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【2】

 ゲームセンターは今もちゃんと健在で、様相は外と内、両方ともあの頃のままであった。人の集まり具合まで懐かしい。冷房もしっかりと効いていてありがたかった。

 白を基調とした店内は明るく、勝手に心が輝く。


「さて、来たのはいいけど、何をしようか?」

「出会いの話をしたのだから、やはりあのゲームをやりましょう」

「もう年単位で遊んでないから、上手くできるか不安だな……」

「難易度を下げればいいのよ。毎回難しい曲を選び続ける必要なんてないわ」

「でも、他人に見られているのだから、やっぱり高難易度の曲をサクサクプレイしている様子を届けたくなってしまうよ」

「私はのんびりプレイでもいいと思うけれどね」


 そんなことを話しながら、件の筐体の前へと辿り着く。

 僕は自分のプレイデータが記録されているカードをかざす。続くように、りらりもカードをかざす。

 僕のカードもりらりのカードも色褪せていなかった。


「あ、ごめんなさい(みのる)くん。私、お札しかないわ。後で返すから今は代わりに入れてくれない?」

「喫茶店の会計で全て使ってしまったのかい?」

「家にはあるのだけれどね。でも、お札はたくさんあるわよ。ビンタしてあげましょうか?」

「頼み事があるなら、普通に口で言ってくれればやるよ? もちろん、僕にできる範囲に限るけど」

「ジャンケン」

「それはダメ」


 呆れながら、僕は2人分の硬貨を入れた。




「ヤバイな……明日は腕が筋肉痛になるかもしれない」

「やっぱり簡単な曲にするべきだったのよ」


 リズムゲームに必要なのは音楽的な素養だけでない。体力と慣れも必要であるというのを、プレイ歴が数年以上になってから初めて実感した。


「次は穏やかなゲームがやりたいところだね」

「なら、あれはどうかしら?」


 りらりが指さしたのは、お菓子、飲み物、ぬいぐるみ、フィギュア、キーホルダー、クッションなどなど、たくさんの景品が並ぶ場所。

つまるところ、クレーンゲームコーナーだった。


「おー、いいね。今はどんな景品があるんだろう?」

「チャメくんともここで会ったのよね。あぁ、安心して。チャメくんとは一緒に引っ越すくらいには仲良しよ」

「そうなのかい? なんか嬉しいな」


 チャメくん、というのは僕とりらりが協力して迎え入れたカメレオンのぬいぐるみのことだ。命名はりらり。

 どちらがチャメくんと一緒に暮らすかはそんなに揉めることなく決定した。りらりがいなければ一生経験しないであろうことを僕はしてもらったので、感謝の意も込めてりらりに託したのだ。


「やっぱり、ぬいぐるみがいいかしら?」

「へー、缶バッチなんかもあるんだ」

「あら、バーチャルライバーのフィギュアもあるのね。やっと置いてくれるようになって嬉しいわ」


 りらりの目線の先。

 確かにそこには、とあるライバーのフィギュアがあった。

 彼女は、とても良い人だ。

 明るくて人気者。ゲームスキルも高く、会話は常に面白い。

 彼女は、とても良い人だ。


 だけど、今の僕は――

 今の僕は、彼女の姿を見ると――


「実くん? どうしたの? それが気に入ったの?」

「あ、いや、そういうわけじゃないよ。ちょっと眺めてただけだから」

「なら、こっちに来てくれる?」

「了解。すぐ向かうよ」


 りらりはかなり前にいた。僕の先を、いつの間にか歩いていた。並んでいたはずなのに、僕より進んでいた。

 僕はりらりを待たせないよう、早歩きで彼女の元へ。


「今日はこの子にしましょう」


 りらりが注目していたのは、メンフクロウのぬいぐるみだった。


「モフモフしてて可愛いね」

「実くんが先でいいわ。その方が有利だもの」

「有利って。勝負じゃないんだから」

「いいえ、勝負よ。先に迎え入れた方が相手の要望を1つ聞くということで」


 当然のように言うりらり。

 とはいえ、クレーンゲームの腕前は僕もりらりも同じ程度だ。いい勝負になって、普通に楽しめそうだった。


「そのルールだったら先攻の僕が有利な気がするけど、いいのかい?」

「アームの具合とかがわかれば、後はすぐに私の元にメンちゃんが来てくれるわ」


 もう既に名前を付けていた。


「その前に僕がこの子を抱っこするよ」


 僕は硬貨を入れ、アームを操作する。

 メンフクロウ自体を狙わず、タグに引っ掛けるように。

 という風に考えながらやったのだが、どうにも上手くいかず、僕の1回目は失敗。

 続くりらり。


「同僚に、クレーンゲームが得意な人がいるのよ」


 話しながら、りらりは手をダンスさせる。


「あらゆるパターンを教えてもらったわ。だけれど、実践はしたことがないのよね。でも、多分――」


 アームがメンフクロウをあやす。泣かせず、怒らせず、スヤスヤと眠らせ、いつの間にかりらりが抱っこしていた。


「ということで、私の勝ちね」

「……すごい。練習でもしていたのかい?」

「さっき言ったでしょ? 実践はしたことはなかったって。同僚が遊んでいる様子は見ていたけれど」


 鮮やかだった。そして当たり前になっていて、あることを失念していた。

 りらりは、ゲームをほとんどやらない。それこそ、僕や、その同僚にでも誘われないと自ら手に取ることはないだろう。

 けれど、りらりはあっという間に学習し、成長する。


 楽しい物事で、立ち止まるということをしない。


 僕は、楽しかったはずのものでも、座ってしまうのに。


「さて、実くんに何をねだろうかしら」


 そういえばそういう話だった。

 りらりのことだから無茶な要求はしないだろうが、面倒な場合も余裕である。種類の違うコッペパンを3つ買ってほしいと頼まれたこともあったっけ。


「あまり疲れるようなものは勘弁してくれよ」

「そうねぇ、ゲームを、教えてもらおうかしら」

「ゲーム?」

「それも、ゲームセンターのではなくて、ソフトを。実くんは知っているかしら? この近くに、少し変わったゲームショップがあるのよ」

「変わっているかどうかはともかく、近所にゲームを売っているようなお店なんかあったかな?」


 地元のお店なら何でも知っているわけではないが、己の趣味嗜好的にゲームショップなら把握していそうなものだ。


「多分、実くんの行動範囲から微妙に外れていると思うわ。高校から駅へ向かう道があるでしょ? その反対の道を進んだ先にあるの」

「あぁ、それなら納得だ。確かにあっち方面へは足を延ばさないね」

「いっぱいあるのよ、ゲームが。そこで、実くんのオススメを教えてもらいたいの」

「いいよ。それくらいならお安い御用さ」


 何だか、ワクワクする。本来の意図的には罰ゲームに相当するはずなのだが、人に自分の好きな物を勧めるのなら、嬉しいことこの上ない。


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