34 悪魔と囁かれた少年
――“悪魔”と囁かれた声が、また胸の奥で蘇る。
十二歳のカエリウスは、高位貴族主催のガーデンパーティーに兄と共に出席していた。
兄の隣で笑みを保ち、挨拶に来る人々に淡く頭を下げる。
同世代の娘たちは頬を染め、婦人たちは舐めるようにその姿を見た。腰まで届く髪は背でゆったりと編まれ、まだ声変わりもしていない中性的な美貌は、否応なく人々の目を引いた。
視線に疲れ、輪を外れて一人で佇んだその時――。
背後から腕を強く引かれた。
体格の大きな青年たち三人が、カエリウスを人目のない場所まで引きずっていく。
肩を強く殴られ、地面に腰をついた。
「何をする!」
青年たちは屈み、カエリウスの顔を覗き込む。
「うわ、本当に美人」
「女みたいに綺麗だな」
下品な笑い声が響く。
一人が前髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。舌舐めずりが耳に届く。
別の一人が背後に回ってカエリウスの腕を地面に縫い付けるように押さえつけ、さらに一人が足を掴む。最後の一人が腹の上に跨り、頬を打った。
その青年が彼自身のズボンに手をかける。
「何をするつもりだ!」
カエリウスの声は震えていた。
「その綺麗な顔が歪むところを見たいだけさ」
「貴様ら、俺の弟に何をしている!」
鋭い怒声が響いた。
振り返れば、兄が剣を抜き放って立っていた。
続いて護衛騎士たちが雪崩れ込み、青年たちは一瞬で取り押さえられ、どこかへ引きずられていった。
カエリウスは地面に座り込んだまま、震える指先を見つめていた。
◇◇◇
後日、彼を押さえつけた青年たちは重い処罰を受け、主犯格は処刑された。
それ以降も、カエリウスに無理やり触れようとする者は現れ、そのたびに兄と父は苛烈な処罰を与えた。
だが、その噂は残った。
――人を狂わせる悪魔のような男。
――触れた者を破滅に追いやる災いの子。
自分のせいで、人が狂うのか。
自分が、彼らを殺したのか。
自分こそが、悪魔なのか。




