!」
カエリウスは覇者の剣を掲げ、戦列を前へと押し込む。
馬の嘶きと戦士たちの咆哮が、広野の夜を震わせた。
◇◇◇
やがて、黒い群れはまとまり、広野の中央へと追い詰められていく。呻き声が地を震わせた。
「……あと少しだ」
覇者の剣を握る手が熱を帯びる。
金色を帯びた青の瞳が、闇を切り裂くように敵を睨み据えた。




