21 新月の夜を待つ
カムルカに派遣するのは、セレスタ王国からはカエリウスとアドリアン、その二人を守る近衛隊二名。
アルブレヒト皇国からは聖力保持者を二人、護衛の聖騎士団六名。
総勢十二名となった。
当初は数千人単位での派遣も検討されていたため、想定よりはるかに小規模な布陣である。
戦力としては、対アンデッド戦においてカムルカの魔術師たちに敵うはずもない。ゆえに余計な人員を送るより、最低限の精鋭と、兵糧などの物資支援を中心に行うこととなった。頻繁に魔術通信で本国と連絡を取り合い、必要があれば即座に援軍を送れるよう手筈も整えつつある。
すでにカムルカにも使者を送り、現状の再確認と物資調整を進めている。準備は着実に進んでいた。
――ただ一つ、カエリウスには未だ達成できていないことがあった。
ノパシリの王としての力を、どう振るうのか。
その肝心な方法を、まだ聞いていない。
実験場での出来事の後、アドリアンを伴い、カムルカが望む聖力保持者の数や必要事項を事務的に聞き出した。それきり、トゥイラたちの元には足を運んでいない。
剣を媒体にする、あるいは身体的な接触――断片的な情報は得ていた。だが、それを集団規模に拡げる具体的な手法は、一切わからぬままだ。
カムルカが自分を“ノパシリの王”と認識していることは、理屈ではなく、言葉にすれば禁忌に触れる――本能的にそう悟っていた。ゆえにこの件を明らかにするなら、人払いをし、トゥイラと二人きりで話さねばならないだろう。
◇◇◇
夜半。
カエリウスは燭台に火を灯し、水差しからグラスへと水を注いだ。ちゃぷん――小さな音が、静まり返った部屋にやけに響く。
燭台とグラスを窓辺に置き、カーテンを指先で持ち上げる。
夜空に浮かぶのは、今にも消えそうな白い月ひとつ。寄り添うはずの赤い月は見えなかった。
カエリウスはしばらくその月を見つめた。
光はまだそこにある――だが、届かない。
夜空に浮かぶのは、今にも消えそうな白い月ひとつ。寄り添うはずの赤い月は見えなかった。
「……自分がいまだにこれほど臆病だとは、思わなかったな」
低くこぼした声は、夜の闇に溶けていった。
――もうすぐ、新月の夜が来る。




