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22 祈りの約束

「閣下」

 昼下がりの執務室。曇天の切れ間から差し込む光が、カエリウスの机上を淡く照らしていた。湯気の立つ紅茶の香りが漂い、静謐な空気が支配している。

 だが、アドリアンの声音には張りつめたものがあった。


「どうした」

 カエリウスは視線を落としたまま、淡々と書類に署名をしていく。ペンを置く気配すら見せずに。


「トゥイラ姫からの要望です。出立の前に、一夜を通して巫女として祈りを捧げたいとのこと。場所を用意し、立ち合いは――ヴァルデン公閣下一人きりでと」


 ペンの動きが止まった。カエリウスはわずかに顔を上げ、深く長い息を吐く。背を滑り落ちる金の髪が光を受けて淡く揺れた。


「……魔術封じの魔道具を使用しての祈りが可能なら、許可する。魔術研究所の敷地にお飾りの礼拝堂があったはずだ。そこを貸し出せ。当日までに魔術封じの処置を施しておくように」


「よろしいのですか」

 アドリアンの藍の瞳が、不安げに細く揺れる。だがカエリウスは視線を返さず、ただ淡々と告げた。


「彼女たちからは多くのものを取り上げている。せめて信仰まで失わせたくはない」


「……承知しました」


 カエリウスは羽根ペンの軸を指先でなぞりながら、声を低く抑えた。胸の奥で芽吹く動揺を、忠実な秘書官に悟らせぬように。


「それから当日は、護衛を礼拝堂から離れた場所に配置しろ」


「……なぜです」


「信仰を妨げさせたくない。姫の祈りの声が届かぬ距離まで下がらせろ」


「しかし、それでは……」


「わかったな」


 青の瞳が冷たく光る。アドリアンは言葉を失い、やがて静かに頭を垂れた。


「……かしこまりました」


 翳る陽光が、机上に落ちたカエリウスの指先の微かな震えを、影の底に沈めていった。

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