18 もう一人の兄上
「兄上!」
「うわっ!」
アルブレヒト皇国への協力依頼のため、非公式訪国を打診するとすぐに快諾の返事が届いた。指定された日時と座標に移動魔法陣で飛んだ瞬間、カエリウスはいきなりアルブレヒト皇国皇王アレクシス・アルブレヒトに抱きつかれる羽目になった。
「驚くだろう。やめなさい」
カエリウスは背中を軽く叩き、そばにいたアドリアンの手を借りて皇王を引き剥がす。
「なかなか俺のところに来てくれないからさ。やっと来てくれて嬉しいよ」
短く切り揃えられた栗色の髪が揺れ、人懐こい琥珀の瞳が、柔らかい光を帯びていた。
かつてカエリウスは、このアルブレヒト皇国に一年だけ留学していた。その折、琥珀の瞳を持つ若き王弟アレクシスと親交を結び、彼はカエリウスを「兄上」と呼ぶほどに慕うようになったのだ。
今や彼は皇王となり、泥沼の政変を乗り越えてこの地位に辿り着いた。
カエリウスは部屋を見回す。広くはあるが、整えられたシンプルな私室。調度品はどれも上質で、リネンの色は妻クラリッサの灰青の瞳に合わせられていた。
「座標からしてまさかと思っていたが……ここは君の私室か?」
「そうだけど?」
「無防備すぎるだろう」
「兄上とアドリアンだけしか来ないと聞いたから、こっちの方が安全かと思ったんだ」
「他国の者に王の私室の座標を渡す愚か者がいるとは思わなかったな……」
「クラリッサも“それでよろしいのではないですか?”って言っていたよ」
「君たち夫妻は無条件に私を信用しすぎだ」
「それなりの実績が兄上にはある」
真っ直ぐに見つめてくる琥珀の瞳に、カエリウスも青の瞳を柔らかくした。
アドリアンは黙って二人のやり取りを見ていた。――こんな穏やかな表情の閣下を見るのは久しぶりだ、と胸の奥で呟く。
◇◇◇
テーブルの上には豪奢な酒肴が並んでいる。ソファに身を預け、前髪を掻き上げながらカエリウスは小さく笑った。
「私は分かったぞ。兄上とアレクシスは似ている。そう思うだろう? アドリアン」
背後に控えるアドリアンを見上げれば、彼は苦笑しながら深く頷いた。




