純白の裏側で
第一章:交配通知、それは“白”に落ちた影
2044年、国家の「結婚出産義務法」により、
22歳を迎えたLOVEYOUの“純白美少女”担当・**愛夏(まなか/22)**にも通知が届く。
> 【性交対象者】北條 慶/24歳
初回性交義務期限:30日以内
「……けい、さん……?」
彼は柔らかく微笑む好青年だった。どこか懐かしい気がした。
「まなかちゃん、ずっと応援してました。まさか本当に、割り当てられるなんて……夢みたいです」
戸惑いながらも、愛夏は“国家が決めた相手”との同居生活を受け入れていく。
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第二章:管理下での性交と、芽生えた信頼
性交は「管理センター」の指示に従い、衛生・記録・実施状況の報告が義務。
愛夏はその“人間味のない管理”に、恐れと恥ずかしさを覚える。
「こんな……機械みたいに、交わるなんて……本当にこれが、家族の始まり?」
だが慶は優しく、無理に迫ることもなく、
「今日じゃなくてもいいよ」と言って、手を握るだけの夜も多かった。
やがて、静かな信頼が生まれ、期限前夜に愛夏は自ら、
「……お願い、今日だけは、国家じゃなくて、私で選ばせて」と告げ、ふたりは結ばれる。
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第三章:妊娠と、突然のスキャンダル
第一子妊娠が確認され、愛夏はアイドル活動を第一子出産まで一時休止。
心身を整える日々の中、ある週末、全てが崩れる。
週刊誌がスクープを報じる。
> 「LOVEYOU梨花、交配制度以前から“慶”と交際。ホテル密会写真を独占入手」
SNSは大炎上。「裏切り」「制度の私物化」「愛夏がかわいそう」
そして、愛夏の耳にも届く。
「……梨花ちゃんが……慶さんと、“前から付き合ってた”……?」
彼女は吐きそうになりながら、母体を守るため横になることしかできなかった。
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第四章:信じた“純白”の崩壊と決断
梨花からの連絡はなかった。
愛夏は事務所から報告を受け、慶本人からも事実を聞かされる。
「……ごめん。確かに、梨花とは制度以前に……でも、今は君と、家族になるって決めたんだ」
「……嘘つかれて、それでも……私、あなたの子を、産むの……?」
世間の“純白イメージ”を背負ってきた愛夏にとって、それは致命的な打撃だった。
しかし、お腹の中の命は、静かに生きていた。
「……私だけでも、ちゃんとこの子を迎えたい。
白じゃなくなっても、私は、強くなれる」
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第五章:第二子と静かな再構築
第一子出産後、制度により第二子義務が課される。
世間の注目は薄れ、梨花は活動休止のままSNSも閉鎖。
愛夏はメディアに一切出ず、第二子妊娠中も活動は再開せず、静かに家庭を優先した。
慶との関係は「家族」としての形を守り、
愛や恋と呼べるものではなかったが、共同体として育っていった。
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最終章:色のついた私で、生きていく
第二子出産後、アイドル活動復帰会見。
記者に問われる。
「“純白美少女”というイメージに戻るおつもりは?」
愛夏は一瞬、笑みを浮かべてから答えた。
「白は、何色にも染まる色です。
今の私は、少し灰色で、少し赤くて、でもそれを誇りに思います。
またステージに立ちたい。それが“母になった私”の選択です」
観客席には、ふたりの子どもと慶の姿があった。
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―完―