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28 シリカナヌプリの伝承

 陽が沈む前、まだ薄明の光が残る頃。

 木造の広間に人々が集められた。厚い梁が天井を走り、壁は黒光りする板張り。四隅と中央の卓上に置かれた蝋燭が、ゆらゆらと炎を揺らしている。楽もなく、声も低い。


 与えられた食事は、一人に一膳ずつ。木の盆に、温かな粥と焼いた魚、少しの野菜。戦の中の、覚悟の食事であった。


 やがて、語り部ウタラが席から立ち上がる。痩せた体に深い皺を刻んだその姿は、小柄ながら場の空気を圧する。


「この杯は祝いのためではない」

 低く通る声が広間を満たす。

「これは、我らが再び明日の夜を迎えるための杯。皆、その覚悟を胸に刻め。

 夜が明けぬ者のために、我らは語りを残す」


 人々が一斉に杯を掲げ、口を湿すほどにだけ飲んだ。木の器が小さく触れ合う音が響き、すぐに静寂が戻る。

 ウタラは蝋燭の炎を背に、深い黒の瞳を細めた。


「神山シリカナヌプリ。あの峰は、ただの岩と雪ではない。古より、巫女たちは世界を巡り、不浄を背負い帰り、その山へと押し込めてきた」


 人々は息を呑む。蝋燭の炎が、まるで呼応するかのように揺れた。


「古代の霊たちは、かつて国を守り、誇りを抱きし兵士たちの魂。その誇りが影となり、大地に還れぬものとなったのだ」


 静かな言葉は、板張りの床を震わせるように重く落ちていく。

 カエリウスは膝に置いた手をゆっくりと握り込んだ。


「巫女たちはモシリカの炎を振るい、魂を縛る。だがそれだけでは足りぬ。守り人がその魂を封じ、シリカナヌプリの奥深くに鎖した。――それを、ずっと、代々果てることなく繰り返してきた」


 炎に照らされた皺だらけの横顔が、不気味なほど神々しく見えた。

 蝋燭がぱちりと弾け、梁に影が大きく伸びる。


 カエリウスはその光景を静かに見つめていた。

 炎の中に、遠い昔に誓った祈りの残響を見た気がした。

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