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31 試練の鼓動

 鬨の声が広野を揺らした。

 城門を開き、松明の炎を背に、戦士たちが雪崩のように飛び出す。足に布を巻いただけの軽装の戦士たちは大地を蹴り、弓を構え、炎の矢を放ちながら走る。その背を追って、馬の蹄音が轟いた。


 アルブレヒトとセレスタの陣営は騎馬で続く。聖女ソフィアと司祭ベネディクトはそれぞれ聖騎士と馬を同じくし、身体を庇われるように抱えられている。

 その中央、青のマントを翻して走るのはカエリウスだった。刀帯には二本の剣――己の佩剣と覇者の剣。馬上ではトゥイラを前に抱き、アドリアンと近衛二人が鉄壁の布陣で彼を囲む。


 カムイチカは別の馬を駆け、広野を縦横無尽に走りながら戦士たちへ矢継ぎ早に指示を飛ばしていく。

「右へ回れ! 焔を絶やすな! シリオペを南へ追い立てろ!」


 夜闇を裂くように、シリオペの群れが広がっていた。泥のようにうねる黒い塊。かつて人であった亡骸の声が、胸を抉るような哭き声となって大地を震わせる。

「泣いている……」と誰かが呟いた。だが、矢は放たれ、炎は唸り、光の壁が彼らを広野へと押し出していく。


 作戦は順調に進んでいた。城門から離れ、広野の中央へとシリオペが誘導されていく。

 その光景を確かめ、カエリウスは腰の覇者の剣に手をかけた。


 ――ドクンッ。


 大地の鼓動と自らの心臓が重なり、境界が溶ける。

 世界が、彼の血を通して脈打っていた。


「ぐ……っ」


 固い意志で馬の鞍を掴み、落ちるのをこらえる。だが背を丸めるように前のトゥイラを抱き込み、肩が激しく震えた。


 喧騒が遠のいた。

 馬の蹄も、叫びも、すべてが水の底に沈んでいく。

 残ったのは、自らの心臓を叩く轟音だけ――。


「閣下!」

「カエリウス!」

 アドリアンの声、トゥイラの悲鳴。周囲の近衛たちが慌てて馬を寄せ、彼を支えようと手を伸ばす。


 カエリウスは応えられない。胸を締め付ける脈動は増す一方。耳鳴りの奥で、何かが囁くように声をあげていた。


 トゥイラが蒼ざめた顔で彼を見上げ、唇を震わせる。

「試練が……始まったのか?」


 広野を覆う哭声と蹄音の中、その言葉だけが凍り付くように響いた。

 そして次の瞬間、世界が――王の鼓動に呼応して震えた。

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