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13 寄り添う月の誓い

 カエリウスは自室に戻り、寝支度を整えると、ベッドには入らず籐椅子に腰を下ろした。真っ暗な室内で窓の外を見上げる。星が瞬く夜だ。白く大きな月と、赤く小さな月が寄り添うように並んでいる。


「“格好いい王でありたい”……か」


 幼い頃から優秀だった。そのことが、兄アルベリクを王に押し上げたい勢力にとっては邪魔になることもあった。だからカエリウスは、幼くして暗殺の影に脅かされる日々を送ったのだ。


 ――食事に毒が混ぜられたあの日。恐怖で一切の食を拒んだ子供に、兄は一緒に食べようと差し出した。スープを一口すすり、「ほら、旨いだろ」と匙を差し出す。幼いカエリウスは泣きながらそれを受け、口にした。


 ――誘拐されかけた夜。救出はされたが、安らかな夜は戻らなかった。眠れぬ小さな体のそばに、忍び込んだ兄が静かに寄り添い、朝まで手を握ってくれた。あの時、兄が囁いた言葉の一つ一つは、今も鮮明に残っている。


「俺は、格好いい王でありたいな。父上みたいに優しくて威厳のある。そんな王様になりたい」


「カエリウスは賢いな。俺の自慢の弟だ」


「俺みたいになりたい? うーん、俺はカエリウスほど賢くないからなぁ。カエリウスはカエリウスのままでいいんじゃないか? でも、弟に憧れられる兄王ってのも格好いいな」


「カエリウス、大丈夫だ。俺も父上も母上もいる。守ってやるからな。明日もこうして一緒に寝ような」


 ――何度もカエリウスが襲われる事件が起こると、父と兄はついに謁見の間に大臣や貴族を集め、牽制した。


「たとえ俺を支援しようとする者であっても、弟を害しようとする者は、俺を害しようとしているのと同じだ! 俺は何人たりともそれを許さぬ! 見つけ次第、弟に手を出す者をくびり殺してやる!」


 穏やかな笑顔を持つ少年が見せた、王の片鱗。彼はまだ十七だった。その後の父による苛烈な粛清もあって、カエリウスを狙う手はかなり減った。


 年を経るごとに、カエリウスを旗印にしようという輩も現れたが、それらは彼自身の手で封じてきた。父が退き、兄に玉座が渡り、兄に世継ぎが生まれ、カエリウスが臣籍降下したことで、暗殺の脅威はほとんど消え去った。


 兄と自分は、いつだって二人三脚だった。


「格好いい王でありたい」――それは幼い頃からの、アルベリクの矜持に他ならない。


 カエリウスは寄り添う月を見つめる。

「そんな兄上が望むなら、私も動かざるを得ないだろうな」


 誰に向けるでもなく、彼は静かに微笑んだ。

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