17 ノパシリの王の力
トゥイラが腕を伸ばすと、掌に青白い小さな炎がすっと立ち上がった。淡く揺れるその火は、赤い炎の熱とは違い、冷え冷えとした気配を放っている。
「これがモシリカの炎」
彼女が軽く放ると、炎は実験場の中央に落ち、一気に燃え広がった。青い光は天井を焼かんばかりに立ち昇り、空気は張り詰めるように冷えた。カエリウスは見上げ、額に冷や汗を滲ませる。
カエリウスは静かに息を吐き、その青い目を細めた。
「それで、ノパシリの王の力とは何だ」
彼女はその視線を正面から受け止め、ゆっくりと近づいた。そして手を伸ばして彼の頬に触れる。
「この場に覇者の剣を持ち込むことは躊躇われた。許せ」
トゥイラはカエリウスの首と後頭部に腕を回し、背伸びをしてその唇に口付けた。
瞬間、胸の奥が熱く脈打つ。――いや、熱ではない。冷気が血の流れを逆に走るような、不気味な感覚。
青の炎が一瞬、彼女の背後で揺らいだ。
驚きに息を呑むカエリウスの反応よりも早く、彼女は実験場へ向き直り、片手を払った。
轟――。先ほどの数倍もの青炎が立ち上がった。だが熱はない。むしろ氷の刃のような冷気が広がる。
「……何だこれは」
「ノパシリ――“広げる”という意味だ。貴方が“私に触れる”ことで、我らトゥカシの術は何倍にも拡がる。今の私なら、この魔術結界を突き破り、建物をも崩すことができるだろう」
燃え盛る青炎を背に、トゥイラはゆるやかに振り返った。黒い瞳には炎の輝きが宿り、その奥に秘めた執念が覗く。
「ノパシリの王。私の伴侶となり、契りを交わせ。さすれば覇者の剣すら不要……その力はカムルカのものとなり、世界は必ず貴方に跪く」
カエリウスは返す言葉を失い、ただ黙して彼女を見つめていた。




