19 聖力の取引
「聖力保持者の派遣は、もちろんする。兄上の頼みだ。受け入れる。ただし、条件はつけさせてもらう」
アルブレヒト皇王アレクシスは、ソファに腰掛けるなり前置きもなく切り出した。
「……感謝する」
カエリウスは膝に手を置き、深く頭を下げる。
「何人必要だ? 皇国内でも五十に満たない。多くは出せない」
「一人でもいれば十分だと、カムルカの姫は言っていた」
「一人? だが、一人一人の聖力はそこまで強くはない」
「それを増幅する方法がある」
カエリウスの瞳に影が落ちるが、アレクシスはあえて気にしないふりをして続けた。
「では二人送ろう。本来彼らは後方支援だ。守るために聖騎士団から数人つける。数は少ないが精鋭だ。それでどうだろう」
「十分だ」
カエリウスは足を組み、膝の前に両手を重ねた。
アレクシスは一度頷くと、条件が書き込まれた羊皮紙を彼に渡す。
「条件だが、まず、そちらの移動魔法陣をこちらでも使わせて欲しい。何かあった時の補填はセレスタ王国で持ってもらう」
紙を受け取りながら、カエリウスはその内容に素早く目を通した。
「こちらからお願いしている以上、妥当だ。他には?」
アレクシスがちらりと視線を投げると、カエリウスは微笑みながら首を傾げる。
「兄上が月に一度、ここに来る」
「……は?」
「魔法陣を使えばすぐだろう?」
「あれは国で管理しているものだ。私的利用はできない」
「じゃあ馬車で来ればいい。道中は俺が保証する」
「アレクシス。君は“遠い”という概念を理解していない」
「兄上の顔を見るのに距離は関係ないだろう?」
「……君の論理はいつも詩的だな」
――このアレクシスという男は、かつて“本人が不在なら待てばいいじゃないか”と平然と言い放ったことがある。カエリウスは、その強引さを嫌でも思い出していた。
彼は静かにアドリアンへと視線を送る。
「閣下。お友達ができて良かったですね」
口角を少しだけ上げて言い放たれたアドリアンの言葉に、カエリウスは美貌を誇るその顔を苦々しく歪めた。




