14 属国の宣誓
王城、謁見の間。
淡い光が広間全体を照らし出し、静謐な空気に満たされていた。大臣や従者、護衛だけでなく、魔術研究所の職員達までが立ち並び、謁見の間は張りつめた緊張で騒然としている。
やがて扉が開き、ヴァルデン公カエリウス・セレスタに伴われて、カムルカの姫トゥイラと、付き人のイコル、サラナが赤い絨毯を進んだ。カエリウスが玉座に向かって跪くと、それに倣い三人も腰を落とす。周囲に並んだ人々も立礼した。
ほどなく脇の扉から国王アルベリク・セレスタが王妃を伴い現れ、悠然と歩み寄り、玉座に静かに腰を下ろした。
「面をあげよ」
低く響く声に、カエリウスが顔を上げる。それを合図に、場の礼も解かれた。
「カムルカの姫、トゥイラよ。呼び立てて悪かったな」
王の声は穏やかだったが、揺るぎない重みを帯びている。
「そなたの国は今、かつてない危機に瀕していると聞く。我がセレスタに助力を求めたいそうだが、それは我らにとっても決して容易いことではない。……トゥイラ、カムルカとして、何かセレスタに差し出せるものはあるか」
背後で、イコルとサラナが息を呑んだ気配が伝わった。
「……私の身を」
その答えに、広間が一瞬ざわめいた。だがアルベリクはゆったりと首を振る。
「我がセレスタは、そのようなことはせぬ。他に差し出せるものはあるか。
セレスタは手を差し伸べる代わりに、カムルカを属国とすることを望む。……受け入れるか」
トゥイラの顔から血の気が引く。しばし俯き、逡巡したのち、拳を床につき、震える身体を支えながら答えた。
「カムルカは……セレスタ王国の属国となることを受け入れます」
その言葉に、大臣達から低いざわめきが広がる。
「他には?」
穏やかな王の口から放たれる冷徹な響きに、トゥイラは顔を上げる。横でカエリウスはただ黙し、その瞳の奥で成り行きを見守っていた。
「カムルカは遠い。その国を属国としたところで、セレスタに大きな旨味はない。……セレスタの、決して多くはない軍や物資を送るのだ。わかるな」
拒否を許さぬ問いかけ。トゥイラは血がにじむほど唇を噛み、拳を握りしめた。
「……我がカムルカの魔術の知恵を、セレスタ王国に授けます」
その言葉に、カエリウスの指先がわずかに動いた。
望んでいた展開のはずなのに、胸の奥が冷たく軋む。
「姫!」
堪えかねたサラナが非難の声をあげる。だがトゥイラは振り返らず、首を横に振った。
「……これ以上、カムルカに差し出せるものはない。今も必死に戦っている者たちを守るのが、姫巫女の務めだ。許せ、サラナ」
その覚悟に、サラナは頭を伏せる。
「……差し出がましいことを申しました」
跪いたままの三人を眺め、アルベリクは大きく頷いた。
「よかろう。我がセレスタはカムルカに助力する。……ヴァルデン公、細かい調整は貴殿に任せる」
「御意」
低く答えたカエリウスに、アルベリクは「これで良かったか」とでも問うような瞳を向ける。胸が締め付けられる思いで、カエリウスは静かに目を伏せ、深く頷いた。




