12 理想の王
「助力を求めると言ったのか」
「あぁ」
国王の私室。卓上にはいつものように酒肴が並んでいたが、アルベリクの手にあるのはリンゴジュースだった。カエリウスが嫌がったため、ワインのボトルは全て従者によって部屋の外へ運び出されている。
「セレスタの軍事力は、大して強いわけでもないのにな」
「軍だけならアルブレヒトの方が圧倒的だ。対人戦力もさることながら、あそこには聖力を持つ者がいる。対魔獣戦での優位は明らかだ」
「ふむ」
アルベリクは黄色味がかった液体を寂しげに揺らした。
それを見たカエリウスは、アルベリクに近い方の肘掛けに手を置いた。眉を下げ、呆れながら言った。
「兄上、真面目な話が終わったら飲んでいい。そんな顔をしないでくれ」
「そんな顔をしていたか?」
カエリウスはわざとらしくため息をつく。
「まぁでも、助けを求められたなら応えようじゃないか」
ランプの灯を受けて、アルベリクの青い瞳が輝く。
しかしカエリウスは目を細め、手の茶器を静かに置いた。
「兄上、カムルカは遠い。これまで国交すらなかった国だ。たとえ地図から消えても、セレスタに直接の影響はない。
遠い異国に軍を送るリスクを取るほどの価値を、私は見出せない」
アルベリクはリンゴジュースを一気に飲み干した。
「だがな。助けを求めてきた手を振り払うような王には、俺はなりたくない。お前だって、俺がそんな王であることを望んではいないだろう?」
「……」
「俺は、いつまでも“可愛い弟”に憧れてもらえる、格好いい王でいたい」
「……しかし」
「全面支援は無理でも、何かできることを探そう。カムルカだって、代償なしで助力を求めているわけではないはずだ」
カエリウスは視線を落とす。
だがアルベリクは控えていた従者に軽く手を挙げた。
「ワインを持ってきてくれ」
「……兄上」
「飲むだろ?」
兄の笑顔を見て、カエリウスは小さく息を吐いた。
そのため息には、安堵と、わずかな期待が混じっていた。




