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1  闇の支配

「門を閉じろ!」

「松明を絶やすな!」

「急げ!」


 怒号が飛び交う。轟音をたてて丸太の城門が閉ざされる。高い城壁を取り巻く松明の炎がごうごうと風に揺れ、不安定に夜を照らしていた。

 赤い夕陽が地平線に沈み、人々は息を呑む。――闇が降りれば、恐怖が支配する。


「来たぞ――!」


 地鳴りが大地を震わせ、やがて城門を揺らす衝撃に変わった。

「弓兵、点火! 打て!」

 一斉に火矢が飛び、城外にうごめく影を赤く焼く。呻き声と腐臭が夜を満たす。

「トゥカシたち、構え――放て!」

 次いで城壁の上から火球が撃ち出された。炎の塊が闇を裂き、シリオペを焼き払い、悲鳴のような泣き声を響かせる。


 矢と火球の雨が降り注ぐも、数は減らない。影はなお蠢き、門を叩き続ける。

「次、構え! 打て!」


 兵もトゥカシも祈るように、闇の彼方にそびえるシリカナヌプリを仰ぎ見た。――大地を護る神の山。その力が今こそ目覚めてほしいと願いながら。


◇◇◇


「姫様」

「ウタラ、みんな居るか」

「はい、全員ここに」


 老語り部ウタラの手を取り、カムルカの姫トゥイラは部屋を見渡す。蝋燭の光が漆喰の壁に影を踊らせ、避難してきた女や子供の怯えた顔を浮かび上がらせていた。

 男たちは夜通しシリオペを防ぐため城壁に残り、ここに集った者はただ祈るしかない。


「大丈夫。カムルカの男たちは強い。必ず朝を迎えられる!」


 そう言いながら、自分の声がかすかに震えているのをトゥイラは自覚していた。

 誰もが自分に縋っている。泣くことも、怯えることも許されない。

 胸の奥で膨らむ恐怖を、喉の奥に押し込めるようにしてもう一度言葉を重ねた。


「必ず……朝を迎えられる!」


 声が上がるが、不安は拭えない。皆で小さく固まり、息を殺す。

 トゥイラは小さく息を吐き、祈るように目を閉じた。


――神の導きとなる朝の光が、必ず訪れますように。


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