25 出立の時
セレスタの移動魔法陣は、座標さえ定まれば世界のどこへでも届くほどの威力と精度を誇る。
だが、距離が長くなるほど、また運ぶものが多くなるほど魔力の消費は莫大だ。ゆえに今回の派遣では、討伐期間中カエリウスたちは帰還せず、カムルカに部屋を借りて逗留することが決められていた。追加の物資や援軍が必要なときのみ、魔法陣で一日に一度だけ送る――その制約の下で。
◇◇◇
朝。魔術研究所敷地内の広場に、出立の一行が整列する。
魔術研究塔長セラドン・フィオレンツは、一人ずつの手に移動魔法陣の術式が込められた小型魔道具を渡していった。
「絶対に……絶対に怪我せず戻ってきてくださいね」
カエリウスは魔道具を受け取ると、内ポケットに収め、セラドンの背を軽く叩いた。
「必ず戻る。それまでに塔長室を片付けておくんだ。わかったね」
「えぇー!?」
塔長の情けない悲鳴に、場にいた皆が朗らかに笑った。
笑いが収まると、空気は再び引き締まる。
指示に従って固まる一行を見やり、カエリウスは最後に兄を振り返った。
「行って参ります」
静かに立つアルベリクは、大きく頷いた。
「必ず、全員そなたらの姿のままで戻られよ」
その言葉に、一同は静かに首を縦に振る。カエリウスも輪の中へ歩み入り、全員が身を寄せ合った。
「……それでは、術式を始めます」
セラドンが片手を掲げる。次の瞬間、光が彼らを包み、姿は掻き消えた。
◇◇◇
残された広場で、アルベリクはただ一人、晴れ渡る空を無言で見上げていた。




