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26 カムルカの地にて

 カムルカの城壁内の広場に、カエリウスたちの姿が現れると、どよめきと歓声が一斉に広がった。


「静まれ!」


 黒髪を高く結った青年が声を張り上げると、すぐにざわめきは収まる。彼と隣にいた老婆が跪けば、後ろの人々も一斉にひざまずいた。


「よくぞ参られた。ご助力、心より感謝致す」


 よく通る声だった。

 カエリウスは輪から抜けて進み出ると、手を差し伸べる。アドリアンが小さく息を呑む気配があったが、構わず名乗った。


「頭を上げてくれ。私はセレスタ王国ヴァルデン公、カエリウス・セレスタ。世話になる」


 青年は立ち上がり、その手を握った。そして、カエリウスの瞳を見て、肩を震わせる。


「……ノパシリの王」


 ほとんど声にならない声。それでもカエリウスにははっきり聞こえた。青い瞳を細め、青年を見据える。


「俺はカムイチカ。神山シリカナヌプリの守り人だ」


 それがどのような役割なのかは分からなかったが、この地における代表なのだと察せられた。

 カエリウスが頷くと、カムイチカは隣の老婆を示す。


「こちらは語り部ウタラ」


 ウタラは静かに頭を垂れた。


「慣れぬ地だ。夕刻前に宴を開く。それまでは休んでいただきたい」

「食事は簡素で構わない。ただ、その宴が貴方たちの心を安らげるなら、ありがたく受けよう」


 そう応じたカエリウスに、カムイチカは一瞬目を瞬かせる。


「……貴方は全然偉ぶらないのだな」

「偉ぶらずとも、私は十分に偉い人だからな」

「あっはっはっは!」

 笑い声が広場を包み、束の間、戦の匂いが遠のいた。


「夕食の後は、シリオペとの戦いになる。明日も明後日も続く戦いだ。今日は見ていて欲しい。そして明日、共に戦い方を確認し合おう」

「そのようにしよう」


 カムイチカが背後に「案内せよ」と声をかけると、人々の間から返事の声が上がる。彼はもう一度カエリウスを見やり、柔らかく微笑んだ。その視線が後方のトゥイラに移り、黒い瞳を優しげに細められるのをカエリウスは見ていた。


◇◇◇


 太い丸太を組んだ城壁に囲まれた内部は、一つの町のようだった。畑や炊事場、二階建てや平屋の建物が並ぶ。

 カエリウスにあてがわれたのは三階建ての建物の最上階。急な階段を登り、蓋のような小さな扉をくぐった先に、一つだけの広い部屋があった。アドリアンたちは二階の部屋を割り当てられている。


「入口がここしかなく不便かもしれませんが、一番安全で広いので……。お荷物はすでに運んであります」


 案内役の若い女性が、顔を赤らめながら説明を繰り返す。カエリウスが質問を投げかけるたび、ますます頬を赤くするので、もう何も言わないことにした。


「そうか。案内、感謝する」


 女性が去ると、カエリウスはジャケットを脱ぎ、文机の傍に置いた。襖を開ければ窓の外に城内が広がり、人々が慌ただしく行き交っている。

 夜通し戦う彼らは、昼過ぎまで眠るのだという。間もなく喧騒も収まるのだろう。休むべきだと分かってはいたが、眠気は訪れなかった。


 外を眺めていると、階段の扉がカタリと開く。顔を覗かせたのはトゥイラだった。


 当然のように部屋に入ってきて、手にした皿を掲げる。


「柿をもらってきた。食べよう」


 朗らかな笑みが、ひどく場違いに思えた。

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