11 覇者の剣
三日後。晴れ渡る空に強い風が吹き荒れる日、カエリウスは再びアストラリオン塔の離れを訪れた。
部屋に入ると、トゥイラが中央に立ち、深く一礼する。
カエリウスは振り返らず、低くアドリアンに囁いた。
「席を外せ」
アドリアンは血の気を失った顔で抵抗したが、鋭い眼差しに射抜かれれば、家臣として否とは言えなかった。イコルとサラナも続きの間へ下がり、部屋には二人きりとなる。
「体調はどうだ」
「その節は……」
黒髪を高く結い上げたトゥイラが、深淵のような瞳で見上げる。
カエリウスは彼女からは距離を取り、立ったまま腕を組んだ。手の小さな震えを彼女から隠すように。
「話したいこと、渡したいものとは何だ。手短に言え」
窓が風に鳴り、雲が陽を覆い、部屋が薄暗く沈む。
トゥイラはカエリウスの前に膝をつき、布に包まれた大きな物を恭しく差し出した。
「お受け取りください。ノパシリの王」
「これは……何だ」
赤布が剥がされ、姿を現す。
全身が闇のように黒い刀。吸い込まれるような深い色は、カムルカ人の瞳を思わせる。
トゥイラはそれを両手で捧げ上げた。
「覇者の剣。我がカムルカに伝わり、ノパシリの王へ授けられるべき剣」
それを静かに見下ろしながら、低くした声で問う。
「貴女が度々口にする“ノパシリ”とは何だ」
「力を持ちし者」
カエリウスは剣から静かに一歩退いた。
「なぜ私なのだ。セレスタの王は兄上だ」
「あの方は人の王に過ぎず。……貴方こそがこれを持ち、神をも恐れぬ力を得るのです」
剣を掲げたまま顔を伏せる彼女が、今どのような表情をしているのか、カエリウスには察することもできなかった。
彼は額に手を当て、青ざめた顔を覆う。
「……時間をくれ。我々には対話が必要だ」
その声は、自ら驚くほど掠れていた。
「王がそれを求められるのであれば」
トゥイラは剣を脇に置き、深く頭を垂れた。
窓が、小さくカタカタと鳴り続けていた。
それは風のせいか、それとも眠れる剣の息遣いか。




