24 出立前夜
アルブレヒト皇国から、聖女と司祭、そして聖騎士たちがセレスタ王国に到着した。彼らは揃って右手を胸に当て、礼をする。アルブレヒト皇国聖光教会流の挨拶だ。
「おや、君たちは……以前、会ったことがあるね」
カエリウスが穏やかに声を掛けると、聖女と司祭は一瞬驚き、そして破顔した。厳しい戒律の下にあった聖光教会だが、彼らは真面目でありながら、どこか人懐こさを感じさせる。
「カエリウス殿下、再びお会いできて光栄です」
「現在はヴァルデン公閣下です。閣下とお呼びください」
アドリアンが厳しく指摘すると、司祭は「あ」という顔をして頭を下げた。
「いいんだ。そう気にしないでくれ。……ベネディクト司祭だったな」
はにかみながら差し出した手を握り返す司祭に、カエリウスも柔らかく笑みを浮かべる。
「ヴァルデン公閣下、聖女ソフィアと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「大変な仕事になるかもしれない」
「承知しております」
その言葉に、カエリウスの胸中にも静かな力が宿る。必ず彼らを無事にアルブレヒトへ送り返す――改めてそう誓った。
◇◇◇
王城の小ホールを借り、ささやかな立食式の壮行会が開かれた。
アルベリクとカエリウスは一段高い席に並び、思い思いに語らう人々を眺めている。
「無事に戻れよ」
「私は安全な場所で指揮するだけだから」
カエリウスが隣の兄に目をやると、心配そうに細められた瞳が返ってきた。やんちゃな弟を見守るような視線に、胸の奥が少しだけ温まる。
「……無事に戻れよ」
「……はい、兄上」
見上げれば、王城の高窓から二つの月が覗いていた。
白と赤。寄り添うように、今夜も静かに輝いている。
静かな夜は更けていく。
そして明日の朝、彼らはついにカムルカへと出立する。




