15 カムルカの魔術
セレスタには、カムルカの魔術についての知識がほとんど存在しなかった。
トゥイラが謁見で口にした「魔術の知恵」を証明するため、王命により、アストラリオン塔の別館にある魔術実験場で披露が行われることとなった。
高い天井を持つ箱型の施設は、壁一面に高精度の対魔術魔法陣が組み込まれており、並大抵の魔術では漏れも破壊もできない堅牢な造りだ。
防御壁で囲われたギャラリーには、研究所の職員たちがぎゅうぎゅうに押し込まれ、熱気とざわめきに包まれている。
一段高い席には、国王アルベリクとヴァルデン公カエリウスが並んで腰掛け、その様子を見守っていた。
◇◇◇
まず、広間の中央に立ったのはイコルだった。
「火の魔術付与を行う」
そう告げ、一礼して片手剣を翳す。
次の瞬間、剣は轟音とともに炎を纏った。赤々と揺れる火に、ギャラリーからどよめきと歓声があがる。
イコルは腰を沈め、あらかじめ設置しておいた丸太に横一文字の斬撃を浴びせた。丸太は真っ二つに割れ、その断面から炎が走る。倒れ込む直前、さらに火勢が爆ぜて炭と化すと、観衆は一斉に拍手を送った。
イコルは静かに一礼し、場を退いた。
次に進み出たのはサラナだ。
「水の操術をご覧にいれます」
彼女が腕を下から上へと振り上げると、床から透明な水塊がいくつも湧き出し、宙へと舞い上がった。
その掌を握ると、舞った水は瞬時に凍りつき、氷の塊となる。
最後に彼女が軽く手を下ろすと、氷は一斉に床へと落ち、鋭い音を立てて砕け散った。
サラナもまた一礼し、歓声を背に退いた。
◇◇◇
「……すごいな」
カエリウスは腕を組みながら、素直に感嘆の声を漏らした。
隣のアルベリクは子どものように目を輝かせ、破顔して見入っている。
一方、トゥイラは壁際に立ったまま、じっとカエリウスを見上げていた。
その視線を受けて、彼は小さく嘆息する。
「終わりだ。皆、ここを出てくれ」
研究員たちは興奮を隠せず、あれこれ言葉を交わしながらもぞろぞろと退室していく。
「俺もここで去ろう。それがいいのだろう? 任せたぞ、カエリウス」
アルベリクは軽く手を振り、従者を引き連れて退室した。
アドリアンも諦めたように最後に一礼を残して部屋を出ていき、広い実験場にはカエリウスとトゥイラだけが残された。
静寂。
高い天井に残響する雨音のような余韻の中で、カエリウスは一歩、彼女に近づいた。
その瞳に宿るものが畏怖なのか、好奇なのか、自分でも判じかねる。
「教えてくれるのだろう? ――ノパシリの王の力とやらを」
深淵のような黒の瞳で彼を捉え、トゥイラは大きく頷いた。




